0002 触手はずるいよな、こっちは一本で勝負してるってのに
「危ない所を助けていただき、誠にありがとうございます」
猿轡も縄も、やっと取り払って貰えた。有り難い。とても有り難い。
俺はまず、土下座をしていた。
「それで……どうしてこんな箱の中で縛られていたの?」
「全く覚えていません。私が自分で自分を縛って箱に入った訳ではないと思います。きっと山賊にでも捕まって、身包み剥がれたのでしょう。皆さんのおかげで助かりました。今後は用心して生きて行きたいと思います」
俺はそう言って、頭を地面すれすれまで下げたまま、後ろを向き、そのまま這って行く。
人間、引き際というものがある。
この三人組の美少女に興味が無いと言えば嘘になる。嘘になるが。猿轡をされて縄を掛けられ箱の中に詰められるという窮地を脱してみると、それまで見えなかった物も見えるし、思い出せなかった事も思い出せて来るのだ。
うまくは言えないが、この三人から出来るだけ早く離れなくてはいけない。何故か? 勘だ。勘がそう言っているのだ。
ヒゲに鉢巻き、腹巻にステテコ姿の、俺の脳内に住む小さなおっさん妖精が、逃げろ! 早く逃げろウサジ! そう言っているのだ。
「……ステータス!」
は?
俺の後ろからついて来ていたらしい、水色が……そう短く叫んだ。
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ウサジ
レベル1
そうりょ
HP15/15
MP3/3
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なに? 今時ありえないこの簡単なステータスは……?
「レベル1!? それでどうやってここまで来たんだ!?」
「僧侶なのに……魔法がありませんわ」
何だよ……本当に何も無ぇじゃん……あの女神!
まあ、仕方無いか……
「ウサジさん! 一人じゃどこにも行けないよ、僕達が村まで連れてってあげるよ」
名前バレたし!
水色が俺の前に回って来て言った。俺はまだ面を上げていなかった。
どうする? どうするどうする? この可愛いけどありえない水色の僕っ娘について行くのか?
「大丈夫です! 一人で帰れますから! それじゃ!!」
俺は立ち上がってダッシュした! どこへ? 森の中へ?
目の前の茂みが揺れた。
「ブシュール!! グジュルブシュシュ!!」
茂みの中から、それは現れた……2mもあるキノコのような太い軸に真っ赤な傘……そして足元に無数の触手の生えた……あれ! あのモンスターだ! 名前は知らねえ!
「ヒッ……ヒエエエッ!?」
俺は回れ右をして……情け無ぇが……女の子達の後ろへと走る。
いいのか逃げて? だけど俺武器も何も持って無いしレベル1だし魔法もないし彼女居ない歴=年齢だし……あああっ!? でも俺が逃げたせいで、あれに立ち向かった女の子達が、あれに捕まってあんな事やこんな事をされたらどうしよう!
「全く……」
薄紫が呟き……背後に背負っていた両手剣を抜いた……ああっ!? 最初の餌食は女戦士か!?
俺が期待を……いやいや! 義侠心を持って顔だけ後ろに向けると、薄紫の剣は一瞬であれをアレごと、真っ二つにしていた。
なあんだ、終わりか……いやいや、良かった、良かった、うん。
そう思った俺の足に、何かがぶつかった! 痛ってェ!
後ろ向いて走るから岩でも蹴っちまったか!?
俺が蹴ってしまった何かは、10mばかり空を飛び……落ちた。サッカーボールくらいの何か……次の瞬間。
―― ドカァァァァァァァアアアアン!!!!
それは音と閃光を上げ、大爆発した。
薄れ行く意識の中、声は聞こえた。
「きゃああああ!! 超爆弾岩が!?」
「何だと!? 後ろを取られていたのか!!」
「ウサジさんがあれを……ウサジさん! ウサジさぁぁん!!」