0036 やっぱりペチコートかなあ……何か綿の質感じゃなかったよなあ……
「ラシェルさんッ!? どうしたんですか!」
俺は勿論急いで立ち上がり、ラシェルを助け起こそうとする。だけどラシェルは……幸せそうな顔をして眠っている……?
「ノエラ! こっちだノエラ!」
クレールはすぐに戻って来て、大声でノエラを呼んだ。ノエラは店の外に出ようとしていたが、慌てて戻って来る。
「な……何が起きたの、これは!?」
「それはラシェルに聞かないといけないようだ。ノエラはジョッキを片付けて店の人にお詫びして来てくれ。私はラシェルを連れて行く」
クレールはそう言って俺の腕からラシェルを引き取り、肩に担ぎ上げる……あっ、今一瞬チラッと見えた! あれは白だ、良かった。白系だ……いやあれは本当にパンツだったのか? ペチコートの一部だったかも……
「すみません、雑巾を貸して下さい!」
ノエラは気を取り直しカウンターへ飛んで行く。ラシェルのジョッキ一杯分のビールは床に派手に飛び散ってしまった。
「あの、お待ち下さい、今、一体何が!?」
「ウサジのビールと焼き鳥は安全だ、最後まで楽しむといい。明日、この店の前で落ち合おう。今夜は私とノエラには、やらなくてはいけない事がある」
クレールはそれだけ答えて、ラシェルを担いだままどこかへ行ってしまった。ノエラも飛び散ったビールを片付け、店の人にお詫びを言うと、俺には何も言わず店を飛び出して行く。
俺はダークエルフのお姉さんを探しに歓楽街へ行こうかとも思ったが、今日はビールを一杯飲み焼き鳥を二本食べて、それで終わりにする事にした。
◇◇◇
その夜。俺は生徒会室に居た。目の前にはやはり古風な上下紺のセーラー服のヴェロニクが居る。
「ごめんなさい」
今日は俺が責められる側だと思っていたのだが。ヴェロニクは俺を見るなり、開口一番そう言った。
「ウサジは何も悪くないのよ。詳しい事は言えないわ……私、ウサジに……自分が人に告げ口をするような女神だと思われたくない……」
「こんな所で面倒臭さを発揮しないで下さいよ、御願いしますヴェロニク様、私に何が起きたのか教えて下さい」
ヴェロニクはスマホを取り出して見始める。
「ヴェロニク様! 人と話している時にスマホを見るのはマナー違反ですよ! ちゃんと信者と向き合って下さい!」
「ち、違うの! ウサジは知りたいって言うけれど、私はそれをどう説明していいか解らなくて!」
「そのスマホに映ってるんでしょう!? 何があったのか! 見せて下さい!」
「だめえ! これは見せられないわ! 見せられないの!」
生徒会室の真ん中には長い折り畳み机が二つ連ねてある。俺は逃げるヴェロニクを追い掛け、机の周りを三周した。俺の方が若干足が速いが、ヴェロニクが椅子を引き出しながら逃げるので追いつけない。
「俺がラシェルに何かしたのかしてないのか、それだけでも教えて下さい!」
「それも無理!」
「何故ですか! 貴女は……」
俺の事を24時間監視しているヤンデレ女神ではなかったのか? 俺はさすがにそう言ってヴェロニクに迫る事を躊躇する。
「そうよ! 私が! 私がウサジの事、宇宙一愛してる! 私よりウサジを好きな存在が居るなんて絶対に認めない! だけど……だけど……」
ヴェロニクは息を荒らげ俺を見てそう言った。そして次第に俯いて行く。
「だけど私、あの世界も守りたい……守りたいの……」
そう言ってヴェロニクは屈み込み、慟哭する。
「……すみませんヴェロニク様、私が間違っていました」
俺はそう言って、ゆっくりとヴェロニクから離れる。
「何が起きたかなんて気にするのはやめにします。そしてあのパーティを守ります。世界を魔王の手から救う為、貴女をあの世界に戻す為。それが一番大事な事です」
ヴェロニクは突然顔を跳ね上げ、机の下を這って来て俺の膝にすがりついた。
「待ってウサジ! 違う、違うの話を聞いて!」
「もういいです、もういいですから」
「私、自分があの世界に戻りたいからって、その為にこんな邪な企みを見過してる訳じゃないんだから! 本当は嫌なんだから、貴方の身体が! こんな風に、あんな変態に穢されるなんて!!」
まだスマホの画面と俺の顔を見比べているヴェロニク。だから一体何があったんだあああ!?
「ああっ、違うの、世界を魔王の手から救いだしてあげたいのは本当なの! だけど私はその事ですら、ウサジがワイバーンを倒すまで忘れていて……それに……いやぁあああ!」
突然黄色い悲鳴を上げて床に倒れ、雨上がりのミミズのようにのたうち回る女神、ヴェロニク。
「私には! 私には言えない、ウサジの身体に興味を持つあまり酒に睡眠薬を混ぜて飲ませ、最初は睡眠薬の効き具合を試す為眠らせるだけに留めてたけど、次第にエスカレートしてついには眠らせたウサジを納屋に運び込んで上半身の服を脱がせて体中舐めまわした女賢者が居るだなんて、だけどウサジは知ってるでしょう、ウサジの夢の中に忍び込んで、貴方の身体を自由にしようとした、破廉恥な女神の事を……! 私には……私にはあのウサジの身体に興味深々で夜な夜な性的悪戯をしようとしていた女賢者を告発する資格なんて無いのよ!」
「全部言ったー!?」