0156 ごめん、今日はちょっとエッチなジョークは休ませてもらってもいい?
メーラは俺達五人を見て、一瞬固まっていたが。
「も……もしかしてあんた達、私を助けに来てくれたの!? 私、見ての通り魔族に誘拐されてこの城に閉じ込められていたのよ!」
やがて引きつった笑みを浮かべ、そんな事を言い出した。
「ウソですそんなの! 以前にも魔法で攻撃して来たじゃないですか!」
「あの時は魔族に脅されていて、そう、人質! 人質を取られていたの!」
ラシェルの抗議にも嘘を突き通すメーラ。さすがの俺にも解るわ、そして今メーラはわざと大声を出して、魔族達の気を引こうとしている。だから、俺達はこの女を一斉攻撃してただちに沈黙させるべきなのだが。
「メーラさん、御願いします、戻って来て下さい。デッカーさんもソーサーさんも助けました、今なら……まだやり直せます」
ジュノンは堂々とメーラに立ち向かいそう言った……しかしメーラにはこの白いミニスカートの美少女が誰なのか解らないらしい。
「デッカーにソーサー? キャハハハ! コホン、えー、そうなの、良かった。ほら、私あの時はソーサーの事も守らなくちゃならなかったじゃない?」
ソーサーの話なんか前回も聞いた。この女まだ白を切るつもりなのか……しかし俺達はまだ誰も、メーラを攻撃出来ずにいた。
「そうですか、メーラさん……」
ジュノンは少し俯き、次の瞬間。消灯したまま持っていたLED懐中電灯をメーラに向けてフルパワー点灯する。
「なっ……」
「今です皆さん! 彼女を倒して!」
ジュノンが涙声でそう叫ぶと、暗闇の中の大光量に怯んだメーラ目掛け、ノエラは天秤棒で一直線に突きかかる……!
―― ドガシャァァン!
暗さと眩しさで目が眩みよく解らないが、ノエラの一撃で吹き飛ばされたメーラは隣の部屋まで吹き飛ばされ、食器棚か何かにぶつかって激しい破砕音を上げた! ああっ、貴重なGカップが……そんな事を言ってる場合じゃねえ! メーラは何故ここに現れた、そして魔王って奴は一体……その次の瞬間!
「何だァァオメェェ!!」
―― バーン!
メーラを追撃しに行ったノエラが、隣の部屋から飛んで戻って来て……
―― バリガシャアアン!!
衣装ダンスに叩きつけられその扉ごと崩れ落ちた!?
そして隣の部屋から現れたのは身長3メートル、赤い肌に四本角、筋骨隆々だがでっぷりと太った、典型的な……パワータイプの中ボスみたいな奴だった!
まさかこれが魔王……? そうだ、素直に聞いてみてはどうか。
「私はヴェロニクの使徒ウサジ! お前が世界に厄を為し男達の髪を奪う魔王か!」
「何ィィ? ヴェロニクの使徒ウサジだとぉ? てめぇ死んだんじゃなかったのかぁぁ!?」
こいつが魔王かどうかはさておき、魔族兵共はこいつにヴェロニクの使徒は死んだと説明していたのか? それであんな宴会を?
視界の隅では、ノエラも起き上がる……俺は遠隔で回復魔法を唱える。
「しゅくふく!」
俺の手から放たれた三本の魔法の光の帯は螺旋を描きながらノエラに飛来し、その聖なる力によりダメージを回復する……しかし光線はすぐには止まらない、今の一撃はそんな痛手だったのか? そして俺がノエラを回復し終える前に、
「ざけんなァァ!!」
中ボスは、俺に向かって攻撃して来た!
―― ガキィィッ!!
奴の武器は巨大な戦斧だった、いかにもパワータイプの中ボスが持ってそうなやつだ、しかし既にカンストが近い程成長した俺は余裕でその柄をひのきのぼうで受け取め……きれない!?
「ウサジさ……!」
激しい衝撃が左肩に伝わる! 痛みなんてもんじゃない、たちまち体が麻痺して感覚がなくなる、まるでこの肉体が、自分の物では無くなったかのような……気が付けば、俺は部屋の中を飛んでいて……
―― ダーン!!
壁に叩きつけられていた!
部屋は暗いし突然の事で何が起きたのか解らない、俺の体は……幸い斧で真っ二つにされたわけではなかったが、一撃で相当なダメージを受けたのは間違いない……!
「アクティブシールド!」
ラシェルの防御魔法が遅れて発動する、決して彼女の判断が遅かったのではない、この中ボスの動きが恐ろしく速かったのだ、だがこれでラシェル以外の四人の体の周りには、対象者の動きに追随する魔法のシールドが張られた。
しかしこのシールドをもってしても、ジュノンの体力であの攻撃を受けたら一撃でやられてしまうかもしれない。
「電撃鋤!!」
―― ズヴァヴァーン!!
クレールは雷系の魔法の力を籠め、白く発光し火花を散らす平鋤を中ボスの肩口に叩き込む! それは元々のクレールの怪力も相まって痛烈な一撃となったように見えたが……
「うおらァァァ!」
「えいッ……!」
奴は揺らぎもせずカウンターを繰り出す、それは魔法シールドに弾かれた事もありクレールは間一髪回避出来たが、本当にギリギリだった、残念ながらリーチも速さも敵の方が上だ、攻撃の威力も、そして勿論、耐久力も。
俺が死んだ事にして宴会をしていた魔族兵のほうれんそうのあまりの酷さと間抜けさに、そしてこの力ばかりで頭は悪そうな中ボス然とした佇まいに、俺は一瞬、この敵の力を甘く見積もってしまった。
こいつ、マジで強い……!