表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/279

0159 早く戻って来いよ。今なら何でも言う事聞いてやるからよ

 俺はとにかく、ノエラを助け起こしながら飛び退く! 皆もそれぞれに飛び退く……


―― ドォォン!!


 地響じひびきと砂塵さじん巻き起こし、魔王は飛び退いた俺達の真ん中に降り立った! そういや俺の傷がほぼ治っている……ラシェルがいつの間にか、俺に治療呪文を掛けていたのか。


「私が食い止めるわ!」

「クレールさんは道を開いて!」

「そうだ殿しんがりは僕がやる!」


 クレールが、ジュノンが、ノエラが叫ぶ……くそ、殿しんがりなら俺が引き受けたいが、ここは最後にゆうしゃクラウドで逃げられるノエラに頼むしかない。


「ウサジさん早く行って!!」

「まだだ、最後まで治療を!」

「逃がすかァァ!!」


 魔王の攻撃は部屋の中に居た時より凄まじかった、こいつ、さっきまでは自分の部屋を壊したくなくて遠慮してたのか!?

 そしてノエラは早く行けと言うが、俺はせめてノエラの体力を満タンにしたい、頼むヴェロニク、力を貸してくれ!


「しゅくふく!」


―― シュバババババババ!!


 来た!? 初めてジュノンに使った時のと同じ、大地から湧き上がる数百本の青い光の帯が、ノエラの周りを回る……!


「何だァこんな物がァァ! ふぬぐあっ!?」


 魔王は光の帯に向かって巨大な斧を真っ直ぐに振り下ろす、まずい! この状態でノエラは斧を見て避けられるのか!? しかしそう思ったのもつかの間、青い光の帯は魔王の斧を完全に弾き返した!


 ……


 光の帯が次第に細くなり、消えて行く……輪の中に居たノエラは珍しく不敵な笑みを浮かべていた。


「ヴェロニク様の力を感じる! ありがとうウサジ、今の僕はこんな奴には負けない!」


 光の輪が消えるのと同時に、完全回復したノエラは得意の天秤棒で魔王に打ちかかる! ノエラの周りを回る光は消えたが、ノエラの身体は僅かに青白く発光しているような気がする。ヴェロニクのバフが掛かっているのか?


「うおおおおお!」

「んだぁぁああ!」


 ノエラと魔王が激しく互いの武器で打ち合う、強い! 本当に今のノエラは魔王に打ち負けていない……こうしてはいられない、俺も覚悟を決めて逃げないと。女の子を置いて行くのは不本意極まりないが、俺がいつまでもここに居てはノエラも逃げられない。



「ウサジさん早く!」


 見ればクレールは少し先で、早くも迫って来た頭が三つもある巨大な黒犬共と戦っている! そのモンスターは俺でも知ってるぞ、ケルベロス! こいつはケルベロスだろ!


「三色ドッグです! すごく獰猛ですから気をつけて!」

「名前!!」

「大丈夫彼らの弱点はこれです!」


 ラシェルが叫び、俺が応えた後に、遅れてやって来たジュノンは道具袋から何かを取り出してバラく、あれは……ジュノンが焼いたクッキー?


「甘い物が大好物なんです」

「奇遇ねー私と一緒じゃん」


 クレールの先導で、俺達はクッキーをむさぼる三色ドッグの前を駆け抜ける。



 俺達は元来た裏手の山道めがけて退却して行く。幸い三色ドッグは追って来ない……一度食べ物をくれた相手は襲わない生き物なのだろうか。


 魔王はまだ恐ろしいうなり声を上げて俺達を探していたが、ノエラは魔王にも負けない大きな気勢をめた声を上げ、魔王を食い止めていた……その声は俺達が寺院から相当離れても聞こえていた。


 やっぱり、ノエラはまぎれもないゆうしゃ、勇者なんだ。ノエラのやつ、俺達が安心して逃げられるように、俺達に聞こえるように、あの声を張り上げてるんだ。


「もういいじゃん……はやくノエラも逃げなさいよ!」


 先頭を走るクレールが立ち止まって振り返り、涙声で叫ぶ。

 ああ。これを言うのは、俺の役目かな。


「ノエラの心意気を無駄にしてはいけません、止まらないで。ノエラは必ず帰って来ますから」

「だけど……! ごめんなさいウサジさん、そうよね、行かなきゃ」



 気掛かりな事は、たくさんあった。



 魔王(・・)は、俺がノエラに掛けたしゅくふくの結界も破れなかった。


 確かにあの魔王は強い、強いけどあれはあくまで人間や魔族を含めた脳筋戦士の中でのチャンピオンに過ぎないと思う。あの魔王が二百年前、ヴェロニクをどうにかして封印してしまったというイメージが、全く湧かない。


 魔族兵共が言う「魔王軍」というのは、あの魔王の手下共の集まりだとして。それとは別に、女神をも封印し、地上のあらゆる場所に居る人間の男性から頭髪の一部を奪う程の、凄まじい力を持った別の存在が、どこかに居るのではないか?



 俺達が寺院のある山の裏手の崖を下りきり、元来た山に登り始めた頃には、寺院の山のあちこちに松明たいまつらしき明かりがともっているのが見えた。魔族兵共が、今さら山狩りをしているらしい。


 そして俺達は、無口になっていた。無言で山を登り、無言で直前に設営したキャンプ地を目指す……誰から言い出すでもなく、皆がそこを目指した。

 もしかしたらノエラは先にそこに戻ったのかもしれない。そう思ったから。


 しかし、キャンプ地にもノエラは居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