0028 お嬢さん、この赤いネクタイを一つ下さい。すぐ使うので袋は結構
読んで面白いと思ったらブックマークしてね! 評価も入れていただけたらとっても嬉しいです!
丸一日歩いてようやく辿りついた村には、建物ごと男女別になっているつまらん宿があった。そこで一泊した俺達は翌日、村長の所へ挨拶に行ってみた。
しかしこの村にあったクエストは例の金髪キザ野郎のパーティが全て片付けてしまったそうで、村人は今の所何一つ困った事もなく平和に暮らしているという。
逆方向に進んで来たんだな、あいつらは。まあ暫くは会わずに済みそうだ。
昨夜はヴェロニクも出て来なかった。また女神の魔法陣の事を言われるのを恐れていたのだろうか。おかげで久し振りに普通の夢を見ちゃったよ。
つまらん夢だったなあ……俺は新幹線から降りる時に座席に服を忘れてしまい、平日午前八時の東京駅のホームに全裸で立っていた。
普通の人間ならどうするのだろう? 俺はそのまま駅中のブティックを訪れて、ネクタイを一つ買って締めた。
◇◇◇
しかしこうも平和だと、俺の気持ちは中弛みになっちまう。基本的に俺は勤勉とは程遠い性格だし、何をやっても長続きしない性質なのだ。
ノエラは次は大きな町へ行くと言う。途中には何箇所か宿場があり、その間には農地や草原、森林があるというが、道中はそこそこ整備もされているし、他の旅人の姿も少なくなかった。
魔物も居るには居る。しめじソルジャーは細い手足の生えた巨大しめじで、槍を使って攻撃して来る。まあ、巨大と言っても背丈は40cm程度なのだが、増殖が早いのでなかなか根絶出来ないのだとか。
「このくらいなら! 私にでも!」
俺はひのきのぼうを揮い、奴らの傘をぶっ叩いて粉砕する。奴らの槍は木の枝を削っただけの粗末な物で、余程数が多くなければ何の脅威でもない。
「すごいよウサジ! どんどん戦闘力が上がって行く!」
「ウサジは修行にも熱心なのだな! それでこそ私達の仲間だ!」
ノエラとクレールは、しめじソルジャーが1、2匹で出て来ると敢えて相手をせず、俺に出番を譲ってくれるし、倒すと褒めてくれる。俺は単に弱い魔物を倒すのが楽しくてやってるんだけどね。
「だけど、ウサジさんの装備は一般人並みなんですよ、相手はあれでも魔物なんです、大きな町で鎧を買うまで、ウサジさんは前に出ない方がいいですよ」
ラシェルだけはそう言って心配そうに俺を見つめる……あー、やっぱり可愛い、女の子はこうでないとって部分が、ラシェルにはあるよなー。エッチしたいなあ。
この子は前に、ちょっとおかしな事をしているように見えた事もあったけど……あれはきっと何かの見間違いだったんだと思う。
宿場町についた俺達は、俺が道中で粉砕して来たしめじソルジャーの亡骸を詰めた袋を、市場に持ち込んだ。
「あーハイ、しめじね、しめじ」
奴らの体は普通に食えるらしい。スープの具になるそうだ。俺の手には一握りの銅貨が手渡された。酒が一瓶買える程度かな……俺、9匹も倒したんだけど。
「それはウサジのお小遣いだね! 大丈夫、宿代はちゃんと別に払うから」
そしてまた夜が来る……なんかいきなりマンネリ化して来たなあ。
異世界ってもっとこう、強烈な物かと思ってたんだけどなー。
今日も宿は男女別だ……やっぱりあの野宿がチャンスだったんだな。あーあ。次に野宿出来るのはいつなんだろう。
ていうか俺、何であいつらに「宿屋に泊まると、体力が回復しますぞ」という秘密を教えてしまったんだろう。それを教えてなければ、あいつら今でも野宿ばかりしていたのでは?
宿の食堂で、俺達四人は行儀良く飯を食う。例によって周りのハゲ……いや、男共は美少女三人と一緒に飯を食っている俺を羨ましそうにチラ見して来る。
いや見ろよ、こいつら本当に静かに飯食ってるだけだぞ? 全くどんな育てられ方をしたらこうなるんだ、せっかくの飯時にエッチなジョークの一つも言わないだなんて。親の顔が見てみたいわ。
「ごちそうさまでした。それじゃあウサジ、また明日」
「今日はたくさん怪物を倒して疲れたろう? ゆっくり休んで欲しい」
ノエラとクレールはそう言って寝室へ去って行く……あー健全過ぎてつまらん。
裸で表通りでも走り回ってやろうか? どうせ異世界だしおまわりさんなんて居ないんじゃないの? いや別に、俺にストリーキングの趣味は無い。
そうして俺が、自分の小遣いで買った酒を一人で飲んでいると。
「ウサジさん、ここいいですか?」
あれ、ノエラやクレールと一緒に寝室へ行ったはずの、ラシェルが戻って来た。そしてたった今まで一緒に飯を食っていた席を示す。
「ええ勿論。どうしたんですかラシェルさん」
何だか一番酒場っぽくない子が帰って来たなあ……あれ? 俺前にもこんな事を考えた事があったような……いつだっけ……
「えっと……今日はお小遣いでお酒を買われたんですよね?」
今日は? あれ? 俺が前に酒を飲んだのっていつだっけ……何でだろう、あれもこれも思い出せない。
おっと、ラシェルが俺を見てる。
「ウサジさん……ごめんなさいっ!」
「へ? いきなりどうしたんですか」
「そのお酒、一口だけ私にも分けてくれませんか!?」
ぷっ……! 俺は吹き出しそうになるのを堪える。ラシェルは顔を赤くして肩をすぼめ、両手を合わせて照れ笑いを浮かべていた。
「何ですそのくらい、普通に言ってくれたらいいのに」
「だって、これはウサジさんが倒したしめじソルジャーを売ったお金で買った、大切なお酒じゃないですか……」
「そんな大切なお酒だから、仲間と分かち合いたいと思ってたんですよ、私も。ああ座っていて下さい、カップを借りて来ますから」
俺は席を立ち、ラシェルの分のカップを借りる為、食堂の奥に行く。何だ、ラシェルは飲みたかったのかー。それじゃあ飲んで貰おう、そしてぐっすり眠って貰ったら、そのへんの納屋にでも連れ込まれて貰って、思う存分ハフハフペロペロさせて貰おう。
俺はそんな気持ちを紳士的なマスクの下に隠して、カップを持って戻って来た。
「それじゃあ私からも御願いします、私が初めてパーティの為に魔物を倒した事、一緒に祝って下さい」
「はい! いただきます! ウサジさんもどうぞ!」
俺は一口、赤ぶどう酒を飲む。ああ、美味い。
何故だろう。俺はこの前野宿をした時も、ラシェルに薦められて酒を飲んだような気がする。あの時の俺、何で二晩続けて朝まで爆睡しちまったんだ……?
「あら? 大丈夫ですか? 大丈夫ですか……」
俺の目蓋が勝手に閉じて行く……ラシェルの声が……遠くで聞こえる……
いかがですか!? ブックマークするに足りる作品でしょうか!? 御願いします! ブックマークして下さい!