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0129 だいたいね、こんなに近くで寝てるのに夜這いもしないのって失礼じゃない?

 目を覚ました俺の枕元には、カリンの提灯ちょうちんだけが落ちていた。俺はそれを持ってテントから這い出す。

 早速やって来たラシェルは、テントを覗き込んで驚く。


「あ、あのウサジさん、カリンさんが居なくなってるんですけど!?」

「彼女はヴェロニク様の聖域に戻りました、用がある時はこのハンドベルを鳴らせば来てくれるそうです」


 クレールもすぐにやって来て、俺の腕だの胸だのにすがりつこうとする。


「良かった……あのっ! カリンが居なくなった事じゃなくて、私、もしかしてウサジさんああいう小さい子にしか興味が無い人だったのかと思って、じゃあ本当に、カリンをヴェロニク様の所に連れて行く為に、並んで寝ただけなのね!?」

「笑わせますよ? クレールさん」


 俺は次にやって来たジュノンに提灯ちようちんを渡す。


「カリンがこれをジュノンに預けるようにと……一流の小道具係なら使いこなせるはずだと言っておりました」

「か……かしこまりました!」



 さて。夜明けにはまだ遠く、クレールとラシェルとジュノンはまだ寝ていない。


「三人共もう寝て下さい。夜直は私一人で十分です、この辺りは徘徊はいかいしてるモンスターも少ないみたいですし」


 俺がそう言った途端、女用のテントからノエラが這い出して来る。


「待って! 僕はもう十分寝ました、ウサジさんと一緒に夜直をします!」


 チッ、ノエラはしっかり寝てたのか、それじゃ自由に夜這い出来ないじゃないか。今頃ヴェロニクはカリンと楽しくピクニックにでも行ってるだろうし、今夜はマジでチャンスだと思ったのに。


「ごめーん、じゃあノエラあとはよろしくねー」

「おやすみみなさいウサジさん」


 クレールとラシェルは素直に身支度をして、女用テントに潜り込んで行く。一方ジュノンは。


「ウサジ様、僕、もう少しこの提灯ちょうちんの使い方を研究してみたいんです、もう少し起きていてもいいですか」

「うーん……いや、寝不足では困りますから、明日にした方がいい」


 しかし俺は深く考えずにそう答えてしまった。ゆっくりと身支度したジュノンは最後に少し何か気掛かりがあるような視線をちらりと俺に向けてから、一人で男用テントへと消える。



 起きているのは、俺とノエラだけとなった。


 俺は普通に小さな焚き火の火の世話をしていた。あまり大きくならないように、だけど絶やさぬように枯れ枝やまきをくべる。

 ノエラは10分くらい周囲の見回りをしてから、焚き火の所に戻って来て、近くに座った。

 しばらくの間、ノエラは何も言わなかったが。


「ねえ、ウサジさん。てのひらを見せて」


 やがて、小さな声でそうつぶやいた。てのひらを? この世界にも手相占いとかあるのだろうか? 俺はあまり考えもせず、左手を差し出す。

 ノエラは俺の左手を両手で捕まえ、俺の親指の根元を右手で、小指の根元を左手ではさむ。


てのひらマッサージだよ……ジュノンもこんな事してくれないでしょ」


 ノエラはそう言って、俺のてのひらを両手でむ……これが何とも言えず気持ちいい。


「不思議ですね、てのひらを揉んでもらってるだけなのに、全身の疲れが取れるような心地がします」

「良かった。僕、このてのひらマッサージは得意なんです。お父さんとお母さんによくやってあげてました」


 お父さんとお母さん……そりゃノエラにも両親は居るよな。だが俺は明るく楽しく無責任にエッチがしたいだけの男なので、そういう所には一切踏み込まないようにしている。


「気持ちいいですか、ウサジさん」


 ノエラは両手で俺の左手の親指の根元と、各指の谷間、それからてのひらを程よくマッサージしまくる……それは大変良い加減で、よだれれそうなくらい気持ちいい。まあ、性的な気持ち良さとは違うけどね?


「上手なものですね、ノエラさん。仲間達にもやってあげるんですか?」


 俺が何の気なしにそう聞くと、ノエラは顔を自分の両腕の間にうずめて、うつむく。


「いいえ。クレールもラシェルも、僕がこんな事も出来るだなんて知らないです」


 俺のてのひらつかむノエラの指に、力がこもる……


「あの、ありがとうノエラさん、そのくらいで結構です」

「それじゃあ、反対の手を貸して下さい」


 ノエラは俺の手を掴んだままそう言った。この時俺は初めて顔を上げてノエラの顔を見た。彼女はいつの間にか女共が勝手に強制し合っているブサメイクを落とした素顔になっていて、ハイライトの消えた瞳を真っ直ぐに俺の顔に向け、あやしく微笑んでいた。

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少女マリーと父の形見の帆船
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