表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/279

0144 明るく楽しく無責任に体を動かす、えっちはボクらのフィットネスだ!

 ノエラはなかなか見つからなかった。どこまで行ったんだあいつ、遠くへ連れ出す手間がはぶけるじゃないか。

 なんかね、そろそろ俺達の冒険も終わりが近づいて来たような気がするじゃん? そろそろね、心残りがないよう()()()()事はやっておきたいと思うんだ。


 しかし、このくらい離れたらちょっとくらい悲鳴を上げられても仲間達には聞こえないんじゃないか? もう十分だよ、どこだノエラは……ああ、居た居た、おあつらえ向きに、柔らかそうな草の生えた岩陰に居るね。ドキドキするなあ。


「ノエラさん!」

「え……ええっ! ウサジさん、どうして……」


 俺はノエラが居る岩陰に駆け寄る……周りにはもちろん誰も居ない。


「ラシェルとクレールが、追い掛けるように言ったからです」

「そんな……酷い事を言ったのは僕なのに、なんでそんな、僕、ウサジさんに優しくされる資格なんてありません!」


 たちまち涙をあふれさせ、向こうを向いて逃げ出すノエラ、そうは行かないぞ。俺はガッチリとノエラの手首を掴んでいた。


「二人の気持ちを無下むげにしないで下さい」

「そんなの……無理です……」

「大丈夫。二人には解っています、ノエラさんはいつも二人の事を思っていると」

「……違う!」


 ノエラはいきなりこちらに振り返り、俺の空いている方の腕を取った! まずい、これからエッチないたずらをしようとしていたのがバレてたのか!?


「僕はもうウサジさんの事しか考えてない!!」


 ノエラはそう叫んで飛び掛って来た! ぐおっ!? ノエラの本気のタックルで俺は5メートルばかり吹き飛びそのまま草の上に押し倒された!


「もう駄目だ、僕のものになってウサジさん!」


 ノエラの極太カモメ眉毛が迫る!? 俺は即座に例の呪文を唱える!


「しきそくぜーくうくーそくぜーしき!」

「ひっ……ぐっ……うあっ……うあああ!」


 ノエラは身悶みもだえ、地面に転げ……回らない!? 呪文が効いてないのではない。効いているけど耐えているのだ!

 それでもかなりもがき苦しみながら、ノエラは自分の額に親指を当てると……


―― ベリッ


 顔のメイクをシールのように剥がした! ノエラはカモメ眉毛も頬の犬ヒゲも、一瞬のうちに貼ったり剥がしたり出来るよう改良していたのだ!


 素顔に戻ったノエラが尚も襲い掛かって来る、まずい、くちびるで呪文を封じられたら終わりだ!


「御願いウサジさん僕を抱いて、嫌なら僕に抱かれて!!」

「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色」

「ひっ、ぐ、あああっ!? ああああ!!」


 俺はフルパワーでおはらいを掛ける! ノエラは()()()()回りながらも、尚も俺の首に、襟に手を伸ばし、足を俺の胴に回そうとする、俺はノエラの寝技に抵抗しながらさらに大声で呪文を唱える!


「受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意!」

「うあっ、あっ……くああああ!!」



 ノエラの体の下から逃れた俺は、どうにか立ち上がる。ノエラは砂塗すなまみれになったまま、転がって嗚咽おえつしていたが。


「ふふっ……あは、あははは! ヒッ……ウエッ……ヒあはははは!!」


 今度は甲高い声で笑い出した……さすがの俺も恐怖に震える。一体どうしてしまったんだノエラは……ノエラは地面に顔を伏せ、恨めしげにそのあたりの地面に指を立て、握り締める。


不様ぶざまだ、不様ぶざま過ぎる……グスッ……好きな人に無理やり関係を迫って、あはは、何度も断られてるのにりずに迫って、ヒヒ、それでも僕はくすぐりの魔法にだって絶対に耐え抜いて、今度こそ想いをげるつもりだった! だけどそれにさえ敗れて……笑って下さいウサジさん……みじめで最低な僕を嘲笑あざわらい、軽蔑けいべつして下さい!!」

