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0022 思い出した、これ保存したけど結局見なかったやつだわ

 これはコンビニのバックヤードだろうか。気が付けば俺はパイプ椅子に座っていた。目の前には……やっぱり昭和の頃からあるような古風な上下紺のセーラー服を着たヴェロニクが、学生鞄を両手でしっかり抱え、目を逸らしたまま立ちすくんでいる。


 傍らの古い事務机の上に載っているのは一本の棒のついた飴……チュッパなんとかだっけ。あー名前が思い出せないわー。


「ごめんなさい……いえ……申し訳ありませんでした……」


 震えながら深々と頭を下げるヴェロニク。


 俺は確か、砦を出て別の町に向かう途中、女共と森の中の洞窟で野宿をする事になって、ドキドキワクワクで寝たふりをしていたのだが……

 いや違う! 別にあっちのシチュエーションの方が好きだから向こうに戻りたいとか、そういう意味じゃなくて!


 ここでは女神ヴェロニクは俺の考えてる事までだいたい読んでしまう……完全に読んでいるという訳ではないので、頑張ればこちらがヴェロニクを出し抜く事も出来るようなのだが。


 しかし今回のヴェロニクはなかなか頭を上げない。


 いいの? 俺、万引き女子高生とコンビニ店長っていうシチュエーションより、女子高生三人と洞窟で野宿ってシチュエーションの方が燃えるとか、ちょっと思ったりなんかしちゃってるんですけど……


 俺が正直にそう思った瞬間。


「知ってる……」


 ヴェロニクの指が、学生鞄をむしりだす……


「貴方は私と居るより、あの子達と居る方が好きなんだって……」


 俺は慌てて椅子から立ち上がり、ヴェロニクの学生鞄に手を掛ける。


「さ、さあその鞄を見せてみなさいッ、他にも何か隠してるんじゃないか!」


 ヴェロニクは素直に鞄を手放すと、壁際に一歩下がって斜め下を向く。長い黒髪がさらさらとこぼれ、女神の横顔を隠して行く。

 鞄の中に入っていたのは、ごく普通の……高校生用の教科書とノート……俺は何となくノートの一冊を手に取って開く。


『ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジ ウサジウサジウサジ』


 俺は何も見なかった事にしてノートを閉じ、ちょっと聞いてみたいと思っていた事を尋ねる。


「ヴェロニク。この世界で200年前に何があったんだ?」


 その途端ヴェロニクは、まるで万引きしたコンドームの箱を見つけられて「こんな物をどうするつもりだったんだ!? これは君の学校にも、両親にも見て貰わないといけないようだな」と言われた女学生のように、ひざまずき、スチール机にすがりついて嗚咽おえつを上げる。


「御願いします、どうかそれだけは許して下さい、御願いします!」

「いやあの、俺、昔の事聞いてるだけで……」


 女神はスチール机からも滑り落ち、床の上に手を突いて慟哭どうこくする……まとめていない長い黒髪が広がるその姿は、妙に妖艶ようえんで美しいが……そんな事考えてる場合じゃない。


 良く解らないけれど、これ、聞いちゃいけない事なんだろうな。



 この女神は何らかの理由で世界から切り離され、この妙な空間に長い間閉じ込められているのだ。

 元はどんな人格、いや神格だったのかは解らないけど……寂しさのあまりヤンデレを発症してしまっても仕方無いよなあ。

 俺だったらとっくに発狂してるわ。彼女がそこまでにはならないのは、やはり女神だからなんだろうか。


 ヴェロニクがどんな手段を使って俺を呼び出したのかは解らない。だけど彼女にとっては俺は一つの希望なんだろう……最初の希望か最後の希望かは解らんが。

 俺がそう考えた途端、ヴェロニクは口を開く。


「貴方だけです……ウサジ……私の声に気付いてくれたのは……」


 おっ……? もしかしてここからやっと、異世界から召喚されたヒーローらしき物語が始まるのか?

 ヴェロニクは前にも、古い町医者の待合室みたいな場所で身の上話をしてくれたが、それは野球は横浜ファンだとか好物はシウマイ弁当だとか、今考えたら多分作り話だよなあという物ばかりだった。


 ようやく女神が、本当の自分の事、この世界の事を話してくれるのか。



 ヴェロニクはどこからかスマホを取り出す。


「このスマートホンの記憶領域は、ウサジの自宅のパソコンのHDDと繋がっているの。私は、貴方のHDDの底から貴方を見つけて、手を伸ばしたの……!」


「ちょい待てやぁぁあ俺はそんな共有を許した覚えは無ぇぞそんなのハッキングじゃねえのかこらぁぁああ!?」


「申し訳ありません! 何でもしますから両親と学校にだけは連絡しないで下さい、何でもしますから!」


 ヴェロニクはまるでこれから「じゃあ他に何か隠していないか身体検査をさせて貰うから、まずそのスカートを脱ぎなさい」と言われようとしている女学生のように、俺の膝にすがりつく。


「そんな事よりそのスマホを何とかしてくれぇぇ御願いします! 女神様御願いしますHDDだけはHDDだけはお許し下さい! 男のHDDの中身を何だと思ってらっしゃるんですか! 御願いします女神様!」


 俺はヴェロニクを振り払い土下座して額で床を連打する。


「違うわウサジ、立場が逆よ……! どうして解ってくれないの……」


 古い町医者の待合室、兄妹の四畳半、エレベーター、体育倉庫、コンビニのバックヤード……それらは全部、俺の自宅のパソコンのHDDから出て来た知識だったらしい。

 俺のお宝は映像からテキストまで数千点はあるので、俺自身も他にどんなものがあったかなんて覚えてはいない。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
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