0145 よし、三人にはおじさんから特製フランクフルトをサービスしちゃおう(ポロ
ノエラが一人で先に戻りたいと言うので、俺は走って戻るノエラの背中が遠ざかってから、ゆっくりと歩いて戻る。多分、クレールやラシェルと三人で話したい事があるんだろう。カリンが余計な口出しをしてないといいが。
「じゃあ三段アイスにトッピングもつけ放題で!」
「やったー! あたしキャラメルナッツとオレンジとバニラ!」
「私はバナナクリームとラズベリーとバニラで!」
果たして、俺が元の場所に戻った頃には、三人娘はさっきの諍いがウソだったかのように、仲良くじゃれあっていた。ジュノンは少し離れた所でホッとした顔をしていて、カリンはむつかしい顔をしてジュノンをまじまじと見ている。
そんなカリンは、俺が戻って来たのに気づくと慌てて駆け寄って来る。
「ウサジ、ウサジ」
「なんですかカリンさん」
「ジュノンはあれでも男だというのは、本当かえ……?」
「……本当です」
「はえー驚いた……二百年も経つと随分変わるもんだね、世の中ってのは……あれで男かえ……」
説明が面倒なので、俺はそのまま仲間の所に戻る。
「考えたのですが、情報を持ち帰るにしてももう少し欲張ってもいいんじゃないかと。あの寺院が今どうなっているのか、本当に魔王がここに居るのか、少し偵察してみませんか」
俺がそう提案すると、クレールとラシェルは顔を見合わせて、すぐに頷いてこちらを向く。
「賛成でーす」
「正面から向かう必要はないですよね。あの、カリンさん、あの城には町を迂回して行く事も出来ますか?」
「うーん……寺院の向こう側は結構な崖になっていて、登るのは大変だと思うけどねぇ……ああでも、修行中の学生が夜中にこっそり町へ遊びに行く為の道があったっけ」
俺達は目の前に見えていた寺院へ行く為、一旦今来た峠を戻り、山を大きく迂回して歩き出す。寺院は再び見えなくなった。そして行く手は、山の中の道なき道だ。
「カリン様の提灯がなければ、絶対進めませんでしたね」
「うえっ! あ、ああ……うむ」
まだじっとジュノンを観察していたカリンは、そのジュノンに声を掛けられて驚く。まあ本当は男だと言っても、体は完全に女なんだけど……言ってやった方がいいのかな?
ていうか、カリンはいつまでついて来るんだ。
「あの、この先は危険だし、もうヴェロニク様の所に戻られていいんですよ、カリンさん」
「ウサジはアタシ相手には言葉遣いがコロコロ変わるねぇ……アタシが向こうに戻るにはウサジに夢渡りで連れて行って貰わないと行けないよ、ヴェロニク様の力が戻れば転移門を開けられるけどね」
じゃあ俺、またカリンと添い寝しないといけないのか。添い寝……俺は何となくちらりと、ノエラに横目を向け……ようとして思い止まる。ノエラが視界の端に入る前から、紫色に渦巻く闇のオーラが見えた気がしたのだ。
「ああ。えーと、カリンさん、そうだ、ヴェロニク様もこちらの世界に来れるようになるのでしょうか!」
「力が戻ればね……二百年前の祭礼の時には、あの寺院の周りに何万人ものヴェロニク様を信じる人々が集まってね、転移門はその人々の祈りの力で開くんだ」
ヴェロニクの力が戻るというのはそういう事か。これはまだ長い道のりになるな……でも、勇者ノエラが魔王を倒した上で、ヴェロニクの宣伝をしてくれたら割と簡単に達成出来るかもしれない。
寺院側から見えないように、山を一つ挟んで迂回し、城下町の反対側の崖の方へと向かう……それは思っていたよりもずっと長い道のりだった。真っ直ぐに進める所などほとんどない。登っては降りて、回り込んで、その繰り返しだ。
モンスターも居る。しかし今回は隠密行動という事でなるべく戦いは避けた。
「ゲロゲーロ!」「ゲロゲーロ!」
「本人はゲロゲーロだって言ってるわあのカエル!」
「もうそれでいいですクレールさん」
「怖いようウサジ助けてぇぇ」
「逃げるからしっかり捕まってろ」
巨大で牙のあるカエル共から、俺はカリンを抱えて逃げる。ノエラとクレールが殿軍を務めてくれるので、逃走自体は難しくはなかったのだが。
「……!」
ノエラはカエルの相手をしつつ、こちらに嫉妬に狂いそうな視線を向けていた。