0039 まあ俺は、明るく楽しくエッチが出来たらそれでいいんだけど
次に現れた蟹のモンスターは中々に厄介だった。殻が固く、俺のひのきのぼうではほとんどダメージを与えられないのだ。おまけに時間が経つと仲間を呼んで増えて行く。
「しかもこいつら食べても美味しくないんだ、御願い、ウサジは下がって身を守っていて!」
ノエラが叫ぶ。さっきのノエラのファンブルも、後方に下がらない俺を守ろうとしてぶつかってしまったんだよなあ。
彼女達が言ってる事は解るんだけど……俺はいつまでも女の子達に守られる弱い男で居たくない。だってそれじゃエッチ出来ねーじゃん。
「敵は私を狙ってます、上手く利用して!」
「だめだよウサジ下がって!」
ノエラはそう言うが、俺はしたたかな動きで蟹共を誘導する……そして集まった蟹が三体、まとめてラシェルの火炎魔法の餌食になる。こいつら本当に不味いの? 割といい匂いがするんだけど。
俺が一瞬そんな事を考えてしまった、その時。
「あっ……!」
俺は既に倒されていた蟹の亡骸に足を引っ掛けてバランスを崩す……まずい、体高1m超の蟹型モンスターの大きな鋏が迫る!
「ウサジ!」
この声はクレール、そう思う間もなくムオッ!? 柔らかく温かい物に視界を塞がれた俺は地面を転げ回る!?
―― ザクッ! ゴボボボ……!
俺に襲い掛かろうとしていた蟹が斬られて泡を吹く音がする……
―― ゴォォォ!
それからまた炎魔法の音と、ラシェルの「片付きましたよ」の声が。だけど俺は地面に仰向けに倒れていて、顔には柔らかくて温かい物が覆い被さっていて周りの様子が全く解らない。
「怪我は無いか」
柔らかい物が離れて行く……ああこれはやはりクレールの推定Fカップのぼいんぼいんだった……クレールさん、今日もうっかり胸甲をつけ忘れたの?
「ウサジのおかげで戦い易かったぞ、だけど蟹共が自分を狙ってるとどうして解ったんだ?」
クレールは俺の上で四つん這いになったままそう言った。彼女の桃色がかった長く艶やかな銀髪が、カーテンのように俺の顔の周りを覆っている……世界には俺と、微笑みを浮かべるクレールしか居ない……
「え、ええ、奴等も装甲の薄い私を、一番の餌だと思ったのでしょう」
「ウサジは勇敢だな……だけどウサジに万一の事があったら困る。あまり前に出ず、私の後ろに居てもらう訳には行かないだろうか……?」
クレールは膝を立てているので身体的にコンタクトしている所はもう無いのだが、こうも完璧なプロポーションのクレールにこうも完璧にマウントされてしまっては、俺の男のプライドも形無しというものだ。いいぜベイベー好きにしな。
「クレール! そ、そんな言い方はウサジに失礼だよ! ウサジはか弱い者なんかじゃない!」
そこへ飛んで来て涙声で叫んだのはノエラ……うーん。俺はノエラも好きだけど今はちょっと邪魔しないで欲しいなー。もう少しの間クレールと二人きりにしてくれない?
「私はそんな事は言ってない。だけどウサジの防具は今もぬののふくだけなのだ」
「それはッ……! パーティの資金繰りが上手く出来てない僕のせいだ……」
クレールが立ち上がってしまう……あーあ……もう暫くこうしていたかった。クレールは俺の手を引っ張り、立ち上がらせてくれた。
「ウサジが防具を整えるまでの間、私はウサジをガードしようと思う……いいだろう? ノエラ」
クレールは謎めいた笑みを浮かべてそう言った。
ノエラは何かを言おうとして口を開いては閉じ、腕を上げては下げ……逡巡していたが、やがて少し肩を落として答えた。
「わかった……ウサジのガードはクレールに任せるよ」
旅は再開された。クレールはずっと俺の近くに居た。
俺は最初、機嫌の悪いクレールが近くに居る事に緊張していたが。
「ウサジは短い間に本当に強くなったな、その様子だと私もうかうかしていられない、凄いな、ウサジは」
クレールの機嫌は良くなっていた。むしろ今までで一番いい。
だけどクレールの機嫌が良くなるのと引き換えに、ノエラがますます静かになってしまった。彼女はラシェルに代わり先頭に立ち、荒れた道を警戒しながら黙って進んで行く。
俺は少し反省していた。勇者ノエラが下がって身を守れと言ったのだから、パーティの仲間キャラクターである俺はそうするべきだったのだ。
パーティのリーダーって、口で言う程簡単じゃないよな……ごめんな、ノエラ。