0026 やべえ、昭和とか侮れねーじゃん、あっちに帰れたら続きを見てみるか
「大事な品物を取りに戻らなくていいのか……?」
「ここに居るのなら、もう少し神殿の中を探さなくていいの?」
クレールとノエラはそう言っていぶかしむ。
「ええ。少し早いけど今日はもうここで野営をしましょう。探すのも戻るのも明日からで十分です」
だって慌ててスタート地点に戻って、それからまたここに来る方が時間の無駄のような気がするし、今あてどなく遺跡を探し回るよりは、本人に聞いてみる方が早いように思えるのだ。
それに……
「それに昨夜はうっかり寝過ごして夜直を怠けてしまいましたから! 今夜こそは! 私もきちんと夜直を努めさせていただきます!」
今夜こそは! きちんと夜這いを実行させていただきます! おっといかん、顔に出たらまずい。この子達の前でも、あいつの前でも。
◇◇◇
気がつくと俺は古めかしい和室に居た。ちょっと待て、俺こんなの持ってたっけ? 着物をはだけた女を縄で縛って吊るしてありそうな、本当に古風な和室である。
「ウサジおじ様」
ヴェロニクは普通の白いブラウスと紺色の膝丈のスカートを穿いている。これもえらい古風な佇まいである。いやこれ本当に俺の趣味?
「わかりませんけれど……間違いなくおじ様のHDDの奥底に確かにこれが」
「ぐわあああそれをもうやめてくれ! やめて! 御願い!」
俺は畳みに突っ伏して耳を塞ぐッ……!
「違うわウサジおじ様、こういう話ではなかったわ」
「だからそれはもういいからッ! 私の話を聞いて下さい、ヴェロニク様!」
俺は何とか正座したまま、少し顔を上げる。ヴェロニクはまだ微妙に叔父の暴力に怯える女の子の真似をしていて、スカートからのぞく細い生足をもじもじさせていた。どうにも目のやり場に困る。
「今日こそ聞かせて下さい! 200年前に」
「いやああっ!?」
ヴェロニクはまるで鞭で打たれたかのように、畳の上に転がる。長い黒髪が艶かしく広がって……おっといけない、これは直接聞いてはいけないんだった。
「すみませんヴェロニク様、やり直します、私が今居るのは、貴女の神殿だった場所なんですか?」
俺がそう尋ねると、ヴェロニクはようやく上体を起こす。
「ごめんなさい……ウサジ。私、24時間貴方の事を見ているのだけど……」
だから怖い、怖いって……
「私の記憶、とても曖昧なの……今はウサジ、貴方の事以外はほとんど何も思い出せないし、考えられないの。私には貴方だけ、貴方しか居ないの」
お……重い重い重い……怖い……ヒッ!? そんなヴェロニクがこっちを見た! 美しい、美しいんだけど超怖ぇ!
「ウサジ、貴方が……」
ヴェロニクがゆっくりと近づいて来る。
俺は咄嗟に立ち上がり、ヴェロニクに背中を向けて腕組みをする! 思い出した、やっぱりこのAV見たぞ! 確かセリフはこうだ!
「お前、今何時だと思っているのだ! 我が家の門限は何時だ!?」
「も……申し訳ありませんおじ様、門限は午後四時ですわ」
ヴェロニクは慌てて正座し、三つ指をついて深々と頭を下げた。スカートも長髪も不自然な程に畳みの上に綺麗に広がって、何とも芸術的である。
俺は微妙にAVの演出に似せた形で質問をかます。
「私が入っていたあの箱! あれに一緒に入っていたシーツと空き瓶とその……芸術的な絵も、お前が用意したものだったのか?」
「あれは……はい……あれば力になると思って……あの……誰がそう思ったのかは解らないのだけど、誰かがそう思って、おじ様が現れる箱の中に、一緒に」
俺は少しだけ振り返りちらりとヴェロニクを見る。ヴェロニクも少し驚いたような顔をして目を上げていた。
「自分が入れた事だけは覚えているのか。それは良かった……あの絵画はお前の姿を描いたものだったようだな」
俺が何気なくそう言うと。
「きゃあああ!?」
ヴェロニクはさっきとは全然違う調子で悲鳴を上げて、飛び退いた。
「な、何だ? 叔父である私に何を隠しているのだ、この不良娘め!」
よく解らない俺は取り敢えずAVのシナリオ通りに話を進めてみる。この後叔父は少女に不純異性交遊をしているのだろうと難癖をつけ、身体検査をしてやると言い出して服を脱がせ、縄で縛り上げるのだが、俺はそこでこれで抜くのは無理と判断し視聴をやめたので後は知らない。つーかそこまで真似する必要は無え。
「違う、違うのウサジ、あれは私が若くて、もっと調子に乗ってた頃の絵で!」
ヴェロニクの反応もどうもAVの筋書きとは関係無いようである。
「随分短いスカートを穿いていたな? あんなのどこからでもパンツが見えてしまうんじゃないのか?」
「あれは水着なの、水着なのよ、水浴びをしている所を描いた絵なんだから!」
「何故魔法陣に描く絵が水着姿なんだ!? 皆に見て貰いたかったのか!? ぎりぎりBカップの水着姿を!」
「いやああああやめてもう言わないでええええ」
ヴェロニクは耳を真っ赤にして、床ではなく柱に顔を埋めて泣き出す。うーん、少し言い過ぎたわ。
まあ人のHDDを勝手に漁ったお返しである……ん? 何か引っ掛かるぞ。
「ちょっと待って下さい。若い頃ってどういう事ですか? ヴェロニク様は今でもとてもお若く……」
「いやああああやめてええええウサジ御願いいいいい」
「何を言ってるのか解りませんよヴェロニク様、落ち着いて下さい」
「だって……ウサジのストライクゾーンは12歳から35歳までなんでしょう!? 美魔女でも50歳が限界だって……そんな……私が何歳だと思っているの……」
「まさかそんな事考えて200年前の話題を避け、記憶喪失のフリまでしてたんですか!? 女神は別ですよ! 見た目が18歳なら18歳扱いでいいんです!」
◇◇◇
その後は素直に事情聴取に応じた女神によれば、あの三点は敷くとどこでも柔らかいベッドになるシーツ、飲み干しても8時間で再び満杯になるエール瓶、そして意外と高く売れる女神の魔法陣という品々だったそうだ。