0182 この戦いには皆で勝つんだ、誰も死なせない、皆で生き残らなきゃ意味がない
「クククク……四天王とは数字の4が好きな魔王様が緩めの採点で集めた幹部組織、その実力には酷いバラつきがあるのだ……お前達が倒したのは四天王最弱の三人よ! フハハハハハ!」
残りの一天王はそう言って高笑いをする。アスタロウといいシルバーちゃんといい、イキらないと生きられない魔族というものの生き様に、俺は少々憐みを覚え初めていた……しかし。
「俺は他の三人のように甘くはないぞ……四天王最強のこの俺、ダンゴルモアをやる気にさせた事、後悔するがいい!」
いややる気は最初から出せよ仕事だろ。俺がそう思った瞬間、奴は大きく手を振った……すると空中に、赤く輝く光の槍が数十本現れる……
―― シュバババババババ!!
そして光の槍はミサイルのように飛来する! まずい、避けきれるか……何っ!?
―― ドゴォォォン!!
ギリギリで直撃は避けたものの、槍は俺の体のすぐ近くで爆発した! しかも槍には若干の軌道修正能力もあるらしい、これじゃあ誘導ミサイルじゃねえか!
「フハハハ、これはどうだ!」
わっぷ!? 続いて俺の視界は真っ白に霧に閉ざされた……痛ぇえ!? これは霧じゃない、細かく鋭い氷の塊が渦巻く冷気魔法だ!
畜生、いかにも武人っぽい鎧兜なんか着やがって、こいつ魔術師じゃねーか!
「お前ら……!」
振り返るとアスタロウはかなりのダメージを受けて転倒しているし、ゴールドも膝をついている、くそ、こいつらの回復が先だ! 俺はそれぞれの手からしゅくふくを放つ。
「しゅくふく! しゅくふく!」
その間に、動きを察したラシェルが俺とダンゴルモアの間に飛び出す、大丈夫かラシェル……!
「ククク、女に守られるとはいい身分だな」
「ええ、貴方には無い経験でしょうね!」
「なッ……何をこの小娘!」
再び振り返った俺が見たのは、ラシェルへと迫る光の槍の束だった……! あの数は危ない! 俺はラシェルの前に飛び出す!
いや、飛び出そうとした。
だけどラシェルは後ろ手に小さく、飛び出さないようにと指示して来た……俺はラシェルを信じ、ぎりぎりで踏み止まった。
ラシェルに向かって飛来した光の槍の束は、数メートル手前で何かにコントロールを奪われたかのように散開し、
―― ド ド ド ド ドドーン……!
辺りに居た魔族兵を吹き飛ばしながら爆散した……危なかった、俺が前に飛び出していたらかえってラシェルの防御魔法を妨げてしまったかもしれない。
「私、優等生ですから!」
ダンゴルモアの動きが止まる。先程までの余裕の表情は消え、慎重にラシェルの出方を探っている。
ラシェルも自分からは仕掛けようとしない。ダンゴルモア自身はまだひな壇の途中に居て距離があるので、お互いに後の先を取ろうという構えなのか。
「ウサジさん、このままでは分が悪いです」
ラシェルはそう、背中越しに囁く……
メヒストを早めに処理出来たのは幸運だった。あれは格下相手にはとことん強いタイプの敵なので、実はかなり危険だった。
バルコニーの敵はしつこく顔を出して弓を射ようとして来るし、広間の敵も前列の打撃と後列の魔法で攻撃して来る、それをノエラが八面六臂の活躍で封じているが、このままでは攻勢に移れない。
クレールはダンゴルモアに接近出来ないか? 難しそうだ……あいつには密かにゴールドの護衛を頼んである……今は貴重な味方の魔族を失いたくない。
「やれやれ……結局俺が出ねェと片付かねェのか。どいつもこいつも、役立たず共め」
そして……この状況で魔王が動き出した! まずい、一気に流れを持って行かれる……
その時。
「きゃあああ! 何だお前は!?」
六階辺りのバルコニーから女の悲鳴がした……いやあれはメーラの声だろ、何が起きたんだ?
「た、助けて! こっちにも敵が!」
やはりメーラだ、先程現れたのとは反対側のバルコニーから顔を出し、魔王に手を振っている……だが消えた……いやまた現れた、誰かに斬りつけられて逃げ回っているようだ。
「何だとォォ!? だから隠れてろって言ったろうがァァ!」
魔王は二階のバルコニーに飛びつくと、キングコングのように三階、四階とよじ登って行く!
「ファイアーストーム!」
すかさずラシェルが放った魔法は、吹き抜けをよじ登る魔王に背後から襲い掛かる!
「のおおお!?」
―― ガシャアアン!!
そして思わず手を離してしまった魔王が階下へと落ちる!
「きゃあああっ!?」
そしてラシェルが!? 睨み合っていたダンゴルモアから目を離した瞬間、あのミサイル魔法の束をまともに喰らい、吹き飛ばされた!
俺はこちらに飛ばされて来たラシェルを受け止める! 何て無茶するんだよ優等生が!
「ウサジさん……後は御願い……」
「ラシェル!?」
「私も……キス……欲しかった……」
「ラ……!」
俺の腕の中で力を無くしていくラシェル……! おい嘘だろ!? ラシェル!
俺はラシェルの唇に顔を近づける……
「ステータス」
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ラシェル
レベル78
けんじゃ
HP378/414
MP399/701
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「かすり傷じゃねーか!」
「チッ 後少しでしたのに」
ちゃんと防御魔法を掛けていたラシェルは俺の腕から跳ね起き、再び鍬を構える。