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0200 さすがに旧スクとか知らんわ、俺もそこまで年じゃねーよ

 今日もヴェロニクは上機嫌で、入場ゲートの前までやって来て俺を出迎えてくれた。


「ウサジー! 今日は早かったわね、たくさん遊べそうで嬉しい! 今日は何して遊ぶ? 水道管ゲーム? モノポリー? あっ、それより水遊びよね、湖に行きましょう、ボートの上でお花見をしましょう!」


 俺はわざとらしくテンションを上げるヴェロニクの腕をつかむ。


「ヴェロニク様、貴女ヴェロニカの様子を内緒にしてましたね? 私が想像していたのよりずっと、貴女のファン、いや信者は増えていました、ヴェロニカを訪れる巡礼者には相当遠くから来てる人も居ました、貴女への信仰は大流行してるんじゃないんですか? その事は私より貴女の方がよく御存知でしょう」


 俺がそう言うと、ヴェロニクは半笑いのまま硬直していたが。


「ねえ、ウサジ。私達、このままじゃ、だめ?」


「……どういう事でしょう?」


「ウサジは昼はあの子達と今まで通り旅をして、魔物を倒して人々を救って、そして夜にはここに来て私と遊ぶの、私、ウサジの為にたくさん楽しい事を用意するから! この聖域ももっと楽しい場所にするわ、私、ウサジの世界の知識もいっぱいもらったから、カリンと二人で、ジェットコースターとか作って、」


 ヴェロニクはそう言ってさりげなく俺の手を離そうとしたが、俺は手を離さなかった。


「それではいけないって、本当はヴェロニク様も解っておられるのでしょう」


 この状況、俺も少しは予想していた。いや……予想っていうか前から言ってたもんね、ヴェロニクは。

 人々の前に立つ、自信が無いと。


「転移門のある旧ヴェロニク寺院は制圧しました、ゴールドは転移門の使用に反対しないでしょうし、あの寺院までの旅をしてくれるヴェロニク信者も居ると思います。魔王魂を取り込んだアスタロウの動向は気になりますが、その事も含めて、私は今こそ、ヴェロニク様があの世界に戻る時だと思います」


 ヴェロニクの後ろから、少し呆れ顔のカリンもやって来る。


「ウサジの言う通りですよ、ヴェロニク様。信者の皆さんだけじゃないです、他の神々もヴェロニク様が顕現されるのを待っておられますよ」


 他の神々……そういや王国公認の17柱の神様なんてのも居るって聞いたな……仕事神ワークスとか。他の神々との関係も、そういう感じなのか。


 さて、ヴェロニクは俺に腕を掴まれたまま、俺からもカリンからも目を背け、向こうを向いている。


「ヴェロニク様、こっちを向いて下さいよ……」


 その瞬間! ヴェロニクは滅多に使わない神通力を使った! 俺が掴んでいたヴェロニクの腕は子豚のぬいぐるみに変わった!? そしてヴェロニクは聖域の奥に駆けて行く!?


「待ちなさいヴェロニク様! 仕方ない、追うぞカリン」

「捕まえられるかねえ……」



   ◇◇◇



 二百年の間人々から離れていたヴェロニクは、元々そこまで社交的な性格ではなかった事もあって、女神として直接人々と接する自信を失っていた。


「ヴェロニク様ぁぁ! 出て来なさい! わがままを言ってる場合じゃありませんよ! しっかりして下さいヴェロニク様!」


 カリンは容赦なく聖域のの野山にそう呼び掛ける。俺も叫ぶ。


「ヴェロニクさまー。出て来て下さい、一緒にチョコパイを食べて人生ゲームをしましょう、ヴェロニクさまぁあ」


 カリンが眉をひそめて振り向く。


「どうもウサジの呼び掛けは甘いね、前から思ってたんだけどね、お前はヴェロニク様を甘やかし過ぎじゃないのかい?」

「そんな事、考えた事もないぞ」

「お前ね、自分がヴェロニク様の唯一の使徒だという自覚はないのかい? こういう時にヴェロニク様を導くのはお前の仕事じゃないのかえ」

「お前だってヴェロニク様の世話係なんだろう、何とかしてくれよ」


 森の中、湖のほとり、山腹の鍾乳洞しょうにゅうどう、各所の東屋あずまや沐浴もくよく場……ヴェロニクはどこにも居ない。


「みなさん、ヴェロニク様を見ませんでしたか……?」


 楽園のあちこちでたわむれている、転生待ちの子供達も、笑顔で首を振るばかりである。


 あんまり運動の得意なイメージのないヴェロニクだが、かくれんぼは得意みたいだな……もしかしたら透明になれる神通力とか使ってるかもしれないし。


 ……


「仕方ない。じゃあ今日はカリンと二人で遊ぼう」

「仕方ないとは失礼だねえ、女心をなんだと思ってるんだい、お前そんなんだから現世ではモテなかったんじゃないのかえ。ざーこ、ざーこ、ふぇふぇ」

「じゃあ一人で遊ぶからいい」

「解った、解った、あれだろう? アタシとねんごろに可惜夜あたらよを楽しむ所を見せつけて、ヴェロニク様を誘い出そうって魂胆こんたんだね? そう来なくちゃ面白くないよ、ふぇふぇ」

「そこまで言ってない……絵本でも読んでやるから、お前の家に行くぞ」


 俺が手を引き出すと、カリンは衣装を早変わりさせる……


「その水着はやめろと言ってるだろうッ……」

「嘘だよ嘘、お前はこれが好きなんだろうぅ? ふぇふぇ。せ我慢をしなくても、いいんだよぉ?」


 そう言ってスクール水着姿のカリンが俺の腕に抱きついた瞬間、


「きゃあああああああー!!」


 ヴェロニクは悲鳴を上げながら真後ろから現れてカリンを俺の腕からもぎ取り、小脇に抱えて、森の中をドタバタと逃げて行く。


「ヴェロニク様ー! 待って下さい、マリオブラザーズでもいいですよ! ちゃんと手加減しますから!」


 俺はその場で呼びかける……しかしヴェロニクは止まらない。

 まあ、カリンを抱えている今なら追い掛けたら捕まえられるかもしれないけど、無理やり捕まえてもあんまり意味がないんだよなあ。


 本人の気持ちが、変わらないと。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
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是非是非見に来て下さい!
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