0201 解ってると思うけどさ、みんな後で割引券くらい持って来いよ?
「ウサジ様……ウサジ様!? 何故このような所で眠られているのですか!」
翌朝、俺は何の成果もないまま、村に元から居た神官のじいさんに叩き起こされて目を覚ました。
「私はどこでも寝れるんです、お構いなく」
それはまあまあ本当の話で、昔から俺はどこでも寝れる事だけを自慢にして来た。目を覚ましたジュノンは半泣きで謝って来た。
「申し訳ありません! 僕が布団で熟睡してしまったせいで、ウサジ様が……」
「布団を温めるように言ったのは私ですから、貴方のせいではありません」
デッカー達はジュノンには宿屋の方に部屋を用意していたのに、ジュノンがこっちに来たせいで布団が無くなったのだから、本当はジュノンのせいである。
◇◇◇
「貴様には馬車を用意したので、どうか乗って欲しい」
相変わらず貴様を敬語として使うオイゲン爺さんに警護され、俺達は馬車で王国の首都へと向かう。相変わらず、その乗り心地は最悪である。
「僕たちだけ馬車なんて、申し訳ないですね」
ジュノンはこの馬車が平気なのか、照れくさそうに笑っている。
クレールとラシェルは馬を借りて乗っている。あっちの方が絶対楽だろ。ノエラなんか自前の雲に寝そべったまま移動してるし。畜生、いいなああの雲。
途中の砦の一泊を挟み、俺達は王国の首都へと向かう……この夜もヴェロニクとは鬼ごっこをしただけで終わってしまった。
そして、翌日。
◇◇◇
「ヴェロニクの使徒、ウサジ様だ!」「ウサジ様のお帰りだぞ!!」
ある程度覚悟はしていたが。城門をくぐった俺達を待っていたのは、凄まじい歓声だった。
「待て、道を空けろ、空けろー!」
馬車の御者達は声を枯らすが、人々はたちまち馬車の周りに群がり、俺達は動けなくなってしまった。
「ウサジ様ぁぁ!」「ウサジ様ぁ、抱いてぇぇ!!」
ぬおおおっ!? 特に多いのは城門を入るといきなりある歓楽街の女達だ、あっちにぷりん、こっちにぼいん、何が起きているの!? お姉ちゃん達は馬車によじのぼり、窓から俺に手を伸ばす……
「ウサジ様危ない!」
ヒッ! ジュノンが俺に正面から抱きついて来た! そしてお姉ちゃん達に背中を向け、伸びて来る手を払いのける!
「おやめ下さい! ウサジ様は長旅でお疲れなのです!」
いや長旅だし疲れてるけどお姉ちゃんならいつでもウエルカムだよ? とはいえこんな勢いで詰め寄られるとさすがの俺でも恐怖を感じる。
「ええい、よすのだ! 大丈夫かウサジ殿!」
オイゲンはどうにか馬車の横に馬を寄せて来た。
「これは一体、どういう事なのです」
「前に貴様がここで我輩を一喝した事で、皆非常に驚いたのだ、王国17柱には歓楽街や娼婦に加護を与える神は居ないので……」
……
何、だとぉぉお!?
「ウサジ様……? ウサジ様! 外は危険です!」
俺はジュノンを振り払い、馬車の窓から這い出し、その屋根に立つ……使い古しのテントで作ったローブ、使い込まれたひのきのぼう、俺の姿は群集が想像していたものとは少々違っていたのだろう。沸き立つ人々が少し鎮まる。
「ヴェロニク様は……皆さんを祝福しまぁぁす!!」
そして俺がそう絶叫すると、周りは完全に静かになってしまった……
え……嘘だろ? ここでもっと、わーっと盛り上がると思ってたのに、何なのこれダダ滑りなの俺? マジかよー!
「この町には人の生きる事の全てが詰まっている! 喜びと楽しみ、労働の後の生き甲斐、辛い時の憂さ晴らし! 生きて行く為の仕事、子供達を食わせて行く為の手段、輝く為の舞台! こんな町にこそヴェロニク様の愛は必要だから! ヴェロニク様は皆さんを愛し祝福し、皆さんの日々の暮らしに寄り添います!」
あと……今たぶんこの通りには周りじゅうの店のお姉ちゃんがほとんど全員出て来てるんだと思うんだけど……やっぱり居ない……ダークエルフは居ないんだ、この世界……つーかエルフも居ないんだな、先ず。そうか。居ないか。
ん? さっきまで窓から手を伸ばしていた薄着のお姉ちゃんが、真顔で俺を見ている。
「じゃあ本当に、あたし達みたいな女でも、愛してくれる神様なんだね?」
「当たり前です! 誇りを持って下さい、貴女は多くの男達を救う仕事をしているのですから!」
―― ワ ア ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
うおおっ!? 群衆から地鳴りのような歓声が沸き起こる!!
ここに到っても俺自身はただヴェロニクが好きなだけのエッチな妖精さんであり、宗教には全く興味がないのだが。
「お客の皆さんは店とお姉ちゃんお兄ちゃんに感謝を! お店はお姉ちゃんお兄ちゃんに十分な給料を! お姉ちゃんお兄ちゃんにはヴェロニク様のご加護を! さあこれ以上お客様をお待たせしてはいけません、皆さんどうか、元気一杯に営業をお続け下さい!」
湧き上がる群衆。いいのかヴェロニク? ほっといたら俺、どんどんこんな事しちゃうぞ。