0202 それか何でも言う事を聞くえっちなケモミミの女の子が欲しいです。居ます?
馬車はやがて城の門をくぐり、停車する。辺りを見回しながら降りる俺に、オイゲンが馬から降りて近づいて来る。
「聞いておられるかもしれないが、マドレーヌ様には気をつけて欲しい。我輩も誠意を尽くして説明したつもりなのだが、貴様が黙って居なくなった事に相当御立腹されている」
さて。俺は念の為、集まって来た三妖怪に聞いてみる。
「皆さん、私達はこれからガスパル王の元へ冒険の成果を報告に行くのです。これは勿論、一生に一度あるかないかの晴れ舞台でしょう。いい加減、元の姿に戻りませんか?」
三人は、俯き加減にお互いの顔を見合わせる。
「ノエラさん、貴女はもはや勇者候補ではありません、伝説の乗り物を乗りこなし大いなる使命を果たした本物の勇者、全冒険者の憧れの存在なのですよ?」
しかしノエラは口をへの字に曲げて、ぽろぽろと涙をこぼすだけだった。
「クレールさん、貴女は元々前途洋々な若き騎士だったのでしょう、そして今や多数の強力な魔物を討ち取った百戦錬磨の武の達人でもあるのです」
俺がそう言っても、クレールは目に涙をたくさん溜めて震えるばかりだった。
「ラシェルさんは王国始まって以来の秀才でしたが、私達との冒険の中で知識と経験を深め、天下無双の縦横家となりました。学生達は誰もが貴女に憧れますよ」
ラシェルもぐるぐる眼鏡を外して、ずっと手の甲で涙を拭っている。
「ウサジさん。僕達このままがいいです」
結局ノエラが、そう言った。やれやれ……お前ら本当にその恰好で王様の前に出るのか?
「あ、あの、ウサジ様」
俺の横にいたジュノンが、控え目に声を掛けて来る。
「ウサジ様も、その御姿で陛下の御前に出られるのでしょうか……?」
そういや俺も物乞いみたいな恰好してたわ。ハハッ。まあいいや。
◇◇◇
ガスパル王はあの執務室に居るのだろうか。それともマドレーヌんちのリビングにでも居るのだろうか。しかし一時間以上控室で待たされた後に、俺達が案内されたのは、広大な城の大広間だった。
―― パパパーン! パパパンパンパンパンパーン!!
広間の両端には正装の兵士が大勢整列していて、その先頭には鼓笛隊が並んでおり、俺達が巨大な両開きの扉を通るなり、管楽器を吹き鳴らし始めた! 吹き抜けの巨大空間に、高らかなファンファーレが木霊する!
「捧げーッ!! 槍!!」
―― ザザッ!! ザッ!!
ヒエッ!? 隊長らしき兵士が号令すると、全ての兵士が槍の構えを変える! 一糸乱れぬ動きだ!
盛大なファンファーレの演奏、広間の中央を突っ切る真っ直ぐに伸びた赤い絨毯、その奥に居並ぶ盛装した群臣、そしてその中央には、巨大で荘厳な玉座に座った、巨大で荘厳な世紀末覇王系ビジュアルの国王、ガスパル陛下……!
