0197 あなたは乳首が好きですか? 私も好きです。お互いの乳首をなめ合いませんか
雑な世直しをしながら森を進む事数日、その間も俺達はいくつかの川を渡って来たのだが。
「この一際広い川は、ヴェロニカ郊外を流れていたのと同じ川じゃないですか」
「出発地より、かなり上流に出てしまったみたいですね」
途中で道を見違えたのか……残念だ。行きにあった露天風呂のある村に寄りたかったのに。そして今度こそ皆で裸の付き合いをしよう。もちろん風呂の中なんだからメイクは落とせ。タオルは浴槽に入れるな! 水着? ふざけんなプールじゃねえぞ!?
「どうかしましたか? ウサジさん」
「いえ……向こうに渡りますか。ノエラ」
「はいはい、任せて下さい!」
帰りの旅がスムーズなのはノエラとゆうしゃクラウドのおかげでもある。ちょっとした川や谷間なら、この技で渡れるのだ。
ノエラの天秤棒に、端からジュノン、俺、間を開けてラシェル、クレールが捕まる。そして真ん中にノエラが入って肩に担ぐ。
「よいしょお! みんなしっかり捕まっててよね!」
「やったー! さすがノエラ力持ちね!」
ノエラはそのままゆうしゃクラウドに乗り、ゆっくりと川を渡り出す。天秤棒はノエラの背丈より少し長い程度なので間隔はぎゅうぎゅうだが、短い間ならどうという事はない。
「ここを渡れば、ヴェロニカはすぐそこですね!」
川の中ほどまで来た所で、ラシェルがそう言った。
その2秒後。不意にゆうしゃクラウドは、ノエラを支えるのをやめた……それはつまり、ノエラもノエラの天秤棒に捕まっている俺達も、川面へと自由落下するという事を意味する。
「わあああ!?」
―― ドボドボボーン!!
森の中を流れる濁った川の水はそこまで冷たくなく、流れも急ではなかったが、この世界には子供に泳ぎ方を教えてくれる義務教育も気軽に水と触れ合える市民プールもなく、まともな泳ぎ方を知っているのは俺だけだった。
マジで、あと少しで魔王オックスバーンを倒した俺達勇者パーティが全滅する所だったと思う。
この戦いで俺は異世界転移からここまでずっと共に戦って来た相棒、ぬののふくを失った。上着とシャツとズボンを素早く脱いだ俺は仲間達にひのきのぼうやポーションの空き瓶など浮力のある物を持たせ、どうにか一人ずつ向こう岸まで連れて行った。
◇◇◇
「一体……一体何事が起きたんですか!」
最後にノエラを送り届けた俺は、ボクサーブリーフ一丁の姿で岸に上がる。これもHDDの中で入手しました。人妻がアイロンかけてるシーンの小道具でした。
「ごめん……ごめんみんな……」
最後に救出されたノエラはまだ息が整っておらず、岸辺に四つん這いになって俯いていた。
「何考えてたのよノエラ! どうしてあんな所で煩悩に負けるのよ!」
クレールにそう言われても、ノエラはしばらく黙っていたが……やがて震え声で口を開く。
「ラシェルが言ったじゃないか……ここを渡ればヴェロニカはすぐだって! それってつまりどういう事!? 僕達の旅はもうすぐ終わりって事じゃないの!?」
ノエラは顔を上げる。クレールとラシェルは顔を見合わせる。黙って焚き火の準備をしていたジュノンも振り向く。
「魔王オックスバーンは倒しました、次の魔王はアスタロウかもしれないけど今の所よく解りません、じゃあ僕達の次の旅はどうなるの!?」
「な、何言ってるのよ、王様に報告した後はまたあの元魔王城に行くんじゃないの? ゴールドがまとめるようになったからって、人間と魔族の争いが終わったとは限らないし、私達の力はこれからも必要よ……」
「そこにウサジは居るの!?」
ノエラは顔を上げる。油性マジックで描かれた極太カモメ眉毛と犬ヒゲは、川に落ちたぐらいでは揺るぎもなく残っている。ノエラは茫々と涙を流しながら続ける。
「その時にはもうウサジは居ないよ、だってウサジはたった一人のヴェロニクの使徒なんだ、この前は王様たちだって女神ヴェロニク様の事は良く知らず半信半疑だったかもしれない、でも今は違う、もうヴェロニク様が大変な力を持った女神だという事は知れ渡ってるんだ、僕が王様だったら、もうウサジが危険な荒野に冒険に行く事を許さないよ!」
「そ、そんな……ウサジさんは王国の市民じゃないですよ、ヴェロニク様がこの世界に派遣された使徒なんです、国王の命令に縛られる理由はないです」
ラシェルにそう言われても、ノエラはかぶりを振る。
「僕はもうマドレーヌ王女にも会って来たんだ。王女様、すごく怒ってた、ウサジが黙って旅立った事に。少なくとも王女は絶対ウサジを手放さないよ、それに……他ならないウサジ自身が、きっともう冒険には行けないって言うと思う……」
ノエラはそう言って、再び俯く。俺自身が? 冒険に行くのをやめるって? どういう事だよ……? ああ、ジュノンが焚き火を起こしてくれたな。寒いからそっちへ行こう。
「どうぞ」
ジュノンはさらに道具袋から出した濡れてない毛布を俺の肩に掛けてくれる。
「ノエラさん。私はまだ事態が落ち着いたとは思いません、アスタロウの事は多分人類側では私が一番よく知っています、私はこれからも魔王の呪いを解く為に戦います」
ジュノンが毛布を掛けてくれて良かった。こういう台詞をパンツ一丁で言うのは心許ない。
しかし。
「ウサジさんは知らないんです……世界はあの時のままじゃないんです」
ノエラは俯いたままそう言った。あの時のままじゃない? その事について俺が考えようとした、次の瞬間。
「ウサジぃぃ!」
ノエラは俺に飛びついて来た!? 俺の首に腕を回し、首に噛みつく! いやキスをして来る!
「何してるのよノエラ! やめなさい!」
「もうチャンスはないかもしれないんだよ!? ヴェロニカについたらウサジは雲の上の人になっちゃうんだ、僕らがウサジに触れるのは! あと少しかもしれないんだよ!」
ただちにノエラを引き剥がそうとするクレールに、ノエラは振り向いて応える、それを見ていたラシェルは……
「ウサジさぁぁん!」
反対側から抱き着いて来た!? そうなるともはやクレールも……
「ずるい二人とも! あたしだってウサジが欲しいー!」
正面から抱き着いて来る! ぐえっ、お前ら自分の力ってもんを考えろ! ヤワな男だったら死んでるぞそのタックル!
「嫌だぁぁウサジと別れたくないぃぃい!」
「ウサジさぁぁん本当に居なくなっちゃうんですかぁぁあ!?」
「ずっと一緒だと思ってたのに! ウサジぃぃ何とか言ってよぉ!」
……
俺は腕を広げ、わんわん泣きながらすがりつく三妖怪を柔らかく抱き寄せる。
「出会って、成し遂げて、別れて……人はそうして生きて行くのです。お前達は若い、これからもこういう出会いと別れはあるでしょう」
人がいい話をしてるのに、ラシェルは俺の乳首を舐めている。もうええわ。
「私とお前達が成し遂げた事はなくなりません、それは記憶の中に残り続けます。その記憶が新しい出会いにきっと力を貸してくれます。皆にヴェロニク様の祝福あれ」
いつものお仕置き呪文は、今日はやめておく。そうか。こいつらと一緒の旅、もうじき終わりかもしれないのか。