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0204 ええ……これ可愛いのか? ある意味もふもふの対極にある奴らだよな

 それから王様達が用意してくれた祝賀のうたげに招待されたのだが、ノエラがずっと泣いているので、列席した家臣や貴族も喜んでいいのかどうか解らず、まるで葬式の後の精進しょうじんおとしのような雰囲気になってしまった。

 しかも誰が余計な入れ知恵をしたのか、俺の前にだけ豪華なご馳走ではなく野菜の煮物と油揚げと麦飯が置いてある。



   ◇◇◇



 食事の後、この後の事を実際に相談しようと、俺は城の中庭でオイゲンを探していたのだが。


「ウーサージー!!」


 どこかで聞いた事があるような幼女の声。これは……しかし振り返った瞬間に俺が見たのは、顔面に迫り来るボールだった。


―― ボフッ!


 おうっ!? ボールは俺の眉間みけんに正確にヒットした。ドッジボールに使うくらいのボールだな。


「お見事ですマドレーヌ様、でも顔に当たったらセーフですよ」


 しかもマドレーヌはこれをジャンピングオーバースローで投げて来た……たいしたものだ。あの後どれだけ練習したんだろう。俺は落ちる前に捕ったボールを軽く投げ返す。マドレーヌはキャッチも完璧になっていた。


「何がセーフじゃ! ウサジー!! (わらわ)との約束を破り今までどこへ行ってたのじゃー!」


 マドレーヌはボールを放り出し俺に詰め寄り、俺のふところをポカポカ叩く。これがあれか。袋叩きならぬ懐叩きというやつか。でも俺約束はしてないぞ、マドレーヌが一方的に言ってただけなのだ。

 しかしマドレーヌは、俺がその説明を始める前に、俺のふところから離れた。


「こっちに来るのじゃ! わらわがとっておきの面白い物を見せてやるのじゃ!」


 マドレーヌは目尻に浮かんだ小さな涙をサッとそでぬぐうと、小さな手で俺の手をつかんで走り出す。走るとまた転ぶぞ……いや、そうでもなさそうだ。ずいぶん元気になったな、王女様。



 城の中庭の一つに、その大小のおりは集められていた……これはヴェロニカ郊外の魔族の駐屯地にあった魔物のおりか。全部ではないようだが一部がここに置かれているのか。周囲には警備の兵士も居る。


「城の学者がけんきゅう(・・・・・)をすると言って、ここに運ばせたのじゃ」


 なるほど。まあ生態を調べたり弱点を探ったり、色々利用価値はあるよな。

 さて。マドレーヌはここまで引っ張って来た俺の手を離し、近くの小屋の中に入って行った。俺はここで待っていればいいのかな。

 うーん。モンスターの入ったおりなんて珍しいっちゃ珍しいけど、これはそもそも俺達が魔族から分捕った物だしなあ。まあ、適当に感心してみせてやろうか。


 マドレーヌは、デッキブラシのような物とバケツを手に、小屋から出て来た。それを見て、警備の兵士達が近づいて来る。


「王女様、どうか危険な事はもうおやめ下さい、私達が陛下や将軍からおしかりを受けるのです」

「ウサジが居るから大丈夫じゃ」


 マドレーヌはそう言って、魔物のおりに平然と近づいて行く。そのおりにはいつかの魔法生物、ワンサーティンが二体入っていた。ツートンカラーに塗り分けられた、恐ろしく頑丈なゴーレムだ。


「あまり近づくと危ないですよ」

「見るのじゃ」


 マドレーヌはバケツの中から雷の結晶と呼ばれる、黄色い宝石のような尖った石を取り出す。そしてそれを投げ入れるのではなく、おりの中に手を伸ばして差し出そうとする……


「だめですよ!」


 俺はさすがにそれを止める! 危ない、こんなのライオンのおりに手を突っ込むようなもんだろ。


 おりの中のワンサーティンは、のそのそと近づいて来る。緑にオレンジ色の個体と、青にクリーム色の個体が居る。


「大丈夫じゃ。良く見るのじゃぞ」


 マドレーヌは俺の手を払い、檻の中で手を広げている、緑とオレンジの方のワンサーティンに、二個の雷の結晶を渡す。ワンサーティンは渡された雷の結晶をただ見つめていた。


「仲間と分けるのじゃ」


 マドレーヌがそう言うと、緑とオレンジは、青とクリームに雷の結晶を一個渡す……そして二体のワンサーティンは、胸の辺りのふたのような部品を開けて、結晶を中に放り込む。

 俺は純粋に驚いて、その光景に見とれていた。その間にマドレーヌは井戸の釣瓶つるべを一生懸命引きだした。兵士が二人、慌ててそちらに駆け寄る。


「王女様、水の御用でしたら我々が」

わらわがっ……やるのじゃっ!」


 しかしマドレーヌは釣瓶つるべを渡さず、時間を掛けて、一杯の水を井戸からみ上げ、自分のバケツに移す。そして重くなったバケツを両手で持って、ヨロヨロとワンサーティンのおりの方に戻って来る。


「背中からやるのじゃ!」


 そしてマドレーヌがそう叫ぶと、ワンサーティン共は鉄格子に背中を向けて体育座りをした。マドレーヌはブラシを水に漬け、鉄格子の間から中に入れて、ゴシゴシとワンサーティン共の背中をみがき出す。


「どうじゃウサジ! 可愛いじゃろう、いつもわらわがピカピカにしてるのじゃ。お前達もピカピカの方が気持ちいいじゃろう?」


 ワンサーティン共は身動みじろぎもせず、マドレーヌに背中を磨かれていた。

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