「ノエラさん、貴女が勇者なんだから貴女が先頭を歩いて下さい」
「ウサジさん、これはウサジさんのパーティだとみんな知ってますよ」
観念した俺は、赤い絨毯の上を先頭に立って歩いて行く。
兵士達は俺達の姿を見ても驚きを顔に出したりはしなかったが、王の周りの着飾った群臣達は明らかに動揺していた。
「あれが魔王の城まで攻め入った勇者たちと聖者ウサジだと!?」
「あんな粗末な姿で……誰も武器や防具を援助しなかったのか?」
「どうしよう、華美な衣装で列席しているこちらが恥ずかしいぞ」
ガスパル国王の御前、5メートルくらい手前の床に花が並べてある。これが停止線か。俺達がそこで止まると、ファンファーレの演奏の音が二段階小さくなる。
「ヴェロニクの使徒ウサジ、そして勇者ノエラと仲間達よ……よく戻って来てくれた……さあ。冒険の成果を聞かせてくれ」
ガスパル王が厳かにそう告げる。俺は頷き、後ろを向き……何かに気づいて逃げようとしたノエラの腕を鷲掴みにして引っ張り、無理やりガスパル王の前へと突き飛ばす。
すぐに振り向いて涙目で抗議するノエラ。うるさい。これは俺からお前への、行方不明になって心配を掛けた事へのお返しだ。
俺の目線に抗議を跳ね返されたノエラは、観念してガスパル王の方に向き直る。
「王さま……」
ノエラは少し上ずった声で、切り出す。
「僕達は、魔王オックスバーンを倒しました……そして失われていた女神ヴェロニクの寺院を発見し解放しました、寺院には今も魔族が居ますが……!」
そこまで言ってノエラは俺の方に振り返る。危険を感じた俺は後ろに下がろうとしたが、すぐにクレールとラシェルに両脇を抱えられてしまい出来なかった。
ノエラはゆっくりとやって来て、クレールやラシェルと共に俺を王の前面に押し出す。
「聖者ウサジが! 彼らを調伏しました! ウサジの徳に触れ改心した者は魔族の中にも多く居り、彼らは講和を望んでいます、もう魔物をけしかけるのはやめるそうです、王国の領域外に残された人類の集落もいくつも解放されました! 残念ながら魔王の脅威はまだ完全には消えていません、今後新たな魔王が誕生する可能性は残っています、だけど! ウサジさん……聖者ウサジが居れば、きっと何度でも魔王を倒す事が出来ます、そして、ウサジが女神ヴェロニクを復活させる事が出来れば! きっと魔王の呪いも晴らす事が出来ます!」
ノエラは、俺の腕を抱えたまま、国王と群臣の面前でそう叫ぶ。
ガスパル王が、王座から立ち上がる。
「見事だ、勇者ノエラよ! お前が初めて余の面前に現れた時は、斯様なうら若く可憐な乙女が本当に勇者になれるのかと心配したものだが、全く以って余の不明であった! とはいえ、世界を救う大事を為したお前達が今は何故そんな面相をしているのか、想像もつかぬのだが」
王様、今そこ要ります……?
「お前の名は世界に燦然と輝き、歴史に残る事となるだろう! 余はただの一代の王に過ぎぬが、お前と同じ時代を生きた事を誇りに思う。勇者ノエラよ、当世の王として尋ねる。余がお前に与え得る物の中で、お前が望む物は何か」
来たぁぁぁぁ! 王様のご褒美タイムだ! ヒャッホー俺は何頼もうかなあ、いや実はもう目星はつけてあるんだ、群臣の後ろに女官も並んでるんだけど、前から二番目左から四番目の推定Eカップの背の高い生真面目そうな雰囲気が超そそる綺麗なお姉さん! 国王陛下! 俺にはその子を下さい! むふふ、俺の番が来たらそう言おうっと。
「……僕はただ自分が勇者になりたくて、勇者としての務めを果たしたくて旅をしていただけなので、ご褒美など何も要りません」
はあああ!? ちょっと待てノエラ、国王が何か褒美をやるって言ってんだぞ! 何でもいいだろ! 何も思いつかないなら金を貰え、俺が有効に使ってやるから、早速あの歓楽街で朝から晩まで……いや、えーと……武器とか防具とか貰うのもありだろ? 何か貰っとけよ勿体ねえ!
「だけど本当に何かいただけるのでしたら、聖者ウサジを、いや、ウサジさんを僕に下さい。御願いします、王さま、魔王討伐のご褒美に! ウサジさんを僕にください!」
ノエラは花で出来たサークルを飛び出し、飛び掛かるようにガスパル国王に迫る!? 居並ぶ群臣も兵士達も一瞬うろたえた。しかしノエラは、国王の1メートル手前の床に、片膝を突き深く平伏していた。
「どうか御願いします! ウサジさんを僕にください!」
ノエラは顔を上げ、再びそう叫んだ。