0196 ヤマトも帰りはめっちゃ速かったらしいぞ? うちの爺ちゃんがそう言ってた
この世に溢れるモンスターに関して、人類は魔王と魔族がバラ撒いているものだと考えている。
しかし実際に魔族が飼育して増やしたり、研究所で作り出したりしているような魔物はごく僅かで、ほとんどの魔物は魔族が未開の地から連れて来て放した外来種らしい。
それで俺達は一応一部の魔物からは襲われなくなる魔除けを、ゴールドから貰ったのだが。
「普通にほとんどの魔物が攻撃して来ますね!」
「結局毎晩見張りが必要じゃない!」
途中、鮫肌の怪物サメデビルは俺の魔除けを見ると黙って道を譲ってくれた。相変わらずえら呼吸なので地上では顔色が悪い。
「もういいから、貴方達は海に帰りなさい」
俺が試しにそう言ってみると、サメデビル達は本当に近くの川目掛けて苦しそうに走って行った……マジで帰りたかったのかよお前ら。
夜は相変わらずジュノンと一緒に寝るのだが、こいつどんどん近づいて来てないか……? おかげで毎晩ろくに寝られねえ。
「ウサジさん! ウサジさん起きて、外を見て!」
おまけにやっと寝つけそうになった所をノエラに叩き起こされ、さあ敵襲かと慌てて外に出てみると、
「見て、あっちの空を、ほら凄いでしょ! 流れ星があんなに、あんなに!」
知らねえよ! 流星雨なんかで大人の男を起こすんじゃねえ! ああ……クレールもラシェルもポカーンと口を開けて空に見惚れている。何だあんなもん、ラシェルの魔法の方がよっぽど派手で綺麗じゃねーか。
……
まあ……元の世界じゃ絶対こんなの見れなかったな。ここには街灯や街の明かりも、車が走り回る道路もないし、大気汚染もない。
「……! そうだ、僕にはゆうしゃクラウドがあるんだ、待っててウサジさん、僕あのお星様を一つ貰って来る!」
「待ちなさ……!」
止める間もなく、ノエラはゆうしゃクラウドに乗って夜空をすっ飛んで行った。
この世界の物理法則が俺の世界と一緒かどうかは知らんが、流れ星は高度100キロメートルから50キロメートルくらいの間で光っているという。その移動速度は時速10万キロメートルくらい、さすがのノエラでも手も足も出ないだろう。
◇◇◇
それでもどうにか、毎晩ヴェロニクには会えた。
「王国やヴェロニカが今どうなっているのか、教えて下さいよ」
「だーめ。そんな事をしたらウサジの旅の楽しみがなくなるわ。うふふ」
あれ以来、ヴェロニクの機嫌はずっと良かった。
ゴールドの誘惑に全く耳を貸さなかった事も好印象だったようで、シルバーとのデートも不問のようだ。
「ねえウサジ、水浴びをしましょう、向こうは水が少なくてあまり出来ないのでしょう?」
あんなに恥ずかしがっていた水浴びもヴェロニクの方から誘ってくれる。根本的に好きなんだろうな、水浴び。
明るく笑ってる時のヴェロニクは本当に非の打ちどころの無い美しい女神様だ。まあそうでない時のヴェロニクもそれはそれで好きだけどね。
あーあ。俺もこんな子と十代のうちからキャッキャウフフしてみたかった。帰らない帰りたくもない灰色のティーンエイジに想いを馳せつつ、俺はイルカフロートに空気を吹き込む……これもHDDの中にあったAVの小道具のやつだが、ヴェロニクもカリンもたいそう気に入って湖に浮かべて遊んでいる。
◇◇◇
「おはようございますウサジ様、こちらへどうぞ」
そして目を覚ますといつもジュノンが洗顔と髭剃りと整髪の用意をして枕元で微笑んでいる。何でヴェロニクも三人娘もジュノンの事は何も言わないんだ。
そうして俺達は何日も荒野を旅して、やがて森林地帯まで戻って来た。
森では人間の村人が居る集落を見つけたのだが。
「たた、旅の人とは珍しい、どうぞここで一晩休んでいきなされ……」
「魔族にそう言えと言われているのですか? 魔王オックスバーンは死にました。魔族の新たな盟主となったゴールド将軍は魔族と人間の停戦を望んでいます」
「え……ええええ!? そ、それは一体どういう事で……」
案の定魔族に占拠されていたその集落を、俺達は解放する。村人を奴隷として扱き使っていた、事情を知らない魔族は当然抵抗して来た。
「適当な事を言うなァァ! 魔王様が貴様らなんぞに負ける訳が……」
魔王族の兵士は攻撃力は最強だが味方と連携する能力に乏しく、また一度ダメージを受けると立て直し方を知らない。そういう特性を既に十分理解していた俺達は、連中を簡単に捻じ伏せ、死なない程度にボコボコにする。
「ゴールド将軍の名の元に、命だけは助けてあげましょう」
森林地帯にはこの村の他にも、魔族の奴隷となった人々の集落があるという。俺はボコボコにした魔族共から無理やりその話を聞き出す。ゴールドに教えて貰ったのだが、魔族の男は勝てないと思った相手の言う事は素直に聞くので、ボコボコにするのが一番手っ取り早いのだそうだ。
「ではお前だけ私達について来なさい。残りの者は城に戻りゴールド将軍の指示を仰ぐように」
俺達は捕まえた魔族兵を一人だけ連れて、先へ進む。
深い森の奥に、静かな谷間に、人間の文明から切り離されて残ってしまった、人間の隠れ里はあった。だがそれは全て魔族に見つかり、占拠されていた。俺達はそういう隠れ里を、帰り道のついでに解放して行く。
「皆さん、死なない程度にですよ、死なない程度にボコボコにして下さい」
「かしこまりました! 死なない程度一丁!」「了解よ!」「行くぞー!」
ラシェルが、クレールが、ノエラが、占拠した集落を牛耳っていた魔族兵に襲い掛かる。俺も襲い掛かる。
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ウサジ
レベル99
そうりょ
HP932/951
MP255/255
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ノエラ
レベル99
ゆうしゃ
HP961/961
MP292/328
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クレール
レベル98
せんし
HP971/999
MP99/109
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ラシェル
レベル89
けんじゃ
HP477/491
MP713/811
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ジュノン
レベル59
こどうぐ
HP312/312
MP73/77
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残念だが俺とノエラの成長はこれまでか。クレールもほぼカンスト気味だな。
まあ……オックスバーンも倒したし、後は何とかなると思うけど。
ヴェロニク様、どうか御加護を。
「解ったッ! 解った降参するから! 命ばかりは助けてくれッ!」
「ノエラさん、クレールさん、ラシェルさん、もういいでしょう」
俺達は人助けなどもこなしつつ、帰り道をサクサク進む。