0275 お別れは突然に
「砕けた魔王魂が消えました! お前たちは見ませんでしたか!?」
「え、ええっ、あの、だけどウサジさん、それは本当に消えたんじゃ……?」
ノエラは目を丸くして辺りを見回し、勇者の剣を拾い上げて言う。確かに周りでは山を覆っていた瘴気が薄れ、怪異共も少しずつ姿を消して行っている……魔王魂も消滅していてもおかしくないのだが。
クレールとラシェルは、そもそも魔王魂が勇者の剣の串刺しになっているのを見たのだろうか?
「クレール、ラシェル……」
その瞬間、俺の脳裏に何かが閃く。俺は懐からジュノンが持たせてくれた大変高価だという魔力を回復する薬を取り出して飲む、そして、
「しきそくぜーくうくーそくぜーしき」
「きゃあ」「きゃああ」「きゃあああ!?」
俺が軽くおはらいを唱えると三妖怪はたちまち転げ回る、何という事だ……こいつらが煩悩を克服したのではない、俺の魔力が尽きていたのだ。さっきのあれは、俺が心を込めてお経を読んだのに過ぎなかったのだ。
勇者の剣に打ち砕かれ刺し貫かれながらも、魔王魂は完全には力を失っていなかったのか? わからん、だが嫌な予感しかしない!
「ノエラ!」
「はいウサジさん……きゃああ!?」
俺はノエラに背中から抱き着き、その腰に足を回し無理矢理おぶさる。ノエラは驚いて悲鳴を上げる。
「ウサジさぁん嬉しいけど仲間が見てる時は恥ずかしいです」
「雲を呼んで飛びなさい! 早く!」
「えっ、あっ、はい!」
ノエラは頬を染めて狼狽していたが、すぐに俺が何を言ってるのか解ったらしく、離れた所に待機していたゆうしゃクラウドを呼び寄せる。しかしノエラが俺をおぶったまま雲に飛び乗る、その寸前に。
「ウサジさぁぁん!!」
ラシェルが、俺の背中に飛びついて来た。
「離れて、ラシェル」
「嫌です!」
俺はすぐそう言ったが、(謀略を使う時以外は)いつもいい子のラシェルが今日は聞かなかった。
「嫌な予感が止まらないんです、行かないで下さいウサジさん、ノエラさんもウサジさんを止めてください、ウサジさん、どうしても行くなら絶対私も連れてって下さい!」
「二人も背負ってたらノエラも動き辛いです、やめなさい! ちょっと偵察をするだけですから!」
「……私もイヤ!!」
しかしラシェルは俺から離れない。そればかりか、少し離れてきょとんとしていたクレールまで、反対側から抱き着いて来てしまった。
「行くなら四人で行けばいいじゃない、雲に乗れないなら走って行こうよ、あたし達仲間でしょう!?」
「時間がないかもしれないんですよ! やめなさい!」
ノエラに抱き着いた俺に抱き着く、ラシェルとクレール……三人の体重を支えながら、ノエラが呻く。
「ウサジさん、僕も出来ればウサジさんを独り占めしたいけど、今は二人に賛成です、偵察が必要なら僕が一人で空から見て来ます、だけどどこかに行くなら四人一緒に行きましょう」
ごめん。本当にごめん、三人は知らないだろうが、俺は魔王魂の根源である女魔術師と僧侶男の本性に触れている。奴らの執念を侮ってはいけないのだ……だけどその事を三人に説明している時間がない。
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時!」
俺が一旦ノエラを手放し、フルパワーでおはらいを掛けると、
「きゃあああ!?」「いやああ! やめてウサジさん!」「どうして! どうしてぇぇ!?」
三人はさっきより酷く悶え苦しみながら地面を転げまわる。これはくすぐったいらしいので、顔は笑っているのだが……本当にごめん、後で何とでも言ってくれ。
とにかくこれでラシェルとクレールも離れた。俺は非道ついでにフルパワーのおはらいの効果で笑いながらもがき苦しんでいるノエラを抱え上げ、近づいて来ていたゆうしゃクラウドの上に乗せ、その背中に跨る。
「ぎゃははは、あはあは、酷い酷過ぎるよウサジさん、僕は馬でも鞍でもない」
「何とでもおっしゃって下さい、浮上しなさいゆうしゃクラウド!」
俺の指示を聞いてるのかノエラが動かしてるのかは解らないが、ノエラに跨った俺を乗せて、ゆうしゃクラウドはゆっくりと高度を上げて行く。
「ウサジぃぃい! 待ってよぉぉ! あたしも連れてってよおお!!」
「ウサジさぁぁん! 嫌です、こんなの嫌です、待って下さぁい!!」
クレールもラシェルも、地上から笑顔で俺に手を伸ばしている。
俺だってこんなのは嫌だ。
魔王魂が無事消滅したのを確かめたら、戻って来て二人に気が済むまで詰られたい。土下座して謝りたい。
それから……俺も魔法の付き人ジャージ、買って貰おうかな。そうだ。この戦いが終わったら俺、三人の付き人になろう。それでおあいこじゃないか。




