0027 ラッキースケベで死なないくらいにはレベルアップしたんだな、俺も
翌朝。目が覚めると、周りは明るくなっていた……っておい!? 嘘だろ!?
「わっ、私はまた朝まで眠ってしまったんですか!? 今日も夜直が出来なかったなんてそんな!」
飛び起きた俺の目の前では、ラシェルが優しく微笑んでいた。
「仕方無いですよ、ウサジさん昨日は凄まじい治療魔法も使ってらっしゃいましたし……それにたくさん歩いたから疲れていたんですよ」
「疲れてるのは皆さんも一緒ですよ! いや、私はほとんど戦闘をしてないんです、皆さんの方が疲れているはず!」
俺は起き上がるなり、がっくりと項垂れる……トホホ。なんてこったい、二日続けて夜這いのチャンスを逃がすだなんて……第一情けねえや、女の子に守られてばっかりじゃなあ。俺は女の子を襲ってこそ俺だろ?
「起きたか。本当に良く寝ていたな、ウサジ」
「首狩りウサギ獲って来たよ! 焼いて食べよう」
クレールも最近はクールな微笑みくらいは見せてくれるようになった。ノエラは屈託の無い笑顔で、魔物の肉を振り回して見せる。
俺は少し呼吸を整えてから、三人に告げる。
「ヴェロニクの神託が出ました……色々大事な事が解りましたが、この神殿の捜索は、どうやら必要ないようです」
俺達は朝食に、ノエラが獲って来た魔物のローストを食べながら話す。
「私が閉じ込められていた箱はかつては聖なる遺物を納めた箱だったそうですが、長い年月の間に封印の力を失い、今ではただの箱になっていたのだそうです。中の宝もとっくの昔に奪われたのでしょう。シーツや空き瓶、それに春画が入っていたのは偶然だそうです。盗賊が物入れとして使っていた箱に、私は閉じ込められていたのだろうと」
俺はヴェロニクからだいたいの事は聞きだしていたが、何も本当の事を言う必要は無いと考えていた。あの品々はあれば便利だが別に無くてもいい物ばかりだし、誰かに取られた所で悪用されるという程の品もなく、あの場所まで戻るのは面倒臭い……もう無くなってるかもしれないし。
「そしてこの神殿はかつてはヴェロニクを祭る大神殿だったのですが、今では見ての通りのただの廃墟、信仰を失った抜け殻です……残念ながら、これ以上調べても何も出そうにありません」
ヴェロニクは最後まで記憶喪失に関しては本当だと言い張っていた。自分の身に何が起きたのか、正確には思い出せないと。
最近まで、ヴェロニクとこの世界を繋いでいたのは、俺が入っていたあの箱だけだったらしい。あの箱が封印の力を失っていたというのは嘘である。あれはヴェロニクにとっては自分とこの世界を繋ぐ最後の砦だったそうだ。
あの箱に俺を送り出し、ノエラがそれを開けた事で、女神は再びこの世界を視る事が出来るようになった。女神が視る事が出来るのは、俺とあの箱、そして自分の名を呼び信じてくれる信者達だけだそうだ。
だからノエラ達がワイヴァーン退治をするまでは俺だけしか視る事が出来なかったが、今ではあの砦の村の人々の何人かも視えるようになったらしい。
―― だけど私、24時間ウサジだけを見てるから……
御願いします、たまには休んで下さい、それか他の信者も見てやって下さい……
「でも……ウサジにとっては大事な女神様なんでしょう? ここがそのヴェロニク様の失われた神殿なら、もっと良く調べた方が……」
ノエラの声で俺は我に帰る。いかんいかん、ヴェロニクの事になるとどうも考え事が深くなってしまう。
「いいえ、信じる人が居て、祈りがある場所がヴェロニク様の神殿になるのです。私が言い出した事なのにすみませんが、先へ行きましょう。世界には皆さんの力を必要としている方が、たくさんいらっしゃいます。私も一人でも多くの人に、ヴェロニク様の恩恵を届けたいのです」
◇◇◇
神殿を離れ、最初の箱に入っていた少し価値のある雑貨も諦めた俺達は、そのまま失われた街道を、次の目的地へと向かって歩き出した。
「わっ、うわっ!?」
ん? 後ろでクレールの悲鳴が……次の瞬間!
―― ぼーん! ずざざざざざざざ!!
「わぁああ!?」
森の中の下り坂を降りていた俺は、後ろから滑り落ちて来たクレールに巻き込まれ、絡まり合いながら下生えの上へと墜落する!
「すまん、大丈夫かウサジ!」
ぐえっ……弾力のある物が顔を覆っていて何も見えねえ……
「今立ち上がるから、ああ危ない、そのままで居てくれ」
クレールの手が俺の手を引っ張り、別の弾力のある物がその先に触れる……何このツルンとした形とサラサラとした手触りは……ヒエッ!?
俺の手は俺の体にのしかかったクレールのお尻に触れていた! ちょちょ、ちょっと待てこれは事故だッ……つーか俺の顔を埋めているこっちは推定Fカップのおっぱいでは!? あれ、クレールって普段胸甲つけてなかったっけ? いやそれどころじゃねえ!
ああ、お尻が、おっぱいが離れて行く、それは名残惜しくもあるが……立ち上がったクレールが俺を見下ろす……この子の好意もこれまで、また変態扱いに逆戻りかなあこりゃ……
「怪我は無かっただろうか? 足元に油断してしまった……油断はしないと誓ったのはついこの前なのに」
クレールはそう言ってはにかんだように笑い、俺に手を差し伸べた。
あ、あれ? これ可愛くない? 可愛いよな? クレールが可愛く笑った……
「ク、クレールさん、胸甲はどうしたんですか?」
「ん? しまった、今日はつけ忘れていた、はは」
クレールがさらに眩しい照れ笑いを浮かべたその瞬間。クレールの手を掴もうとしていた俺の手は、ノエラの手に掴まれていた。
「良かった、二人とも無事で」
ノエラは口元に笑みを浮かべ、俺を引っ張って立たせながらそう言った。口元に笑みをというのは、目が笑ってないという意味である。
ラシェルは少し離れた所でこちらを見て、いつもの通りの優しい微笑みを浮かべていた。