0016 どうも世界観が古いんだよな……昭和のAVか何か?
ささやかな葬儀が行われた。
小さな木箱に入れられた、男のかつら。村人達はその周りに一輪ずつ花を添えて行く。俺達四人も、花を添えさせてもらった。
葬列は小さな村を一周し、共同墓地へと続いた。かつらを入れた小さな木箱は納骨堂に安置された。
「村の僧侶があいつの兄なんです。だから引導を渡せません。貴方は僧侶とお見受けします、代わりに引導を渡していただけませんか」
後頭部の一部を残してハゲ上がった村長らしき人が、俺にそう言って来た。いいのかな、俺で……それに俺の神様ヤバい感じの女神なんですけど……うーん。
「勇気あるハゲよ、迷わず天国へ行きなさい、そして来世では必ず頭髪に不自由の無い人生を送れますように」
そう言って俺は「おはらい」の魔法を使ってみた。
白い光の粒がいくらか、俺の掌から現れて、ふわふわと空へ上がって行く……それっぽい演出に周囲から溜息が漏れた。泣いている男も多い……
「何と徳の高い僧侶だろう」
「くそっ、坊主の説教で泣いたのは初めてだぜ……」
えぇ……俺なんか変な事言ったっけ……つーかこの男の関係者、ハゲが多いな……
「ウサジの言葉で、皆泣いてたね」
「お前の事、少し誤解していたかもしれない」
後でノエラとクレールが言った。
「なあ……あのワイバーン、退治とか出来ないのかな」
「難しいです……何とか魔法か飛び道具を当てて地面に引きずり降ろすか、巣を突き止めて襲撃するしかないと思います」
ラシェルによれば、この世界のワイバーンは邪悪なモンスターと言うより、単に人間を食糧と見ている野獣らしい。
「あいつらはどんな所を巣にしてるんだ?」
俺は喋りながら、自分がキャラ作りを忘れている事を思い出した……まあちょっと……今はキャラを作る気分じゃないからいいか……
「見晴らしのいい所です。ワイバーンには天敵が居ません……だから獲物を見つけやすい場所、同族が縄張りを侵略に来てもすぐ発見出来る場所を好みます」
その夜。俺は村長に無理を言って、一人で眠れる場所を貸してもらった。
そして気が付くと俺はエレベーターの中に居た。照明が暗い……どうやら非常灯しかついていないらしい。それにしても古いエレベーターだ……行先ボタンが光らない、丸いやつだ。
ヴェロニクはエレベーターガールの恰好をしていた。今時の子供は知らないぞ……
「すみません、ヴェロニク様、今日は御願いがあるんです」
俺がそう言うと、ヴェロニクは目を伏せ、操作盤の行先ボタンをいくつか押す……エレベーターが動く気配は無い。
「ヴェロニク様」
「……女神に物を頼む時にはね……言い方ってものが……あると思うの……」
ヴェロニクは非常ボタンを押す……何も起きない……はいはい……今日も密室なのね……
俺は狭いエレベーターの中、ぎりぎり一杯まで下がり、土下座をする。
「どうか御願い致しますヴェロニク様、私の願いをお聞き下さい」
ヴェロニクはその場にぺたんと座り込んでしまった。顔は上げてないけど何となく解った。
「違う……違うわウサジ……解ってるくせに……私の心と体を弄ぶ気なのね……酷い……」
女神は両手に顔を埋めて泣き出した。
ああ……めんどくせえ……心底めんどくせえ……
「ヴェロニク……!」
俺は泣く泣く、ヴェロニクの両手首を握り、引っ張って立ち上がらせる。
「あっ……」
そしてそのままエレベーターの壁に磔にする。火照った顔を横に向け吐息を漏らすヴェロニク。
俺はヴェロニクの膝と膝の間に自分の左膝を押し付け、こじ開ける。
「凧が欲しい……とびきり上等のやつが……ワイバーンよりでかいような……」
「わ……私が直接あげる事は出来ないけれど……あの砦の材料で……作れると思う……」
俺はヴェロニクの唇に近づいて行く。
「いい子だ……材料の在り処と作り方も教えて貰おうか……」
その情報はたちまち、俺の頭の中に転送された。
「ウサジ……私……私もう……」
「ありがとうございますヴェロニク様」
俺はヴェロニクから大きく離れ、自分の頬に高速往復ビンタをかます。
ヴェロニクは目を見開き、俺に手を伸ばす……
しかし俺が目を覚ます方が先になった! 俺は夢の中から無傷で生還した。ちなみに後先の事は考えていない。この次に眠くなったらどうしよう。
「女神ヴェロニクの啓示があった! あのワイバーンを倒し、ハゲの仇を討つ!」