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0031 こんな朝だけど、まずは先に立つモノをなんとかしないといけないな

 俺はそのまま一睡も出来ず、一晩中納屋の中で震えていた。体は強張こわばって動かず、眠くて仕方が無いのに、全く眠る気になれない。


 ノエラとクレールに殺されるとしても、せめてラシェルとのハニーハントの思い出があればなあ……男の本望という事で、笑って死ねるのだが……


 ……


 駄目だ。俺は金玉はでかいが肝っ玉の小さい男だった。

 俺はどうしちゃったんだ……本当にラシェルに何かしてしまったのか?

 確かに俺は女に飢えているし見境がない。だけど、だからってあんな……ラシェルのような優しくて幼い女の子に即ハメボンバーを見舞う、理性の欠片も無い野獣だったのか?


 それでもラシェルは俺をかばった。俺をかばってノエラとクレールに嘘をつき、俺がこの納屋に居た事も、どんな事をしたのかも隠してくれた。恐らく、ノエラの勇者パーティの平和を守る為に。

 こないだのあの金髪キザ野郎のパーティのジュノンと同じだ。魔王を倒し人の世を救う為、自分の痛みを我慢して仲間の為に尽くしているのだ。


 畜生。涙が止まらねえ。

 俺は何の為に、この世界にやって来たんだ……



   ◇◇◇



 東の空が僅かに明るくなり出すのを見計らい、俺は納屋を出た。ここは宿屋から少し離れた、人気ひとけの無い場所だった。

 地面の上には微かに、何かを引き摺って来たような跡がある……トホホ……これが宿屋まで続いてるんだろうなあ。

 待てよ? 俺は昨日何をしていたんだっけ? 四人で飯を食って、それから……駄目だ、その後を思い出せない……いや、今はその事は考えない事にしよう。


 宿の食堂には敵と戦う時に使う方の俺の武器、ひのきのぼうが残されていた。残念だが、こだからのぼうの方はしばらく封印しようと思う。

 俺はひのきのぼうを手に、宿場町を出て昨日歩いて来た森の中へ向かう。



 森に分け入り、宿場町が見えなくなる頃には、辺りはいくらか明るくなっていた。恐らく日の出までが勝負の時間だ。さあ、いつでも来い。


―― ガサガサ、ガサ。


 出やがった。しめじソルジャーだ、一度に4体……昨日は2体までは一人でも無傷で倒せたが、4体だとどうか……まあ多少の怪我は仕方ない、あの槍なら致命傷を負わされる事は無いだろう。


―― ニマァ。


 しめじソルジャーが小さな口を開けて笑う……こいつらも俺をひのきのぼうしか持っておらずぬののふくしか着ていない雑魚だと思っているのか。だけど俺のレベルは既に10、攻撃力も防御力もそのへんの駆け出し戦士より上なのだ。


「しめじはしめじらしく……黙ってスープの具になるがいい!」


 俺はひのきのぼうを振り上げ、しめじソルジャー達に襲い掛かる。

 しめじソルジャーは弱い人間をどうにか倒すと、穴を掘ってその場に埋めて大地の養分にする、森の掃除屋でもあるらしい。万一一人で戦っていて敗北してしまうと死体の発見が困難となり、蘇生出来なくなる可能性が高い。



   ◇◇◇



「おお、これはまつたけ! まつたけではないか! まつたけは高く売れるから高く買うぞ!」


 俺は日の出頃には宿場町に戻っていた。

 朝市に持ち込んだまつたけサージェントの亡骸は、しめじソルジャーの30倍の値段で売れた。しめじソルジャーの3倍の速さで移動し強烈な突き技を放って来る、本当に危険な奴だった……俺も正直6割くらい死を覚悟した。

 しめじソルジャーも全部で13体倒したしそいつらの亡骸も全部持って来た。俺はそのうち10体を売り、その金で鍋釜を借り、他の野菜や塩、まきを買ってしめじ雑炊ぞうすいを作った。


「市場の皆さん! 私は女神ヴェロニクの僧侶ウサジと申します! 本日は魔王の影迫るこの世界で心ならずも貧しい暮らしをされている方々の為に、ささやかな炊き出しを用意させていただきました! お代も寄付も要りません! どうかこちらに来て、お召し上がり下さい!」


 異世界にも貧富の差はあった。いや、より死が身近にある世界だからだろうか、子供や老人など、弱い立場の貧しい者が本当に多い。


「ヴェロニク様?」「聞いた事がない……」

「それで結構です、仕方がありません、慈悲の女神にして、邪悪を打ち破り光をもたらすヴェロニク様の名前は、200年もの間忘れてられていたのです」


 俺は集まった貧しい人々に雑炊を振る舞いながら、そう訴え続ける。


 その間も、俺の頭の中はずっと一つの後悔で一杯だった。


 ごめんなさぁぁい! 幼気(いたいけ)少女ラシェルに手を出してしまってごめんなさい、お許し下さい神様仏様ヴェロニク様、いい所もあるんです、こんな俺にもいい所もあるんです! 例えばそう、雨の日に捨てられたダンボールに入った子猫にそっと傘を差し掛けて、雨が止むまで一緒に居るような! ワルだけどそんな意外な一面もあるんです! だからどうかお許し下さい!


「今はどうか皆様の心の片隅に、その名前を留め置いて下さい、ヴェロニク様はきっと戻って参ります、そして人々の暮らしを助け、この世を覆う魔王の影を打ち払って下さいます。さあそこの子供達も、どうぞこちらに来て一緒に食べなさい」


 鼻水を垂らしたきったねえガキ共……いや、貧しい子供達が集まって来る。俺はやはり借りて来た木の椀に、雑炊を注いで渡してやる。そこに、ノエラが大慌てで駆けて来る……!


「ウサジ! ごめんなさい寝坊して、ねえ、僕は何から手伝えばいい!?」


 俺は内心ラシェルの事を言われないかとビビりまくっていたが、どうにか冷静を装って薄笑いを浮かべる。


「ノエラさんは寝坊なんかしてませんよ。これはヴェロニク様の使徒である私の勤めですから、お構いなく」


 ―――――――――


 ウサジ

 レベル12

 そうりょ

 HP37/89

 MP18/18

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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