0264 MCの雰囲気もちょっと古くて恥ずかしい……この世界の奴は知らないだろうけど
前に同じ手を使った時は、屋根の上から5メートルくらい落ちて背中を打って、それでも結構痛いと思ってたけど……今俺は、アスタロウを固めたまま急峻な山の斜面を200メートル以上滑落して来た。
これで生きてるってんだから、今の俺は人間と言うより化け物の類いだな……
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ウサジ
レベル159
そうりょ
HP94/1683
MP213/1041
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ああ……いつの間にかまたすげえレベル上がってる。上がり難かったMPも急に増えた……ヴェロニクが復活したせいかな。
俺は最後の最後でアスタロウの目元から手を離してしまった。アスタロウはその瞬間に転移して消えた。
まだ角度のある砂礫の崖の中腹に半ば埋もれながら、俺は辺りを見回す。まずいな、またアスタロウを見失った。
俺の手が勝手にぬののふくの内ポケットに伸びる。そこにあるのはジュノンが用意してくれた回復薬のボトルだ。
この世界の回復薬は普通はガラス瓶に入っていて、こんな所に入れていたら戦闘の衝撃で割れてしまう事もあるのだが、ジュノンはこれを俺がHDDから持ち込んだ小さなペットボトルに詰め替えてくれていた。俺はその回復薬を飲み干す。
「どこへ行ったアスタロウ! 俺はまだ生きているぞ、俺はヴェロニクの為、あの火山を封じて完全に勝利する!」
俺はそう叫び、斜面を駆け降りる……その先には寺院の裏道に迫っていた怪異共を押し戻した、魔族と人間の連合軍の前線があった。
「お前はウサジ!?」「ウサジ様ぁ!」
「勝利は近いぞ、無理はするな、命を第一に守れ!」
俺は魔族兵や王国兵士にそう声を掛け、だいぶ密度の減った怪異共をひのきのぼうで粉砕しながら、前線を越えて突進する。
「貴様こそ気をつけろ、ウサジ!!」
赤魔族の男が叫ぶ……お前ら、例え味方でも他人の心配なんかしないんじゃなかったのかよ。
◇◇◇
「どこだァァア、アスタロウ! 俺はここに居るぞ!」
俺は再び火口を目指していた。ヴェロニクの歌はまだ聞こえる……
白い靄が広がるにつれ、怪異共の動きは鈍って行く。
全てが考え過ぎの勘違い、そういう可能性も否定出来ない。敵はただ弱り、力を失いつつあるのかもしれない。
火口を目指し俺は走り、やがて白い靄と黒煙の境界線を越える。ヴェロニクの歌声は聞こえなくなり、辺りは闇に包まれる。
「ウウ、オオオオオ!」
そして漆黒の大気から怪異共が湧き出す、気味の悪い光景も復活する。もちろんこのくらいの相手なら、ひのきのぼう一つで十分だが。
「アスタロウ、居たら答えろ! ここなら邪魔は入らない、お前とは一対一でケリをつけてやる!」
呻き声を上げて押し寄せる怪異共を薙ぎ払い、吹き飛ばしながら俺は叫ぶ……おはらいはまだ使わない。
……
敵の怨霊共も、一枚岩じゃねえと思うんだよな。
女魔術師の方はここでの敗北を悟っており、この二百年に用意した全てを捨ててでも、次の機会を待つ為潜伏したいと考えているのではないか。
男僧侶の方はそうは行くまい。邪恋の果てに虚無の世界へ封印した女神が蘇ってしまっただけでも許せないだろうに。
ヴェロニクは歌っている。その声はその男の魂にも聞こえているのだろう。MCを挟んでセットリストは進んでいるが、ここまでの4曲は全て重めの恋に心を焦がす乙女心を歌うものだった。
その意味は男にも解っているのではないか。自分にも全く靡かず、人に恋などしないはずの女神が、恋の歌を歌う意味が。
「アスタロウ! お前が決して許してはいけない男が、ここに居るぞ!」
ひのきのぼうを旋風のように振りかざし、周りを取り囲む怪異共を豪快に吹き飛ばしながら、俺は尚も叫ぶ。勿論これはアスタロウに聞かせているのではない。奴の中に居る、魔王魂に聞かせているのだ。
そこへ。
「ウ サ ジ さぁぁぁぁぁん!!」
「なッ……!?」
黒煙に覆われた空から光の矢のごとく現れ、怪異共を天秤棒でなぎ倒しながら突っ込んで来てそのまま俺の首に抱き着いて来たのは、笑顔のノエラだった……
「ノエ」
次の瞬間には、俺はノエラに唇を奪われていた。




