0167 そうか……貴様とは美味い酒が飲めそうだ
シルバーは何故そんな事をしていたんだ? まさか……お供の女を探している、俺の為に?
うそだろシルバー……俺がお前に何をしたってんだよ、襲って来たから返り討ちにして、瓢箪に閉じ込めて、作戦上の理由で解放して、また襲って来たから返り討ちにして……そんな感じだろ?
俺のどこに、あの子を惑わす要素があったってんだ? 解った、これはきっと魔族共の罠だ。こうやって噂を撒いて、俺が釣られて出て来るのを待ってるんだ。
だけど万一本当だったら……!
ゴールドは逮捕に抵抗するどころか、サイ魔族を振り切る勢いで魔王城の方へ歩いて行く。サイ魔族は慌ててそれについて行く。
……
ここは敵地のど真ん中、周りに居るのは敵だけで、俺が守ったり助けたりしなきゃいけないような奴は、ノエラの他には居ないと思っていたのに。
いや、シルバーもゴールドも、俺はついさっきまでちゃんと敵だと認識してたし、そりゃ頭の中ではエッチな事も考えてたけど、それはあくまで密かな楽しみの一つでしかなくて、俺は別に、あの姉妹も俺の女だみたいにマジで考えていたわけじゃない、俺もそこまでおめでたい男じゃないよ。
自分には、仲間達に対する責任がある事も解ってる。クレールもラシェルもジュノンもここまで、俺について来てくれたんだ。ノエラだって。
そして何よりも、俺には俺に対しての責任があるのだ。俺にとって一番大切な物は俺の命、そして俺の快楽、この二つ、この二つだけだ。
俺には自分自身と股間の自分自身の分身を、明るい未来に、無責任で楽しいエッチがたくさん出来る素敵な未来に連れて行く責任がある。
そんな俺を危険な場所、帰れなくなる場所に連れて行く事は、何よりも大切な俺に対する重大な背信行為だ、許されざる悪だ。
俺は、サイ魔族に連れ去られるゴールドに背を向け、歩き出す。
このまま、手錠を掛けられた奴隷のふりをしてこの町を抜け出そう。
仲間達の所へ帰り、この地を離れよう。ノエラの事はまた後でヴェロニクに聞けばいい。
◇◇◇
「お前は……ウサジ! お前が何故ここに居る!?」
俺は魔王城の城下の外れに駐屯している、トカゲ兵達の元を訪れていた。俺は外套を被ったままだったが、白波はすぐに俺だと気づいた。
「『白波』の、頼む。信じなくてもいいから俺に話をさせてくれ、お前達全員に聞いてもらいたい話だ」
俺はそこでゴールドが捕まったという話をした。ゴールドは自ら魔王の元へ報告の為に参上したのに、魔王はゴールドを捕え、罪人として扱うつもりだと。
「そんな……そんな馬鹿な!」「で、でたらめを言うな貴様!」
「この男は敵なのだ! 嘘をついて我らを惑わそうとしているのだ!」
俺の話を聞き、トカゲ兵達はいきり立つ……白波は黙って腕組みをしていたが。
「信じる信じないはお前らの自由だ。最後まで喋らせてくれた事には礼を言おう。他に聞きたい事があれば答えるぞ」
「隊長、この男の話を聞く必要はない!」
「この男を捕らえて魔王様の所へ行こう!」
「そうだ、それでゴールド様の面目は立つはずだ!」
白波は振り返り、自分の部下達の方を向く。
「お前達の言う通りだ。この男を捕らえて連れて行けば、魔王様は喜ばれるだろう。生け捕りでも、首だけでも。それで楼主様が許される可能性はある」
ああ。そっちに話がまとまりますか……いざとなれば俺はひたすら逃げようとは思っているが。逃げ切れるかなあ、これ……
「だがこの男は、何故ここに居るのだ? 我らを欺く為か? ただそれだけの為に、この男はここに来たのか? ウサジはどこにでも居るただの戦士ではない……二百年ぶりにこの世に現れたという、ヴェロニクの使徒なのだぞ。俺はこの男は真実を語っているのだと考える。これ程の男が、くだらない嘘をつく為にこんな危険を冒すとは考えられない」
トカゲ兵達は、白波のその言葉に沈黙する。白波は再び、俺の方を向く。
「だがウサジ。お前が我らにそんな話をしたからと言って、我らが楼主様を救う為、魔王様に反旗を翻すと思っているのなら間違いだ……我らは決して軽薄な裏切り者ではない」
「そうか。何かゴールドに伝える事はないか? 地獄で伝えてやるよ」
「おっ……お前を魔王様に差し出せば楼主様の面目は立つのだ、楼主様が罰せられるはずはない!」
「シルバーも捕まってんだよ!」
論戦は不利一辺倒、もう終わりかと思った俺はヤケクソでその情報を明かす。しかし白波はそれで固まってしまった。
「俺は魔王の事はよく知らないけどな、メーラみたいな人間を裏切って女の色香で取り入る者を側に置いて、ゴールドのような君主にも兵士にも誠実に尽くす者を処罰する、奴はどうかしちまったんじゃねえのか!」
トカゲ共は皆、あんぐりと口を開けた。やべえ。俺がこんな真面目な顔してる時に、笑かすな。俺は何とか笑いを噛み殺す為、渋面を作る。
「お前らにとって、ゴールドとシルバーが何なのかは知らねえ。ただの気に入らない女上司か? お前らを下等種と呼び、大の男の頬に失礼にも平手打ちを浴びせるメスガキか!?」
たちまち、白波とは別のトカゲ兵が前に出て抗議する。
「黙れ! あんなのはご褒美だ!」
「やめろ、『水道橋の麓』! ウサジ殿には解らぬ!」
白波はそれを後ろ手に制する。あ……ああ、そうなの……




