0042 メイドさんのお土産より、私はメイドさんをお土産にしたいね。ずきゅん♪
「しゅくふく!!」
そして俺は乾坤一擲の超絶回復魔法を、瀕死の神官さんに放つ!!
―― ぽう
俺の掌が僅かに光った……えええ!? 今回威力これだけ!? 結局どういう魔法なんだよこれは!
「うっ……うう……」
だがそれで一命を取り留めたのか、神官さんが呻き声を上げた。俺は油断なくひのきのぼうを構えながら、魔族の男の方に振り向く。
「死に掛けの奴と、その程度の回復魔法しか使えない雑魚……しかしこの俺の完璧な計画に狂いが生じた事は気に食わんな」
魔族の男は俺よりも多少背が低く、ガリガリに痩せているように見える。それでも滅茶苦茶危険な相手である事は、雰囲気から伝わって来る。
どうしよう。何か主導権を奪う方法は無いだろうか。何かはったりでも仕掛けてみるか。
「計画? そんな事を言うようでは貴方は何も知らないんですね。今この町には、ある時は蒼き雷鳴、ある時はワイバーンを狩る者、またある時はどんな苦難をも乗り越える者と呼ばれる、名高きあの勇者、蒼き雷鳴のノエラが居るんですよ!」
こいつはただの中二病の若者ではなく、本物の魔族の男だったが、中二病は中二病で別に患っているのか、俺が台詞を回して時間稼ぎをする間、真っ赤な顔を憤怒でますます赤く染めながらも律儀に待っていてくれた。蒼き雷鳴を二回言った事にも気がついていない。
「何? 蒼き雷鳴のノエラだと……!?」
「ええ。彼女はこんな事もあろうかと私をこの場所に配置したのです」
「何ィッ!? こんな事もあろうかとだと!? 蒼き雷鳴のノエラは、この俺の動きを読んでいたとでも言うのか!?」
「ええ、こんな事もあろうかとね! さて。彼女が信頼を置きこの場を任せたこの私が、弱い回復魔法しか使えず、ひのきのぼうしか持っていないただの雑魚かどうか。試してみますか?」
俺は適当にひのきのぼうを握り締め、昔声援を送ったテレビの中の戦隊ヒーロー達のような決めポーズを取って見せる。まあそうこうしている間に神官さんは自分に回復魔法を掛けていくらか回復し、礼拝室の中に居た女子供や老人を外へ避難させ終えていた。
これで俺としての最低限の仕事は出来たと思う。あとはこの局地戦が戦術的に人類側の勝利に終わり、ノエラかラシェルか神官さんが俺を蘇生してくれる事を願うだけだ。
「ククク……」
魔族の男は笑い、爪にべったりとついた神官さんの血を長い舌でペロリと舐め取ってみせる……うわあ、怖いっつーより気持ち悪りぃ。あと、あの爪は生えているのではなく付けている物のようだ。30cmはあろうかという、カミソリのように鋭い恐ろしい爪だ。
「そんな安っぽい挑発にこの俺が簡単に乗るとでも思っているのか! この俺を侮ったようだな、愚か者め」
え? えーと、どういう事? よく解らないが、とにかく魔族の男はまだ攻撃して来なかった。
「冥途の土産に教えてやろう……俺の名はアスタロウ! 旭日昇天の勢いで成り上がる、魔王軍期待の新星だ!」
でで、出たああ冥途の土産! 本当にあるんだそんな台詞! 俺はメイドの土産の方がいいなあ、北海道旅行に行ったんですぅ~とか言われて白い恋人一つ貰って代わりに5千円のスペシャルサービスを注文して、いや今そんな事考えてる場合じゃなかったな。
それで旭日昇天の勢いで成り上がる魔王軍期待の新星だって? つまり今は下っ端って事じゃねえか、物は言い様だな……だけど三下でもこの強さとなると、やっぱり魔王軍って強いんだな。俺、本当にこの世界で活躍出来るのかな……
「……フン。だが俺の名を聞いてもまだそうして立っていられるとは、さすがは蒼き雷鳴のノエラの仲間という所か。そうだな、名前くらい聞いてやろうか」
ともかく赤い顔の魔族の男は、黙り込む俺に鷹揚にそう言った。こいつまだ俺が本物の雑魚だと気づいてないのか。もしかして頭が悪いのか……いや違う、こいつは本当に強くて余裕があるんだ。
「私は……ヴェロニクの使徒ウサジ」
俺はとりあえずそれだけ答えた。
「ヴェロニク……ヴェロニク!? ななっ、なっ……貴様大事な名前はきちんと発音しろォ! とんでもない名前と聞き間違えたではないか! 貴様何の使徒だと言った!? ベロリンクか? メロニクか!?」
突如、赤い顔の魔族の男は酷く動揺して二歩後ずさりをする。
「ヴェロニク様はヴェロニク様ですよ、訳の分からない事を言わないで下さい、私は! ヴェロニクの使徒ウサジ!」
俺が今度は発音ごときで詰られないよう、はっきりとそう答えると、
「ぐはあああっ!?」
赤ら顔の魔族の男は勝手に吹っ飛んで行き、背中から激しく壁に打ち付けられて、もんどりを打つ。いや、俺何もしてないんですけど……?
「さあ見せて貰いましょうか、貴方のメイドの土産とやらを!」
俺はやけくそで、ひのきのぼうを両手で高々と振り上げて構える。