0267 ノエラの先祖なら昔はDカップの美少女だったのかもな。その頃に会いたかったわ
賑やかな都市が見える……大河の両岸に広がる巨大な都市だ、幅1キロメートルは優にある大河には、巨大な橋が架かっている、いや、橋というより城だ、この大河には幅50メートル高さ20メートルぐらいある巨大で細長い城のような橋が架けられている。両岸の都市にも無数の高層建築が並んでいる……総人口はガスパル王の都の10倍ぐらいではないか。
―― ……様!
―― ……様、いつもありがとうございます!
―― ……様が居てくれて本当に良かった!
そんな巨大都市に、誰かを称える人々の歓喜と感謝の声が溢れている……誰を? 女魔術師だ。するとこれは、四百年前の光景なのか。
しかし。民衆の歓声は確かに聞こえるのだが、女魔術師の名前はどうやっても聞き取れない。いくら耳を澄ましても、名前の後に続く賛辞は聞こえるのに名前だけはわからん。モヤモヤするな。
大空に静止した俺の眼下では、早回しのジオラマのように目まぐるしく昼夜が繰り返され、時間が過ぎて行く。
この繁栄と歓声を産み出しているのが、あの女魔術師なのか。たいしたものだ。
それは、ヴェロニクとその仲間の神々が与える祝福とどう違うのか……
人々から見れば時に気難しく気まぐれな神々と違い、女魔術師は解りやすい形で人々に恩恵をもたらしている。女魔術師の魔術が作り出すインフラが、この都市を有り得ないほどに豊かにしているのだ。
これ程の力を持ち、また多くの人々に恩恵を与えた女魔術師が、神の座を求める事は、自然な事なのではないか?
◇◇◇
俺は一瞬の白昼夢から戻る! 何だったんだ今のは、危ねえ、これは女魔術師の幻術か!?
目の前に居るのは巨人化したアスタロウなのだが、やはりその顔は少し老婆に寄っている。そして奴は先程までのように怒りで我を忘れたりはしていないらしい。
「ウサジとやら……」
アスタロウを乗っ取った老婆は、意外なほど明瞭な声で語り掛けて来た。
「あたしの負けだ。お前が協力するならあたしはこの場に残った全ての力をお前に譲渡して退去する。お前はあたしが安全にこの場を立ち去る事を認めろ」
確かに今すぐ戦いを止められるという提案には価値がある。こちらが優勢とはいえ各地で戦闘が続いている以上犠牲者は出るし、アスタロウを殺したりノエラを死なせたりしないで済む方法があるなら、それに越した事はない。
しかしこの四百年の間人類に仇を為した災厄を、簡単に見逃していいのか。それはもう少し探らなくてはならない。
「これだけ多くの災いを振り撒き、長き年月に渡り人々を苦した貴女を、信用しろとおっしゃるのですか」
「それは、あの悪魔共があたしの力と才能を妬み、自分たちの村に、あたしを加える事を拒んだからだ……!」
アスタロウの顔が再び、怒りに歪む。しかし今度のアスタロウはすぐに表情を取り繕う。
「それはまあ、いい。お前はあの女さえ解放出来ればいいのだろう? そしてそれはもう達成したのだ、あたしは負けを認めて立ち去る、それでいいじゃないか。別にあたしを信用する必要などない……それともお前は、どうしてもあたしの血を見たいと言うのかい?」
俺はアスタロウから目を離さないまま、黙っていた。
「ヒヒ、ヒ……大した僧侶様じゃないか、口では偉そうな事を言ってもその本性は浅ましき戦士共と一緒だ、名誉! 復讐! 見得と恨み、お前も結局はその負の思いに囚われているに過ぎないんだよ、お前の哀れな女神様とやらもな!」
憎しみに顔を歪めるアスタロウに、俺は小さく首を振る。
「貴女はここを離れてどこへ行くというのです。また何百年も掛けて力を溜め、次の復讐の機会を伺うのですか? そんなのはもうお止めなさい……貴女が愛した人も、貴女を愛した人も、とっくに新たな輪廻の中を生きています。貴女もどうぞこちらにおいでなさい。恐れる事は何もありません」
そうだな。俺は本当の所ニセ坊主だし、俺を動かしてるのは何か色々うまく行ってる感じの名誉と、髪を失い嘆き悲しむ男達の復讐なのかもしれん。
だけどこの四百年もの間、怨霊としてこの世に居る女を気の毒だと思うのも嘘じゃねえ。こんな奴でもヴェロニクの聖域へ引きずって行ってやれば、穢れなき魂の姿に戻れるはずだ。
「回向して差し上げますよ」
俺はひのきのぼうを構えなおす。




