0131 毒蛇に太股を噛まれた美少女を救う、それは108ある男のロマンの1つだが
次第に草木の数が減ってくる。乾いた荒野では俺達の行く手を阻もうとするかのように、時折砂塵が舞う。
そしてこんな場所でも敵は現れる。
「アリジゴーク!」
すり鉢状に窪んだ砂溜まりから飛び出して来たのは、体長3メートル程の巨大なウスバカゲロウの幼虫のような奴だった。
「ラシェルあれは!?」
「サンドトラッパーです!」
「本人はアリジゴークだって言ってるわよ!」
「とにかく危険なモンスターです、気をつけて!」
サンドトラッパーは獲物に大顎で噛み付いて毒を注入して殺し、その毒で溶かした獲物の体内組織を吸い取って摂食する。スカスカになった殻は大顎で弾き飛ばして捨てるのだそうだ……なんてえけづない奴だ。昔は乾燥した軒下なんかに良く居たけどね。もちろん、こんなにデカくはないぞ。
そしてこいつら、デカい上に群生している。
「アリジゴーク!」「アリジゴーク!」
周辺の砂溜まりからも次々、巨大幼虫は飛び出して来る! 毒持ちの敵は厄介だな……そう言えば俺、解毒魔法とかも持ってないの? ああいうのって割と低いレベルで習得出来るもんなんじゃないのー?
「アリジゴクー!」
おっと、わりと近くからも飛び出して来た! 俺はそいつの大顎を掻い潜り、ひのきのぼうで反撃する。
―― ガシュッ!!
俺が振り下ろしたひのきのぼうは、サンドトラッパーの体の大きさの割にはちっぽけな頭の殻を粉砕する。これで大顎も毒も使えまい、何て事ねえじゃねえか、俺は一瞬そう思って気を抜いてしまった。
―― スバァ!
しかしサンドトラッパーは頭を潰されてもなお動き続ける! もう目も見えないはずなのに嫌に正確に大きな腕の一つを振り回して来て、慌てて防御姿勢を取った俺の腕を掠める、痛ッた! いやこんなのかすり傷だ!
「しつけーよ!」
俺はひのきのぼうで薙ぎ払い、奴の腕を一本、根元から叩き落とし、続けて間合いを取る……くそ、これでもまだ動いてやがる。
「ウサジ様、頭を落とした敵は放置して下さい、離れればもう追って来ません!」
ジュノンが後ろでそう叫ぶ。なるほど、それでいいのか……しかし。
「ああっ!?」
「アリジゴクー!」
そのジュノンが悲鳴を上げる……振り向けば、ジュノンは真後ろの砂溜まりから飛び出したサンドトラッパーに掴み掛かられていた! 奴の大顎が、ジュノンの白いミニスカートとニーハイソックスの間の保護されていない白い太腿に突き立てられる……!
「うおおお!!」
必要以上に発奮した俺は勇躍してジュノンを捉えたサンドトラッパーに襲い掛かり、その首の付け根に激しく鋭いひのきのぼうの一閃をくれる!
―― ブチィッ!!
その一撃でサンドトラッパーの首はもげた! しかしその大顎はジュノンの太腿に噛みついたまま残されてしまった! 冗談じゃねえ!
「ジュノン!」
俺はジュノンを抱え上げ、首を失ってももがき、暴れ狂うサンドトラッパーから離れる、そしてジュノンの太腿に食いついたままのサンドトラッパーの首を、慎重に引き剥がす。
「ああっ……うう」
「しゅくふく!!」
呻くジュノンに俺はしゅくふくを掛ける……サンドトラッパーの大きな牙があけた傷口はすぐに塞がるが……ジュノンが苦しみから解放された様子は無い……まさか、毒は体内に残ったままなのか!?
パニクった俺はジュノンの太腿に噛みつく! そして何とか毒を吸い出そうとするが、何てこった、傷口は今塞いでしまった! ジュノンは熱病に犯されたかのようにうなされ、苦しんでいる……解毒は、解毒は出来ないのか俺は!?
「おはらい!」
俺はやけくそで、俺がヴェロニクから預かったもう一つの力を使ってみる。俺はこれを不死怪物か何かを避ける、攻撃魔法に近い何かだと思っていた。しかし。俺の掌から溢れ出した緑色の光が、ジュノンの太腿を照らすと……傷口の周りに浮き出ていた紫色の染みは綺麗に消え、ジュノンの太腿は元の、白くきめ細かい、傷一つない美味しそうな太腿に戻った……
「あ、あの……ウサジ様ありがとうございます、治りました……!」
見上げるとジュノンは目を丸くして、そして頬を赤らめて俺を見下ろしていた。俺はジュノンの片足を抱きしめていて、ほんの少し前まではその太腿に俺の牙を突き立てていた。
「気をつけて。片付けますよ」
俺はジュノンから離れてひのきのぼうを構えなおし、別のサンドトラッパーに立ち向かう。
クレールが叫ぶ。
「アリジゴクさん噛んで! 私の太股も噛んで!」
「馬鹿言ってないでとっととブッ倒しなさい!」
クレールは他の二人と違い、付き人になる事で性格もまるっきり変わってしまったな……こいつはブサメイクしてイモジャージを着てても隠せない超絶わがままボディを持っているのに、クールビューティまで捨てて面白おバカキャラになってしまった……全く宝の持ち腐れである。