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0130 俺の顔を見ながらゆっくりと深く動け。いい子だ、後で可愛がってやるからな

 たちまち、冷や汗が背中を伝う心地がした。俺は尻餅をついて後ずさりするが、ノエラは身を乗り出してそれについて来る。


「ウサジさん、()()()()()()()()()()()


 もしやこれは誰かに魔法で操られているのか? いや、先ほど見回りに行った時に、また変身術を持った魔族とすり替えられてしまったのか?


「なぜそんな顔をしてるの、ウサジさん……マッサージをしてあげるだけだよ、片方の手だけするのはおかしいでしょ? もう片方の手も……やらせて?」


 彼女は別に、おかしな事を言っている訳ではない。だけど俺の本能は何かがおかしいと告げている。素顔のノエラはただでさえセンセーショナルな美少女で、付き人ジャージでも隠せないとても健康的で美味しそうなボディをしているのだが……そんな美少女に手を取られここまで接近されていても、俺の本能は充血し巨大化する事もなく、股間にうずくまったまま、小さくなって震えているのだ。


 俺はとにかく、これ以上ノエラを刺激しないよう、大人しく右手を差し出した。ノエラは俺の左手から自分の左手を離し、先にその手で俺の右手を掴んで、それからやっと俺の左手から自分の右手を離し、その手も俺の右手に添えた。


 ノエラはゆっくりと、俺の右手にもマッサージを始めた。俺はノエラから目を離し、辺りを見回す。


「ウサジさんの手……大きい……」


 不意にノエラが熱病にでも掛かっているような声でそうつぶやく。俺は背筋を走る電流に震え上がる。

 俺はどうにか視線をちらりとノエラに向ける。ノエラはうつむくように俺の掌に顔を近づけていた。つまり今はこちらを見てなかった。


「んしょ……うん……」


 それからもノエラは、何かをつぶやきながら丹念たんねんに俺のてのひらねる……ねえ、何かこれただの手のマッサージなのに()()()()()()()()()をしてもらってるような気にならない??

 そして頭ではそんな事を考えているのに、俺の股間の本能はピクリとも反応しない。


「ウサジさん……気持ちいい?」


 もういかん。俺のガタイの割にちっぽけなハートは得体えたいの知れない何かへの警戒心でなかば凍りついていて、それはマッサージの気持ち良さなど()()に吹き飛ばしてしまっていた。だけどそんな事を口に出す訳にはいかない。


「ありがとうノエラさん、もうすっかり気持ちよくなりましたから……」


 ともかく俺がそう取りつくろった瞬間。ノエラは顔を上げ、曇った瞳で俺の目を見た。一つ、確かだ。ノエラが寝ていたというのは嘘だ、こいつ、一睡いっすいもしていない。


「ふふ……」


 ノエラは、見た事もない表情で微笑み……それから、俺の手をそっと離して、腰を上げ、元居た場所に戻って……静かに腰掛けた。


 あれ? 終わり? これだけ……?


「またいつでも言ってね、ウサジさん」


 まだ少し微熱を帯びたような声で、ノエラはそう言った。

 今起きた事はそれだけだった。


 いや……ノエラはてのひらをマッサージしてくれただけじゃないか。

 俺はちょっと、考え過ぎなのだ。うん。



   ◇◇◇



 ジュノンは未明には起きて来て、提灯ちょうちんで道を指したり、天に向けてみたり、振り回して踊ってみたりし始めた。本人は真面目なんだろうけど何だか笑える。


「すみませんウサジ様、もう少し調べさせて下さい、きっとまともに使えるようにしますから」


 日が昇る頃になるとラシェル、クレールも起きて来て身支度を始める……そう言えばノエラはメイクを落としてしまっているが、二人に怒られないのか?


「おはようラシェル、クレール」

「おはようございますノエラさん」「おはよーノエラ」


 いいのか? 怒ってないけど……と思ったら振り向いたノエラの顔には既に極太カモメ眉毛まゆげが描かれていた。いつの間に描いたんだろう、気づかなかった。

 それから俺達は、踊っているジュノンの代わりにテントを片付けてやる。


「すみません皆さん僕がやりますから!」

「いいからジュノンはその提灯ちょうちんの使い方の研究に専念して! そうよね、ウサジさん!」


 クレールはそう言って俺の右腕に思い切り抱きつく。俺はその瞬間に呪文を唱え出す。


「しきそくぜーくうくーそくぜーしき」

「キャー!! 早い早いよキャハハハハハ!」

「ひどいクレールさん何で私もキャハハハ!」


 クレールは俺の腕から滑り落ちて転げ回る。近くに居た何もしてないラシェルも巻き添えになって、身をよじって笑い転げる。

 少し離れた所に居たノエラにも、呪文の効果は及んだらしい。


「……ふぐっ……うっ……!」


 ノエラは他の二人同様地面をのたうち回っていたが、声を上げる事は必死に我慢しているようだった。


「そういう悪戯はやめて下さい。この呪文は細かな制御は出来ないんです」


 俺は呪文を止めてそう言った。ラシェルは落とした瓶底(びんぞこ)眼鏡を拾いながら立ち上がる。


「どうしてジュノンさんには効かないんですか」

「ジュノンには邪心が無いのでしょう。皆さんもよくよく邪心を捨てて下さい」


 我ながら、邪心しかない自分が良くまあそんな事を言えたもんだと思う。



 それから俺達がテントの骨組みを片付け、荷造りを終えると、提灯ちょうちんは黙って行く手を指し示すようになった。


「さっきまで動かなかったのは、皆さんの出発の準備が終わってなかったからみたいです……」


 ジュノンは少し疲れた顔でそう言った。

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