0018 立ち上がれ! 天を突け! 雄雄しく、そして凛凛しくだ!
そして俺は一人で櫓に登った。
地上は討伐チームと魔法チーム、凧揚げチームに再編成されていた。
この状況、何かに似てるな……なんだろう……あっ、三国志だ、赤壁の戦いの孔明。東南の風を祈祷で吹かせるとかそういう……
俺今、諸葛亮孔明みたいじゃん。すげえ。
はあ……だけどヴェロニクは怒ってるだろうなあ……
でも仕方ないじゃん! 俺ヴェロニクに付き合わされてたら、この村を救えないじゃん! 俺、何の為に異世界転生したんだよ!
見てるんだろうヴェロニク! 思うだけじゃダメか。
「見てるんだろうヴェロニク! 俺、この世界の人間を救おうとしてるんだぞ! 頼むよ! 凧揚げに適した風を吹かせてくれ!」
風は……吹かない。
「じゃあ俺、何で異世界転生したんだ! おかしいだろ! 俺本当は死んでないはずだったんだぞ! ヴェロニク! これで風吹かせてくれなかったら、俺はお前を許さない! 俺は元の世界で死んでない! さっさと元の場所に返してくれ!」
少し……風が吹き始めた……だけどまだ弱い……
「ごめん、言い過ぎた……だけど風くらい吹かせてくれてもいいじゃん……なあヴェロニク、お前が連れて来てくれたこの世界、俺はちょっとだけ好きになりかけてるんだ。いい世界じゃないか。みんななかなか思いやりがあって。この世界を見せてくれた、お前の事も好きになるかも……」
次の瞬間……風が吹き荒れた!! 手摺りに捕まらないと櫓から吹き落とされるかというくらいの突風が!! つーかやり過ぎ! 怖い怖い怖い、落ちる! 風強過ぎ!!
「奇跡だ!! ヴェロニクの僧侶が奇跡を起こしたぞ!」
「凄い上昇気流だ! 揚げろ! 凧を揚げろ!!」
下が騒がしい……凧が……巨大凧が! 上がって行く!!
ここは森の中の砦、凧を揚げる為のスペースが少ないのがこの作戦の最大の障害だった! だけど今、旋風のように巻き上がる上昇気流は、急ごしらえの巨大凧を無事上空へと浮かび揚がらせていた!
さあ……どうなる……
――ギェェェェエエエエ!!
釣れた! 釣れたよ! 初めてなのに釣れちゃった! 遠くの山から……巨大な獣の叫び声が……聞こえて来るよ!
――ギャオァァァアアア!!
雄叫びは次第に近づいて来る! とりあえず、櫓からは降りよう。俺がここに居て餌食になる必要は全く無い。
「釣れましたよ! 魔術チームの皆さん、御願いします! 凧揚げチームも気をつけて! 合図があったら全員手を離すんですよ!」
何となく翼を持つ巨大生物風の形に作られた巨大凧。その翼長はワイバーンより少し大きいくらいだろう。
奴は来た。昨日首尾よく獲物を捕まえる事が出来た縄張りを守る為。まだたくさんの人間が居る餌場を奪われぬ為……
「ギャオアアアアアア!!」
飛来した翼のある巨大トカゲ、ワイバーンが、脆いハリボテの巨大凧に掴みかかった……
「今だァァァ!!」
凧揚げチームの村人達が一斉に綱から手を離す。
「皆さん!」
そしてラシェルの合図で、この場に居合わせた、雷系の攻撃魔法を使える冒険者達が……そこにはノエラやクレールも含まれていた……一斉に凧綱めがけ、魔法を放った。
「ハゲの仇ーッ!!」
上空のワイバーンが、白く輝いた!!
「ギョエエエエエエエ!!」
「……やったか?」
「……くそ! まだ息があるぞ!」
しかし相当量の雷魔法を、絡みついた凧綱を通して食らったワイバーンは、錐揉みしながら落ち、村の外に墜落した。
「地上部隊!! かかれーッ!!」
地上で武器を振り回す事くらいしか出来ない連中が、剣だの棍棒だのを持って村の外へと殺到する。俺達四人も後を追う。