0032 僕の股間のこたつを見て。こたつなんて無い? よく見て、ちんこたつから
それから旅は再開されたが……俺は針の筵の上に居るような心地で居た。パーティの雰囲気が、明らかに昨日と違うのだ。
―― ごちそうさまでした。それじゃあウサジ、また明日
―― 今日はたくさん怪物を倒して疲れたろう? ゆっくり休んで欲しい
ノエラもクレールも昨夜明るくそう言って微笑んだ二人ではなくなっていた。俺をやや遠巻きに見ながら……黙ってついて来る。
そしてラシェルはと言えば。
「……」
時折、俺の隣に並び掛けるくらいまで近づいて来る……! 何か言いたいのか!? 言いたい事があるのだろう、俺の胸に突き刺すべき言葉が! 俺はただ、青ざめた顔を前に向けているしかなかった。
空気が、重い。
俺達は昨日まで、それなりに明るいパーティだった。ノエラもクレールもラシェルも、魔物に襲われる心配の少ない見通しのいい場所では、季節の花や小鳥の話、子供向けのお伽噺や伝説の話、美味い物や洋服の話で盛り上がりながら、賑やかに歩いていたのだ。
それらは俺には興味のない話ばかりだったので別に面白くはなかったが、そんな楽しそうな女の子達の様子を後ろから舐め尽くすように視姦しているだけで、俺はある程度満足していた。
いや、自分では満足していると思い込んでいた。
だけど本当は、俺は欲求不満を抱えていたのか。エッチなジョーク一つ言わせて貰えない共学の私立校の修学旅行のような健全な旅に苛まれ、やり場の無い男のマグマを溜めこんでいたというのか。
「ウサジ……一つだけ、いいだろうか」
クレールが口を開く。その声は明るくいい感じになって来た最近のクレールのものではなかった。俺と出会ったばかりの、警戒感MAXの頃の声に似ている。
「ウサジの……ヴェロニク様への想いも、聖職者としての使命感もよく解る、だけどやはり、一人で黙って夜明け前の森のような、危険な所に行くのは……出来ればやめて欲しい……」
俺は足を止め。恐る恐る、後ろを振り向く……クレールは真剣な目で俺を見ている……そこへ。
「クレール! ウサジの気持ちも考えてよ!」
ノエラが。これも普段の何事にも遠慮深く仲間の気持ちばかり考えているこの子には似つかわしくない、強い調子でクレールに抗議する。
「ウサジは僕らに守られるだけの男の人なんかじゃない、立派なヴェロニク様の聖職者なんだ、いつまでも僕らが保護してるみたいに言うのは失礼だよ!」
「なっ……私はそんな事は一言も言っていない! パーティの誰でも同じだ、単独行動は危険だと思うのは当然だろう! 何の為の仲間なんだ!」
「ぼ、僕だってそういう意味で言った訳じゃ……でも、危険な所へ行くななんて言うのは」
「やめて下さい」
突然の二人の諍いに、あまりに驚いた俺が口を開く事も出来ず立ち尽くしていると。ラシェルが近づいて来て……俺の腕を取る……
「ウサジさんにとって、二人が言い争う事より悪い事なんてありませんよ。ウサジさん、二人とも気持ちは同じなんです、ウサジさんを尊敬もしてるけど、心配もしてるんです」
さすがは賢者という所か……ラシェルはそう言って二人を仲裁する。ノエラとクレールはそれぞれに俯く。
「ごめんなさいクレール、僕が変な風に考えたから」
「私もノエラの気持ちが解らない訳じゃない。すまん」
二人はそう言って握手する。ラシェルは俺の腕から、そっと手を離す。
俺は思わず、ラシェルの顔を見てしまった。
「大丈夫ですよ、ウサジさん」
ラシェルはそう言って、微笑む。かっ……可愛い……何だこの可憐さは……って、俺は何を考えているんだ!? あんな事があった後にまだ!
俺は慌てて前を向き、再び歩き始める。だけど目を閉じれば思い出してしまう……あのろうそくの炎に照らされた……着衣の! 着衣の乱れたラシェルの姿が! あの乱れ方は完璧だった、胸元や太股はいい感じに覗いているのに大事な所は一つも見えん、あれは一つの、完璧な着衣エロだった……!
何考えてるんだ、何考えてるんだ俺、ああっ、もういっそチンコなんか飛んで行け! 羽ばたく金玉と共に、ちょうちょになって飛んで行け! うそですやめて下さい神様。
ノエラとクレールは一応仲直りをしたはずなのだが、その後も二人はまるで口をきく事もなく歩き続けていた。重い……空気が重苦しい……ていうか、二人とも何で今日はそんなに機嫌が悪いの? もしかして、俺のせいではないの?
ノエラもクレールも、お互いへのわだかまりはないとは思うんだけど……話すきっかけが無いのかなあ。
街道は昨日までと違い、拓けた畑や牧草地の間を続く広い道になっていた。他の旅人とすれ違う事も多い……こんな時に限って魔物が現れないというのも辛いな。