「やめなさいノエラさん、貴女はきっと、その、疲れてるだけなんです」

「こんな僕が、こんな僕がゆうしゃになんかなれる訳がないじゃないか……神様の力を借りて、世界の災厄を封印する事なんか出来ない……!」

「ノエラさん貴女はいつも皆の事、いや世界の事を」

「買いかぶるのはもうやめてぐだざい!!」


 ノエラは涙と砂でぼろぼろの顔を上げて、普段のキラキラしたひとみとは違う、恨めしげな闇の思念に輝くまなこで俺を見た。


「ウザジざんは、ごんな女にやざしぐしてはいげなかっだんだ!!」


 ノエラは再びうつむき、顔をジャージのそででぐりぐりとぬぐう。


「……ウサジさんが僕を抱き寄せて額にキスしてくれた時から、僕もう四六時中ウサジさんの事しか考えられないんです、それまでは少しは他の事を考える余裕もあったのに、もう駄目なんです、昔の僕には戻れない……ウサジさんと二人きりで過ごしたあの夜と朝……あの場所に戻りたい……ずっとずっと、あの時間を繰り返したい……永遠に……!」


 ようやく顔を上げたノエラはしかし、そのまま砂の上に寝転んでしまう。虚空を見上げるその濁った瞳からは、先程の妖しい輝きは消えていた。


滑稽こっけいでしょう? 僕は口癖くちぐせのように自分は都合のいい子です、好きな人を束縛そくばくしません、そう言っていたけど……それはきっと、深い意識の中では自分の本性を知っていたから、そういう自分を好きな人に知られたくなかったから、そんな風に言ってたんだ……今の僕は……! ウサジが小さなカリンちゃんと並んで寝ている所を想像するだけで、嫉妬しっとの炎に焼かれて絶叫しそうになる……!」



 寝返りを打ち、うつ伏せになり頭を抱えて悶絶もんぜつするノエラ。


 正直俺、かなり早い段階で気づいてたんだよね、ノエラのこの重さ。

 この子には決して、軽い気持ちで手を出してはいけないと。



 ノエラは上半身を起こし、膝を抱えてうつむく。


「僕……これからどうしよう」


 どうしようと言われても……何とか続けてくれないと困るんだよなあ。

 代わりのゆうしゃなんて知らないし。それともどっかにズラかった金髪キザ野郎を探して仲間にするか? ご冗談でしょう。


「貴女はクレールとラシェルにとって、勿論私やジュノンにとって、大切な仲間なんです。貴女がゆうしゃでもゆうしゃでなくてもいい。これからも世界を救う為に一緒に戦いたいという気持ちは変わりません」

「だけど……僕がゆうしゃじゃなかったら、魔王を倒して災厄を封印する事が出来ません」

「ゆうしゃに必要な物は一族の血筋と、優れた能力、それに強い想いだけですよ。ノエラさんは自分に何が足りないとおっしゃるんですか」


 ノエラは深く、溜息ためいきをつく。


「ごめんなさい。もう一度、僕を仲間に入れてください。もうちょっとだけ頑張ってみます。みんなが期待する僕でいられるように」


 とりあえず、ノエラはそう言って立ち上がり、落としたカモメ眉毛と犬ヒゲを拾い上げ、汚れを拭き取って顔に貼り直す。


「良かった。ノエラさんは元気が一番ですよ、どうかこれからも宜しく……」

「だけど僕……本当に自信がないです、いつまで、自分を保てるか……だからさっきも、早く魔王を倒してしまいたいって思ったんです」


 俺の背中を、冷や汗が伝う。えっ何この冒険タイムリミットがあったの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
― 新着の感想 ―
[一言] ウサジが般若心経をちゃんと覚えているということは、宗派は浄土真宗系や日蓮宗系ではないことがわかりましたw(しかも冒頭部分ではなくその次の段階とは…w) あるいは幼稚園が曹洞宗・臨済宗系だった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