0019 蟻も集まれば象を倒す
地上に堕ちてもがくワイバーン。まだ少し凧綱も絡まっている。
「うおおお!!」
剣を、棍棒をもった男達が殺到し、めいめいに得物を振り上げ、ワイバーンを叩きまくる。剣でも棍棒でもたいして変わりはないようだ。
「食らいやがれ!!」
俺も檜の棒で叩く。
「下がって!」
「そこをどけ!!」
そして真打登場だ。ノエラが、クレールが、鍛え上げられた剣の技をワイバーンに浴びせる。この二人の斬撃は、きちんとワイバーンの伸縮性の強い皮を切り裂いていた。
「ギャアアアアアアア!!!」
ワイバーンは空を引き裂くような甲高い悲鳴を上げ、羽ばたきだす。
「こいつを空にあげるな! 皆しがみつけ!!」
「行くぞ!」
クレールが、ノエラがそう言って実際にワイバーンにしがみつき、なおも刃を浴びせる。周りの者もそれに習い出す。
「トカゲ野郎! さっさとくたばれやがれ!」
「ハゲの仇!」「ハゲの仇め!」
俺もワイバーンの首にしがみつく。
「うおおお!!」「うわああ!!」
ワイバーンは助走をつけようと、十数人の人間に貼りつかれたまま地面を走り出す! やべえ! 森が、森が迫るッ……!!
「ぎゃあああ!」「落ちる!! 落ちるウウ!!」
俺の目の前が真っ暗になるッ……一瞬だけ……違う、実際にはこれは白い……ああ……これはあのレースクイーンのような、クレールの衣装のお尻の部分……まずい! 休憩から時間が経ってしまっている俺のクレイジーホースが反応してしまう!
木々にぶつかるワイバーン。振り落とされて行く男達。
「くそーッ! この! この! いい加減くたばれ!!」
俺の目の前で、クレールはさんざんにワイバーンの首に斬りつけていた! いいぞ頑張れクレール! ううっ……緑色の飛沫が俺の顔面に……ワイバーンの血だろうか……
「ギヤアアアアアアア!!!」
一際大きい絶叫を上げ……ワイバーンの足が止まった……
「やったか……?」
「やったぞ!! ワイバーンが動かなくなった!!」
「俺達の……俺達の勝ちだあああ!!」「ハゲーッ!! お前の仇は討ったぞーッ!」
方々で喝采が上がった。男達が叫んでいた。ワイバーンはまだ少し痙攣していたが、ノエラの、クレールの斬撃で、殆ど首を切り落されていた。
おっ……俺のレベルも上がった感じがする……ただ、かなりの人間が参加した戦いになったので……経験値もだいぶ分散してしまったようだ。
「ウサジー!! ウサジのおかげでワイバーンも倒せたよ! 凄いよウサジ、御願い、僕をめちゃくちゃにして!!」
ノエラはそう言っていきなり飛びついて来た。俺はノエラに抱きつかれたまま5mほど吹っ飛び、岩に側頭部をしたたかにぶつけ、意識を失った。クレールもそうだけど、もう少し自分の馬力って物を考えて行動して欲しい……
昨日葬式だった村は、今日は祭りとなった。ワイヴァーンは村の入り口まで引きずって来られ、晒し者となった。
「祭りだ祭りだ!」「ハゲの仇祭りだー!!」
ワイバーンの頭の所には鶏冠のような毛が一束生えていたのだが、いつの間にか誰かにその部分を皮ごと切り取られていた。
ノエラの蘇生魔法で復活した俺は、村のハゲ共に揉みくちゃにされていた。
「聖者ウサジ! 聖者ウサジだ!」
「ありがとう僧侶ウサジ!」
まあ、誰であれ持て囃されるのは気持ちがいいもんだ。密かな願いも叶ったしな……俺は遅くまで大いにハゲ共と杯を交わし、飲み、騒ぎ、自慢話をした。
「あの、さっきはごめん、それから……僕、混乱して変な事言わなかった?」
ノエラは顔を赤くして頭を下げていた。
「本当にお前の事を誤解していた! どうかこれからも一緒に居てくれ、ウサジ!」
クレールは上機嫌だ。まあ良かった。
「ウサジさん、空いた杯はこちらにいただきますよ、そのお皿とスプーンも……」
自分で出来るからいいです、ラシェルさん……
さて。
祭りが終わり……俺は普通に、宿屋の男部屋に行って、布団を被り眠りについた……