0142 キンタマチラ見せ大サービスだ、いくぜ野郎共、ソイヤ、ソイヤ、ソイヤ
カリンの提灯のおかげで、俺達は道なき荒野を迷わず進んで行く。道は次第に山がちになって来た。
途中一度、小川の流れる谷間で野営をする。夜直を割り振って、見張りをして……夜這いに行こうと思ったらジュノンがテントの外で番をしてて、諦めて見張りに戻って……しかしこの夜はシルバーは現れなかった。
自分が眠る番になるとクレールとラシェルが起きて来て、またジュノンと一緒にテントに潜り、寝酒を勧められて一口飲んで……何とも変わり映えのしない夜が終わる。
そして夢の中では、ヴェロニクが例の入場ゲートまで迎えに来てくれた。
「嬉しいですけれど、ヴェロニク様も今は忙しくなったのでしょう、私にばかり構って下さらなくてもいいのですよ」
「大丈夫よ、私ちゃんと、私を信じてくれる皆さんの声も聞いてるの、ウサジと皆さんの期待に応えられるよう頑張るから、だからウサジがここに居る間は、ウサジと一緒居させて、御願い、ね?」
いや、女神に両手を合わせて拝まれるのは違うような気がするけど、あのヴェロニクにこんな可愛い顔をされては俺はもう手も足も出ない。
「おおウサジ、お疲れさまだねぇ」
カリンはまたルービック・キューブをいじりながら現れた。この世界にもあるんだな、ルービックキューブって……いやちょっと待て。
「カリンお前それHDDあそこから持ち出したんじゃないだろうな? 絶対そうだろ、あそこには入らないでくれって俺さんざん言ったよな!?」
「面白い船だねえあれは、あれがウサジの世界の景色かぇ? あたしゃすっかり気に入ったよ」
「あの……何て言って頼んだら入らないでくれるんだ? 教えてくれ頼む」
「ケチケチするんじゃないよ、これだって子供の玩具じゃないのかえ?」
そうだ……これ兄妹プレイ用の狭い子供部屋の棚の上にあったわ……
ヴェロニクもこの件に関しては、くすくす笑うだけで何もしてくれない。
◇◇◇
翌日。野営を畳み、山を登り始めて二時間程で、俺達は峠に辿り着いた。そして。
「あれだよね!? ヴェロニク様の寺院は!」
先頭に居たノエラが興奮して叫ぶ。それはこの山の隣の山の山頂付近にあった。大きな山城のような城郭を持つ、黄色と赤の派手な模様で塗られた巨大な石造りの建物。以前に森の中で見た廃墟となった神殿よりずっと大きい。
そして寺院の周りは明らかに何かの駐屯地か、城下町のようになっている……いくつもの土塁や柵の姿も見えるし、建物やテントもある……結構な規模だ。
「……ノエラさん」
「ウサジさん……」
俺とノエラはほぼ同時に顔を見合わせる。
もしかして、これもう魔王の城なんじゃないの……?
「ジュノン、カリンのハンドベルを鳴らしてみてくれませんか」
「はい!」
ジュノンはやはりどこからともなくハンドベルを取り出して鳴らす……しかしカリンは現れない。
「来ないな」
「もう少し大きな音を出した方がいいのでしょうか?」
そしてジュノンがもう一度、ハンドベルを大きく振ろうとした瞬間。
「待て待て、ちゃんと聞こえているよ、アタシゃ別に耳は遠くないんだから」
カリンは俺達の後ろからとことこ歩いてやって来た。ええ……何か現れ方がイメージと違うな……そしてまだルービックキューブをいじってやがる。
「あの建物がヴェロニクの寺院だよな? カリン」
「ちょっと待っておくれよ、やっと一面色が揃いそうなんだよ」
「先にこっちを見てくれ!」
俺はカリンを捕まえ、顔を上げさせる。
「解った、解った……ひぃええっ!? なんだいあれは!? いやあれは間違いなくヴェロニク様の寺院だけど、随分趣味の悪い色で塗り直したもんだねぇ」
「そうなのか……じゃあ今頃ヴェロニク様も驚かれているのか」
「だろうねぇ……ウサジがここに来た事で、ヴェロニク様にも見えるようになったから」
あの色と模様はヴェロニクの趣味ではなかったのね。良かった、昔のマクドナルドの看板みたいだと思ったもの。
「……魔王は、ここに居ると思いますか」
「二百年、この世から離れていたアタシには解らないよ……」
カリンは俺と並んで立ち、彼方の寺院を呆然と見つめていた。そこに、ラシェルが並び掛けて来る。
「あの、カリンさん……ヴェロニク様の寺院は何故ここにあったのですか? ここはとても……人里から離れているように見えるのですが」
「二百年前のこの土地はこんな荒野じゃなく、作物も牧草もよく育つ豊かな大地だったんだよ。沢山の人が住み、多くの旅人が行き交っていてね……ああ、そうだよ……懐かしいねぇ、ヴェロニク様は年に一度の祭りの日には降臨なされてね、人々が用意した乗り物に乗って近在の町や村を廻るんだ……」
完全にお神輿ですね、それ。
「ヴェロニク様ご本人が、こちらの世界に来られてたんですか」
「そうさ。男達にその美しさを褒められると、ヴェロニク様はいつも真っ赤になって照れてねぇ……ああ……やっと思い出したよ……」
カリンは目を閉じて微笑んでいた。その頬を、一筋の小さな涙が伝う……
大丈夫、その祭、きっと復活させるから。その時は俺もふんどし一丁でヴェロニク神輿を担ごう。ふふふ、ヴェロニクの苦笑いが目に浮かぶ。




