0041 ただし、美人と巨乳はそれぞれ5歳までサバを読んでいいものとします
教会は街の中心にある、さながら城の天守閣のような建物だった。俺の他にもたくさんの町の人々が避難して来ている。
「それじゃあ私は城門へ行って来ます、ウサジさんはここから出ないで下さいね、どうか御願いします、じゃないと私がノエラさんに怒られちゃいます」
「解りましたから……背中を丸めて揉み手するのはやめて下さい……」
俺をここまで案内して来たラシェルは、俺にここに居るよう念を押してから城門の方へとすっ飛んで行く。あの付き人ジャージいくらしたんだろう。見た目はともかく相当高性能な魔法の防具なのでは? 100m10秒切ってるだろ、あれ。
「ここは安全です、皆様どうか御安心下さい」
あれが神官だろうか? いや教会だから神父というのか? こっちの世界の神様制度はよく解らないけれど、多分ここの主だろうと思われる、なんとなく僧侶っぽい格好をしたじいさんが、避難して来た人々にそう声を掛けている。
この世界にはヴェロニクの他にも神様が居るんだよな……つーか、俺、ここに居ていいのかな? 言わば同業他社だろ俺。しかもうちの社長はモグリみたいなもので……昔は老舗だったっぽいけど。
「ねえ、おとうさんもつれてこようよ、いっしょにかくれなきゃ」
「駄目よ、お父さんは町を守る為に戦っているのよ……」
近くで泣きそうな女の子が泣きそうな母親とそんな話をしている……ここ、居辛いな……俺はなるべく壁際に寄り、年寄りのように背中を丸めて佇む。
「お兄ちゃんだって戦ってるんでしょう!? 僕も行くよ、行って町を守る!」
「だめじゃ、お前は戦うにはまだ早い!」
あっちでは爺さんと孫が……孫の方はまだ髪の毛も揃っている子供じゃないか、10歳くらいだろうか。さすがに怪物と戦うのは早いだろう。
だけどあんな子供の兄ちゃんは何歳なんだろう。もしかして13歳くらいだったりするのか? おいおい……俺、本当にこんな所に居ていいのかよ?
駄目だ。今回はノエラの言う通りにするんだ。
だけど……大人の男なんて俺くらいじゃないのか? ここに居るのは女と子供、あとはハゲ散らかったじいさんだけだ。
どうするんだ、外の大人の男達が全滅するような事になったら……俺、ここに居る女全員と結婚しなきゃいけなくなるんじゃないか? いやーちょっとキツいわ、その時は10代と20代の女に限定させて貰うわ。30代は今回はごめんなさい。
俺が人類の繁栄の為の犠牲になる事を覚悟した、その時。
―― ガシャーン! ガシャンガン!
「きゃああっ!?」「何事じゃ!?」
礼拝室の方々で大きな物音がして、部屋を照らしていたランプが、たいまつが床に落ちた。
壊れて床に広がったランプの油に火が移り、たいまつも消えてはいないので、全く真っ暗になった訳ではないが、辺りはかなり暗くなった。そして。
「フフ、ハハハ……闇が、闇が訪れたぞ、魔王様がもたらす清めの闇が、また一つ、穢れた人間共の惨めな砦を飲み込み、無に返すのだ……」
あれは何だろう? 中二病患者だろうか。いや、違う……避難民の中に紛れていた、明らかに怪しい感じの悪趣味な色の外套を被った奴が、立ち上がって……フードを取る……
「ひっ、ひいいいっ!? こいつは魔族じゃ!」
解りやすい! 真っ赤な肌に黒白反転の瞳、頭には四本の角、棘のような髪の毛、そしていかにも悪魔っぽい目鼻立ち! あれが魔族か!
「お、おのれ卑怯な魔族め、皆には指一本触れさせはせぬ!」
神官さんがたちまち神聖なロッド的な物を振りかざし……ええっ、物理で殴り掛かる……!
―― ザシュッ!!
しかし、その先は何の冗談にもならなかった。
魔族が獣のような長く鋭い爪を振りかざすと、神官は袈裟切りに引き裂かれ、跳ね飛ばされて裏返しにされながら、床に叩きつけられ、跳ね上がり、また転がって崩れた。
壊れたランプから燃え移った油に照らされた床に、血だまりが広がる……
「し、神官さん!?」「しんかんさん!」
「ククク……こいつを倒せば外の人間共も復活出来まい」
何だと!? そんなのはずるい、反則だ!
「み、皆……に……げ……」
神官は致命傷を受けていたが、最後の力を振り絞りそう言った。
「フハハハ、殊勝な奴め。その心意気に免じて、すぐ楽にしてやろう」
魔族の男は、残忍な笑みを浮かべながら倒れた神官に近づく。
俺は俺で叫び声を上げて真っ直ぐに近づく程の正直者ではなかったので、逃げ惑うふりをして周囲を迂回して神官の元に急いでいた。