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0176 はて……俺も何か忘れているよぉな……

 俺達は魔王との決戦の為、再び魔王城に突入する。今回は別館の正面から堂々と入り、魔王の居場所を目指すのだ。



   ◇◇◇



 昨日の夜、殿軍しんがりとして残ったノエラは、魔王の猛攻と続々と増えて行く魔族兵の援護射撃に耐えながら、必死に時間を稼いだ。

 そして女神ヴェロニクの加護バフもあり、どうにかもう逃げても大丈夫という所まで耐え抜いて、ゆうしゃクラウドを呼び、逃げ出そうとした。

 しかし魔王軍がノエラを捕らえる為に呼び出したモンスターには、高速で空を飛べるトウゾクハゲワシが含まれていた。



   ◇◇◇



「私は先頭で指揮を執る、貴様らは力を温存しろ!」


 ゴールドはトカゲ兵の先陣へと向かったが、俺とノエラは後方に置かれていた。

 まあ後方は後方で、中庭から追い掛けて来る奴や、途中の廊下や扉から現れる魔族兵も居たのだが。


―― シャゲェェェエ!

―― ゴエリャァァア!


殿軍しんがりは我らが勤める! ウサジ殿達は輪の中へ!」


 やはり、トカゲ兵達が盾を構えブレスを吹いて守ってくれるので、俺に出来るのはノエラの話を聞く事ぐらいだった。



   ◇◇◇



 ノエラは既にゆうしゃクラウドには乗っていたが、まだ窓掃除のゴンドラのような静かな昇降運動しかした事がなかった。本当にこの雲は、愛の重い乗り手が乗る事でスピードを出せるのか?

 ジュノンが読み上げていた資料によれば、『愛する人を独り占めしたいがあまり気が病んでしまう程想いの強い者が乗れば、百里の距離を三時間で飛び越える事も出来る』とあったが。本当に自分にそれが出来るのか?

 そして、凄まじい速さで空を飛ぶトウゾクハゲワシを本当に振り切れるのか。ノエラはそう危惧しながらも、強く念じた。

 最高の速さで、飛んで欲しいと。


 百里を三時間で飛ぶというと、だいたい時速130kmという事になる。

 しかしノエラはこの中庭を秒速200mくらいの速さで飛んでいた。時速に直すと720kmで、それは障害物の無い場所を直進するならもっと速いだろう。



   ◇◇◇



「後方止まれ! この先の部屋に四天王の一人、ピスアロが居る!」


 前の方でアスタロウが叫ぶ。あいつはあいつで何でこの状況に順応してるんだろうな……? そんなにシルバーちゃんが好きなのか。ま、あげないけど。



   ◇◇◇



 ゆうしゃクラウドに乗ったノエラはジェット機のような速度で空を飛んだ。

 異世界人であるノエラがどういう生態をしているのかは解らないが、雲に乗って自由自在に、一瞬にして秒速200mまで加速して飛べるようになった、そんな事になった人間はどうなるか?

 多分脳内麻薬、ドーパミンやアドレナリンが大量に噴出して重度の興奮状態におちいるだろう。実際ノエラはそうなった。


 トウゾクハゲワシが高速で空を飛べると言っても所詮しょせんは鳥類のスピード、その時のノエラの目には空中に静止しているように見えた。

 トリガーハッピー状態のノエラはたちまちのうちのハゲワシ共を全て叩き落し、魔王に近づいてあおった。この雲はこの山に隠されていたと、魔王城に勇者の為の最終兵器を隠しておいてくれてありがとうと。


 そしてノエラは飛び去った。

 魔王軍が山狩りをしていたのは、もうこんな物が魔王城の周りに隠されていないか探す為だったようである。



   ◇◇◇



「大丈夫なんですか!? 戦況は!?」


―― グギャァァァオゥ!

―― ガボワァァァアァ!


 前方の部屋からはトカゲ兵共の、咆哮ほうこうとも悲鳴ともつかない声が響いて来る。いいのかな、こんな感じで魔王城を攻略してしまって。プログラムのバグを利用しているような気分である。



   ◇◇◇



 ノエラは自分の飛行能力を調べる為、もう少しだけ色々試してみる事にした。ゆうしゃクラウドを操り、ノエラは飛び続けた。


 満天の星が輝く夜空も悪くはなかったが、夜が明けると景色はさらに素晴らしい物となった。この大空の全てが自分の物だと思い、ノエラはさらなる多幸感に酔いれた。


 ジュノンがゆうしゃクラウドを操れる人間の条件を読み上げた時には、俺も正直何言ってんだこいつと思った。

 しかし今なら何故そうなっていたのか解る気がする。この雲は乗った人間を簡単に狂わせてしまうので、何か他の事にひどく執着しているような人物でないと、危なくて真の性能を発揮はっきさせられないのである。



   ◇◇◇



「ピスアロは倒したぞ! 先を急がねば、私に続け!」

「オーッ!」


 ゴールドの声が聞こえ、隊列が再び前進を始める。廊下を進み扉の向こうに入ると、なるほど、広間の中央で立派な鎧を着て両手に剣を持った背の高い魔族の男が、黒焦くろこげになって倒れている。


 周りには他の魔族兵も倒れている……この辺りに居る奴は外の奴と装備が違うな。こいつらはエリート魔族兵といった所だろうか。

 トカゲ兵も結構倒れてんな……もちろん放置する訳には行かない。


「しゅくふく! しゅくふく!」

「ウサジ殿、止められよ! 貴公の力は決戦まで温存すべきだ!」

「俺のMPはこのくらいじゃ減らねえんだよ」


 ―――――――――


 ウサジ

 レベル96

 そうりょ

 HP883/907

 MP241/241


 ―――――――――


「ぬおおっ!? 俺もまだ戦えるぞ!」

「俺も行く! 竜人族(ドラゴニアン)の力、まだまだ見せつけてやる!」


 また瀕死ひんしの奴まで全快させてしまった。思えば恐ろしい力だよなあ、このしゅくふくって。もしかすると、過労死した奴を蘇生そせいさせてまた働かせる事だって出来てしまうんじゃ……



   ◇◇◇



 ノエラはガスパル王の城へ向かった。最初は方向を間違え、次はうっかり見落として通り過ぎ、途中で見つけたワイバーンをからかい、湖や雪山を見つけては立ち寄り、何度も宙返りをしたり少しの間止まって空の上で転寝うたたねをしたり、そんな事をしていたせいで二時間もかかったそうである……それは何日掛けて歩いて来た距離だったのか。



「僕、王様に会ってちゃんとヴェロニク寺院の事、ウサジさんの事、説明して来ました! さっきも言ったけどマドレーヌ王女にもお会い出来ました、王様、朝ご飯は毎日王女と一緒に食べる事に決めたんですって、マドレーヌ様はそれもウサジのおかげだって喜んでました、でも黙って旅立った事は絶対許さないって言ってました、次にお会いした時は気をつけて下さい!」


 雲を降りて王様と話してる間に、ノエラは一度正気に戻ったらしい。自分は殿軍しんがりを引き受けた後、仲間達に何の連絡もしていなかったと。


「それで僕、急いで帰って来たんです! 心配かけてごめんなさい、でも僕なりにちゃんと考えてたんです、だからウサジさんまたご褒美下さーい!」


 そう言って飛びついて来る極太カモメ眉毛の妖怪に、俺は()()()()()を掛ける。


「それですっ飛ばしてたらまた頭おかしくなって散々寄り道して来たんでしょう、とにかく、あの雲に乗る時はもっとゆっくり飛びなさい、必要以上のスピードを出すんじゃありません!」

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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