0189 何故焚き火をしているのかって? 急に焼き芋が食べたくなって(涼しい顔)
ゴールドが魔族を掌握出来るかはまだ解らず、俺達も決して人類の代表団ではない。
そして人間と魔族が協力し合う事は、俺が思う程簡単な事ではないのだろう。何なら既にノエラでさえ、不満そうな顔をしている。
「貴女の気持ちは解ります。ついこの前命懸けで追い掛けて倒した相手に協力するのは納得が行かないかもしれませんが、どうかここは私に免じて」
「違いますウサジさん、何で僕だけジャージ上下のままなんですか、ラシェルのあんなフリフリヒラヒラの服は場違いですよ、クレールはどうかしてます、戦士がおへそ丸出しなんておかしいです」
知るかよ。お前がジュノンの服を取り返して、代わりにそのジャージ押し付ければいいだろ。
……
ジュノンなあ。
俺はせっかく瓢箪の中に閉じ込めていたアスタロウを開放してしまった上、ある意味最悪の形で逃がしてしまった。これではジュノンの呪いを解く方法は永遠に解らないかもしれない。
「ウサジ様! また1セット御願いします!」
そのジュノンが満面の笑みを浮かべ、洗った空瓶に井戸水を入れただけの物を山ほど持って来る。何でそんなに笑ってられるんだお前。自分の身に何が起きたか気づいてないのだろうか。
「はい……しゅくふく……!」
そしてヴェロニクのしゅくふくには、ただの水をヒーリングポーションに変える力があった。もっと早くに教えてくれよ……今までの苦労は何だったんだ、このポーションを売りまくれば、毎日異世界風俗で豪遊出来ただろうに。
ポーションは金を取らず、シルバーと白波達の手で魔族共に配布されている。
俺達は魔王の部屋の捜索もした。本棚にはもっともらしい本がたくさん収められていたが、棚に積もった埃を見るに、どれも読んではいなかったらしい。ヴェロニクと関係ありそうな資料は何もない。
「何か見つかっただろうか」
クレールに声を掛けられた俺は、ベッドの裏から出て来た本をそっと後ろ手に隠す。
「あまり読書家ではなかったようですね」
それは半分は嘘だった。枕の下、タンスの引き出しの奥、風呂場の天井裏などから、俺は次々とエッチな画集やエロ小説を見つけ出し、誰にも見られないように道具袋にしまっていた……奴はなかなかの読書家だった。
後始末は俺に任せろ……オックスバーン、それが全力を尽くして戦ったお前へのせめてもの手向けだ。
◇◇◇
「今回の騒動は、魔王オックスバーンが人間の魔女の色香に惑い、同じ魔族の同胞である私と妹を殺そうとした事で起きた。道を間違えたのはオックスバーンであり、私でもお前達でもない!」
ゴールドは中庭に集まった魔族達の前で演説をする。一部の不満分子は既にこの城から出て行ったそうだ。
「オックスバーンは執拗にヴェロニクという女神の信者を抹殺する事に拘った。だが結果はこの通りだ。ヴェロニクの使徒ウサジは正々堂々、魔王オックスバーンと四天王に戦いを挑み、勝利した。我らは純粋な強さを信奉する誇り高き種族、ならば我らはウサジの強さを認めねばならん! そうだろう!?」
聴衆の反応は様々だが、不満の声も少なくない……大丈夫か、ゴールドちゃん。
「いいだろう、不満のある者は今すぐ前へ出ろ! ウサジはここに居て逃げも隠れもしない、何人でもまとめて、貴様らの相手になるだろう!」
ほげええええ!? 何を言い出すんだゴールド、まさかお前最初からこれが狙いだったのか!? 最初から数百人の魔族に俺をボコボコにさせるつもりで!?
しかし、聴衆のどよめきはそれで収まってしまった。
「ウサジ! お前からも何か無いか!」
ゴールドが話を俺に振る。勘弁してくれよ……俺こういうの一番苦手だっつーの。校長先生の話じゃないんだからさあ。
俺は中庭を見下ろすバルコニーの淵に進み出る……魔族共が全員俺を見上げてやがる。なんて光景だ全く。
「ああ……そこの貴方は確か、【大福なら10個は行ける】でしたね。この城下でも大福を売っている店があるんですか? あとで場所を教えて下さい」
俺に指で差された魔族の男が、驚いて目を見開く。周りの魔族達の視線がそいつに集中する。やっぱりそうだ、あいつ【大福なら10個は行ける】だ。
「貴方は【苦節十年初めてバスを釣りました】でしょう、十年は長かったですね、この辺りにもバスの居る池があるんですか? 私もバス釣りは好きです」
ブルーギルしか釣った事ないけどな、俺は。そいつも周りの魔族共に視線を向けられて慌てている。向こうには【お花屋さんが夢でした】も居るな。
「私は魔族の町にだってお花屋さんがあっていいと思います。花を贈る事も花を飾る事も、素敵な事だと思いますよ。それは決して軟弱な事などではありません、明日をも知れぬ日々を生きる我らの、生きる楽しみです。それから、妹が三人も居るお兄さん。ビー玉チャンピオン。食べられるきのこ博士……」
俺は行き掛けに出会った【食べられるきのこ博士】を指差す。そいつはきのこが入った篭を抱えたままこの集会に参加していた。そいつもやはり、周囲の魔族共に一斉に視線を向けられ、慌てふためく。
「貴方達の目にどう映っているか解りませんが、私はたくさんの魔族を見て来ました、他の人間達に比べれば、貴方達の事をよく知っていると思う! 御願いします。どうか私に協力して下さい。私も貴方達に力を貸し、魔族と人間が争わない未来を作ります!」