0194 政略的にもエッチすべきと俺の脳内のエッチな孔明が言うんだけど、うーん……
俺達は城の新館一階でツキノワグマ型魔族が経営しているダイニングに行き、普通に朝食を食べる。
「大丈夫なの? これ食べて」
「毒だの睡眠薬だのなんて、そんなにすぐに用意出来ませんよ」
三人娘は三妖怪に戻っていた。何故……どうして……ブサメイクをしてイモジャージを着て、食事がバイキング形式だからと言って皿にパンとベーコンと果物を山盛りにして持って来て、ガツガツ食っている。
「ウサジさん、マジックって洗っても落ちないって本当ですか?」
メイクでインチキをしていた事がバレたノエラは仲間達の手で、極太カモメ眉毛と犬ヒゲを、油性マジックで描かれていた。
「何日か経てば落ちますよ……無理にゴシゴシ洗うのは駄目です、肌に悪いです」
◇◇◇
ゴールドはどうにか魔王城の魔族共を掌握していた。一部には城を去った者も居るそうだが、ほとんどの者はゴールドに忠誠を誓ったようである。
昨日の決戦の舞台となった宴会場では魔族達が片付けをしていた。たくさんの椅子やテーブルが壊れたし、天井には大穴が開いている……天井の修理は吹き抜けの一階から足場を組んでやるらしい。
俺は昨日魔王と二天王が居たひな壇の方に近づく。ここは宴会場の全ての席からも吹き抜けのバルコニーからもよく見える、ステージのようだ。最上段には金屏風まで置いてありやがる。
俺はその屏風をどけてみる。その後ろには、たくさんの板を打ち付けられた謎の壁があった。
「ラシェルさん、貴女の鍬を貸してくれませんか」
「この板を剥がすんですね? 大丈夫です、私出来ますよ!」
そう言ってラシェルは壁に片脚をつき、がに股になって踏ん張って、鍬で板切れを剥がしにかかる……いや……ラシェルのそんな姿は出来れば見とうなかった……この子は華奢で真面目な優等生キャラなのに……
「私もやるわよ、ねーウサジさん、この向こうに何があるの? 教えてよう」
クールビューティをどこかに捨ててしまったクレールも平鋤を使って板を剥がし始める。ノエラは二人の作業を手伝う。
やがて板は剥がれ、その向こうからは謎の扉が出て来た。
この壁は宴会場の奥側にあり、その向こうは城の外のはずなのだ。
「なんなの、この扉? 非常口?」
「いいえ……この扉こそが、その昔ここにヴェロニク寺院が建った理由なんです。魔王はこの扉を誰にも利用させない為に、ここを根城にしていたのでしょう」
この扉を開ける事が出来れば、ヴェロニクはこの世界に完全復活する事が出来る。ヴェロニクの恵みはこの世界を照らし、たくさんの人々が悩みや苦しみから解放されるはず。
しかしこの扉を開けるには、この場所にたくさんのヴェロニク信者を集めないといけないらしい。だけど人間の世界はここから遠い……たくさんの信者が長い旅をしてここまで来てくれるのかどうか……
あるいは魔族がヴェロニク信者になって女神の復活に手を貸してくれたりはしないか? いくらなんでもそれは無理だろう。
では人間の軍勢にここまで攻め込んでもらうのはどうか? ガスパル王やオイゲン将軍に頼んで動いてもらう事は出来ないか?
「土台はしっかり組むのだ、もっとぎゅうぎゅうに縛れ!」
ああ。【妹ばかり三人居ます】が、天井修理の為の足場の建設のため、黄色魔族や動物魔族を率いて陣頭指揮を執っている。
「後で上まで登る者の気持ちになって組め! 緩いと困るのだ!」
真面目な性格なんだなお兄ちゃん。言うだけじゃなく率先して模範を示し工事を指揮している。
人間の軍勢をここに向けるというのも、現時点では出来ない。
はあ。俺の冒険、まだまだ終わりそうにねえな。