0146 スクール水着もブルマも滅んだんだ。俺達も現実を受け入れて前に進もう
地道な努力の甲斐もあり、夕方近くには俺達は寺院の裏の崖側に回り込む事が出来た。おあつらえ向きの湧き水のある岩場も見つかった。カリンも向こうに返さなくてはならないし、俺達は早めの野営をする事に決める。
「仮眠を取ったら、夜中のうちに接近してみましょう。見張りは二交代でいいですね、私はカリンを返してしまいますのでジュノンも一緒に」
「ちょっと待っておくれ、アタシはジュノンが男だとは知らなかったんだよ、あたしゃ、ウサジ以外の男と一緒に寝る事は出来ないよ……ねぇウサジぃ?」
カリンはそう言って俺にしな垂れ掛かって来る。その瞬間。
「ふゥワッ!」
ノエラは奇声を上げたかと思うと、どこかへ飛び出して行く。
「ノエラさん?」
「あ……大丈夫だと思います、ほっといてあげて下さい。すみません、じゃあジュノンは後で女性陣と寝て下さい」
「ぼ、僕も女の子達とは寝られません……大丈夫ですウサジさん、カリン様が転移された後で床に入りますから」
ジュノンは俺にそう囁く……いや別に休憩の順番の話だろ、秘密のお楽しみみたいな雰囲気で言うんじゃねえ。
さて。俺はいつも通り、ジュノンが骨組みと布とそのへんの草や枯れ枝で整えたカモフラージュテントに潜り込む。行き掛り上先に寝る事になったが、こんな時間から眠れるかね……まだ日も落ちてないぞ。
カリンも後からついて来る。信じて欲しいが俺は断固としてこの状況を楽しんではいない。
「ねえ、ウサジは本当にヴェロニク様のいい人じゃないのかえ?」
「ヴェロニク様は誰よりも大切な方です。さあ、さっさと寝ましょう」
「ふぇふぇ、気が早いねウサジは」
カリンはそう言って着物を脱ぎ出す……いや待て、服を脱ぐ必要は無いだろ別にパジャマとかある訳でなし……っておい!? カリンの奴、服の下にスクール水着を着てやがる!
「お前なんで!」
大きな声を出し掛けて、俺は慌てて声を落とす。テントの外で誰かが聞き耳を立てているかもしれない。
「なんでそんなの着てるんだ、やめろと言っただろ……!」
俺がそう言って迫ると、カリンはメスガキの顔になって嫌な笑いを浮かべる。
「何を言ってるんだい、ウサジはこれが好きなんだろう? ふぇふぇ」
カリンは狭いテントの中で膝をついたままヒラヒラと踊ってみせる。俺は怒りと羞恥の狭間で悶絶する。本当に、こいつは見た目はロリだが中身はババァなのだ。
「ほれほれ、何でも好きな事をしていいんだよ? アタシは身も心もウサジの物なんだから、ふぇふぇ」
若気の至りなんだ、若気の至りなんだよ、俺は中学からうっかり男子校に入ってしまい文字通りの灰色の青春を過ごした、スクール水着は! 当たり前のように夏の体育の授業でクラスの女子の水着姿を拝む事が出来た小学校時代のファンタジーだったのだ!
「ウサジ」
カリンは先程までのメスガキの声とは違う、小さく澄みきった声で俺の名を呼んだ。遠い昔、淡い恋心を抱いた、幼馴染の女の子のような……いや、俺にそんな幼馴染は居なかったけど、概念として、そんな感じの。
俺は思わずカリンの姿を見た。そこに居るのは耳がキツネのような形をしていてキツネのような尻尾が生えている以外は非のつけどころが無い、10歳くらいのおかっぱ髪の、ほっそりとした、男の性的なノスタルジーの扉を激しくノックする完璧な美少女だ……
その完璧な美少女がまたメスガキの顔に戻って上目使いに嫌な笑みを浮かべる。
「我慢しなくていいんだよ? ヴェロニク様にも内緒にするから。アタシはウサジの味方だからねぇ、ふぇふぇふぇ」
俺の脳内で、稲妻が光る。
「ちょっと待て。カリン……お前ルービックキューブもスクール水着も、俺のHDDから取り出して持って来たんだよな? この世界まで? お前、そんな事が出来るのか!?」
俺は思わずカリンの肘を掴む。カリンは恥らうような仕草を見せる。
「ふぇふぇ、優しくしておくれ、ウサジ」
「そうじゃないッ! もしかしてお前は俺のHDDの……その……諸々の情報をだな、実体化してこの世界に持ち込む事が出来るのか!?」
「そ、そうだよ? 一体どうしたんだい興奮して、あっ、アタシ、この服を脱いだ方がいいのかえ?」
「それは色々な意味で許さねえ! スクール水着は脱ぐな、はさみで切るな、個人的には半脱ぎも許さん、いやそんな事言ってる場合じゃない、寝るぞカリン、早くヴェロニク様の聖域に行かないと!」