0029 なあにいつもの事さ、俺のせいじゃないしこのエンジェルのせいでもない
「ウサジ……ウサジ!!」
ああ、今夜もヴェロニクの世界に呼ばれたのか……
あれ? だけどどうしたの、何も見えないんだけど?
画面がずっと真っ暗なAVとかさすがに無いだろ……いやいや、毎度AVとは限らないわ、俺のHDDにだって一応色んなファイルがあったはずだ。
「起きなさいウサジ! どうして!? 私、貴方が嫌がるから……貴方が嫌がるから頑張って、貴方の夢枕に立つのを我慢したのに、貴方に言われた通り、他の信者の様子を見に行ったのに、その間にそんな……そんな事をしてるなんて……!」
ちょっと待て。ヴェロニクは何を言ってるんだ?
「ヴェロニク様、どちらにいらっしゃるんですか? 私が何をしたとおっしゃるんですか、ヴェロニク様……?」
次の瞬間、俺は真っ暗な中でヴェロニクに両肩を掴まれた。
「とにかく! 起きなさいウサジ!!」
―― ガーン!!
何だかんだ言って大人しい印象が勝り、暴力と言えばアイスピックで心臓を刺すくらいの事しかしないように見えるあのヴェロニクが、前頭部に頭突きをかまして来るとは俺も予想出来なかった。自分も相当痛いと思うんだけどなあ、あれ。
◇◇◇
「うー……」
俺は目を開けようとしたが、何故だろう、瞼がとても重くて、なかなか開かない。
それで代わりに手足を動かしてみようとするが……これがまた全然思うように動かない。体が重い……まるで誰かが体の上に覆いかぶさっているみたいだ……!
「むむぅ、むう……」
さらに声を上げようとしてみるが、声もまともに出ない……俺はどうしちまったんだ? だけど少しずつ感覚が戻って来た……体の上に何かが乗っているような感覚も消える……!
「むはあっ!」
俺は気合を入れて上半身を跳ね起こす。ここはどこだ? 目は開いたのにまだ真っ暗だ……微かにろうそくが燃えた時の臭いがするが、ろうそくは見当たらない。
スマホがあればすぐ明るくなるのになー。ある訳ねえ。あ。でももしかしたらあの魔法が使えないか?
「しゅくふく……」
俺の掌が、白く輝き出す……ジュノンを治療した時とは全然違う感じだな……でもよく考えたら、いつかノエラを治療した時はこの程度だったかも。俺の魔法ってどうなってんだろ結局。唱える度に威力が違うような。
まあこのくらいの灯かりでも周りを見るのには使えるだろう。ここは納屋の中だろうか? 俺が寝ていたのは積み上げた藁の上っぽい。
ん? 他にも誰か倒れてるぞ? 俺はそちらに手をかざす……
「う、うーん……」
「え……!?」
そこに居るのはラシェルだった! 俺と同じように藁の上に横たわり、少し苦しそうに身をよじっている!? 一体どういう事なの!?
「ラシェルさん!? 大丈夫ですか!?」
俺は「しゅくふく」を使っている途中だったので、それをそのままラシェルに掛ける。「しゅくふく」の光で具間見えたラシェルは白いブラウスにヒラヒラのワンピースドレスを着た女の子らしい食べちゃいたい女の子で、このお膳立てならファイブフォースリートゥーワンで緊急出動してしまっても良かった、良かったのだが……! 俺が「しゅくふく」を掛けているという事は、ヴェロニクは今確実に俺を見てるという事になる。
「しゅくふく!」
俺はラシェルに掛けて消えた呪文を、明かり取りの為にもう一度唱える。だけどこんな魔法の使い方無いよな、きっと俺のMPはどんどん減っているに違いない……何か無いのか……ん? やっぱりろうそくがあるじゃないか、消えているけど。だけど俺には火をつける手段が無い。
「火種、どこかに火種はありませんか、」
俺は動揺しつつ辺りを見回す。何なんだこの展開は、だけど火種なんてある訳ないじゃないか、そんな急に。
「あ、あのウサジさん、火なら私が……」
ラシェルがそう言った。そうか、この世界の魔術師ならチャッカマンなんか要らないのか。俺は台付きのろうそくをラシェルの方に近づける。彼女は小さく呪文を唱えて、その先に火を灯した……
「……」
意外な程明るいろうそくの光が、「しゅくふく」よりはっきりと周りを照らす。
ラシェルの着衣は、明らかに乱れていた。