0143 はいフランクフルト焼き上がりましたぁ! お嬢さん、一本いかが?
もしかしたら、これはもう魔王の城かもしれないというヴェロニク寺院を前に、俺達の意見は珍しく割れた。
「さすがにジャージと農機具で魔王城に突っ込むのは……負けた場合末代までの笑い者になるんじゃない?」
「私達今でも十分突出してますし、一旦ここまでの収穫をガスパル王に報告して、後から来る人達にも共有してもらった方が」
クレールは一度戻って決戦の準備を整えるべきだと主張する。実際それは王道の攻略法だよなー。装備が酷いのは間違いないし、俺なんかひのきのぼうとぬののふくだぞ、何の縛りプレイだよ。
ラシェルの意見も賢者なら当たり前だな。俺達のしてる事はここまででも十分戦略的に間違ってると思う。
ジュノンは何も言わないが、出来れば一度強力なアイテムを取りに帰りたいと思っているだろう。このパーティ、治療は俺がやってしまうので回復薬はあまりいらないのだが、ジュノンの道具袋はオイゲン将軍から与えられた標準的な物なので、中身が俺達のパーティの特性と合っていない。
しかし。
「魔王はすぐそこに居るかもしれないんだよ!? 別に魔族やモンスターを全部倒そうって訳じゃない、魔王を倒せばいいんだ、そうでしょう?」
ノエラが角換わり4五桂のような急戦を主張するのだ。論調も強く他の三人より本気度が高い。
そして、俺はどっちでもいいと思っているんだけど……
「ねえウサジさん、みんなレベルだってすごく上がってるし、武器だって今の武器の方が元々僕ら向きだったんじゃないかって思うくらい手に馴染んでるんだ、今言う事じゃないけどさ、僕元々『勇者っぽい剣』はちょっと苦手だったんだよ、意味のない飾りが多くて服や鎧に引っ掛かるし、柄についてる宝石とか訳わかんない、あれのせいで値段が高くなってるの本当おかしいよ!」
「ええっ……あの宝石に、何かその、ゆうしゃパワーみたいなのが詰まってたんじゃないの?」
「だけどノエラさんさすがにジャージはまずいですよ、この前のトカゲ兵との戦いでもちゃんとした鎧と盾があれば、あんなに慌てずに済んだと思いますよ」
クレール、ラシェルがそう言っても、ノエラは横に首を振る。
「このジャージだって僕らには最適の防具だったんだ、凄く動きやすいし、無駄に肌が出てないから草むらや岩場でも引っ掻き傷を作らずに済むし、魔法で速く動けるからほとんどの敵から先手が取れるし最高じゃん。それに……」
ノエラは少し声を落とし、そっぽを向く。
「クレールとか、元の格好の方がおかしかったよ。あんな露出が多くて胸の大きさとか腰の細さばかり強調する鎧、あんなの……自慢のボディを見せつけたいだけじゃないの」
「なっ……何ですってぇぇ!?」
待て。ちょっと待て、なにこれ。
「ノエラだっていろいろ自分を作ってるじゃん、みんなの前ではわざとらしく自分の事ボクとか言ってるけど、一人の時は詩集を読んだり編み物をしたりして結構乙女チックなくせに!」
「ちっ、違う! 僕の趣味は釣りと昆虫採集だ!」
「やめて下さい、二人とも!」
「ラシェルだって、ラシェルだけずるいよ、確かに僕もクレールもウサジさんに手を出そうとして付き人になったんだけど、ラシェルは手を出したんだろう!? クレールが駄目だって言うから聞かなかったけどさ、ラシェルはあの時、ウサジに、ウサジさんに何をしたんだよ!?」
「そんな……その事は聞かないって約束したのに……!」
やめてよ! いらないよそんなイベント、ゴール目前にして仲良しメンバーに亀裂が! 何かそういうリアリティ系のやらせドラマじゃないんだから!
「どんな味がしたの? ウサジさんの唇はどんな味だった!?」
「そんな事……私、そんな事してません……!」
キスはしなかったのか……胸板や乳首は舐めたらしいけど。つーか乳首は温泉でも舐められたな。いや黙って見てねえで止めろよ俺、ノエラもラシェルもボロ泣きしてるじゃないか。
「このままでは戦う事も帰る事も出来ませんね。らしくありませんよノエラさん、貴女いったいどうしてしまったんですか」
ここは両成敗じゃないよなあ。ノエラの様子は明らかにおかしい。
しかし、俺がそう一声掛けるなり、ノエラは地面に両手を突き、頭を下げた。
「ごめんなさい。私がおかしいんです。私だけが邪な事を考えて二人に嫉妬してるんです。クレールはすごい美人でスタイルが良くて、ラシェルはとても可愛くて頭もいいから。クレール、ラシェル、本当にごめんなさい。みなさんどうか僕に少しだけ時間をください。一人で反省して来ます」
ノエラはそれだけ言って、峠の向こう側、元来た方へと走って行く。
クレールはラシェルを引き寄せ、軽く抱きしめた。ラシェルはクレールの大きな胸に顔を埋めて嗚咽する……突然の百合展開に俺のフランクフルトが僅かに反応するが、元々そこまで好きな訳でもないのですぐに落ち着く。
ジュノンとカリンは顔を見合わせている……カリンが何かジュノンに囁き、ジュノンもそれに囁き返す。何か俺だけヒマになった……魔王城の城下町って、風俗店とかないのかな?
「行ってあげて下さい、ウサジさん」
クレールの胸で嗚咽するラシェルが、涙声でそう言った。
「……いいんですか」
「はい。ノエラさんもきっと泣いてますから。私だけクレールさんに抱きしめられてるのはずるいです」
俺の胸とフランクフルトに熱いものが込み上げる……ちくしょう百合の美しさを舐めてたぜ! 悪くねえもんだな女の子同士ってのも!
クレールも優しく頷いている。そうか! 解った! じゃあ俺ノエラ抱いてくるわ! 俺は黙って頷き、ゆっくりとノエラの後を追う。