0128 ま、体育倉庫に潜り込んで跳び箱の上でエッチしようとしてた程度の仲です
俺達はヴェロニクの聖域を散策する。
基本的にはここには暑さも寒さもなく、飢えも睡眠不足もないので、衣食住というのは無くてもいいのだと思う。だけど下界から来た者を安心させる為なのか、たまに下界のような建物が建ってるのが見受けられる。
森の中には様々な場所に、不思議な泉があった。普通の泉と違い、地面から浮いていたり、水面が垂直に立っていたり、向こう側が透けて見えたり……そしてそんな泉に近づくと、ヴェロニクに祈りを捧げる人々の声が聞こえる。
「ここも、ここも……二百年も怠けてましたから、随分お掃除も溜まってますねぇ、一回りしたら早速始めますね」
「やっと帰って来たんだから、少しくらいのんびりすればいいじゃない。カリンは本当に働き者ね」
「ふぇふぇ、だってまたヴェロニク様の為に働けるなんて、本当に夢のようなんですよ、あたしゃ嬉しくて嬉しくて……うえっ……」
「泣くな! もう泣くなよ!」
俺は慌てて、ぐずりかけたカリンの肩を揺さぶる。
「ふぇふぇ。ウサジは本当に凄いね。さすがはヴェロニク様が選んだ使徒だよ。あの時は、そうとは知らず失礼な事を言ってごめんよ」
「それはもういいから」
ヴェロニクは柔らかく微笑み、カリンの肩に手を振れる。
「あのねカリン、ウサジは暗闇に閉じ込められていた私を見つけてくれた人なの。私がウサジを選んだのではなく、ウサジが私を助けてくれたの」
「いいえ。ヴェロニク様が私に力を授け、導いてくれたのです」
俺が真顔でそう言うと、ヴェロニクは頬を赤らめて俺の肩にすがりつく。
「や、やめてウサジ、カリンに嘘を教えないで、貴方が私をここに連れ戻してくれたんでしょう、酷いわ、もう」
カリンは少しの間、目を丸くして俺とヴェロニクを見比べていたが。急にメスガキの顔に戻ってニンマリと笑う。
「あらやだ! あたしゃちょっと勘違いをしていたよ! ええっ、そういう事なのかい、嫌だよアタシったら、ヴェロニク様とウサジは……そう、そうなのォ!」
カリンはさらに俺に顔をぐっと近づけ、やり手ババァのようないやらしい笑みを浮かべて囁く。
「それで? もうどこまで進んでるんだい? ヴェロニク様は随分と身持ちの固いお方だから、アタシも気にしてたんだよォ、そうかァい、やっとヴェロニク様にもいい人が出来たんだねェ、ふぇふぇ」
「私はヴェロニク様の忠実な信徒です! 貴女が考えているような事は一切ございません!」
俺がそう叫んだ時には、ヴェロニクはもう顔を真っ赤にして屈み込んでいた。うーん。本当はあるからね、俺が抵抗してなければどうなっていたか解らない事がね。
「あっ……ごめんなさいヴェロニク様、アタシがふざけ過ぎました、どうしたんですかヴェロニク様、そんなにお気を悪くされてしまいましたか」
「いいの、いいのよカリン気にしないで、全部私が悪い事なの、だからそれ以上は聞かないで」
俺達は散策を再開する。ヴェロニクも色々探してみたとは言うのだが、今の所この聖域には、誰かが不法侵入したような痕跡は見つからない。
そしてやはり、二百年前に何が起きたのかという事は思い出せないらしい。
その辺りを一周して戻るのに、どのくらいの時間がかかっただろう。二時間くらいだったような気もすれば、丸三日歩いたような気もする。
「ねえ、ウサジや」
カリンが遠慮がちに声を掛けて来るので振り向くと、彼女は今まで見た事もないしおらしい表情をして、俺に手を合わせて小首を傾げていた。
「アタシはウサジ達をヴェロニク様の寺院のあった所へ案内して行くって言ってたんだけどね……申し訳ないんだけど、アタシにゃしばらくここでヴェロニク様のお手伝いをさせちゃ貰えないかね?」
そうか。そういう事も出来るのか。今まで、俺が居ない間はずっと一人で居たヴェロニクに、カリンは寄り添う事が出来るのか。
そうなればヴェロニクが俺を24時間監視する事もなくなり、気兼ねなくエッチな事を楽しむ事が出来るようになるかもしれない。
「いや、もしそれが出来るのならむしろ私から御願いしたい。どうかヴェロニク様の側に居て力になってあげて下さい」
「ありがとう、ウサジ……本当は私は大丈夫って言いたいけれど、私、ウサジには私の弱い所、たくさん見せてしまったものね」
ヴェロニクはしょんぼりと肩を落としてそう言う。まあ、カリンが彼女と一緒に居てくれたら俺も色々と安心出来るわ。
「ありがとね。念の為、これをウサジに預けておくよ」
カリンは自分の小屋にあった小さなハンドベルを俺に渡す。これにもしっかり、小さな字でカリンと書いてある。
「アタシに用がある時はそれを鳴らしておくれ、そうすればアタシはすぐそっちの世界に行くから。それにこの提灯も持ってお行き、これはあのジュノンって娘に渡すといいよ、あの子は小道具係だろう? アタシは小道具係を司る神獣でもあるんだよ。あの子ならこの提灯を使いこなせるだろう」
小道具係の神様。そういうのもあるのか。
カリンはさらに、俺に顔を近づけて囁く。
「それから……アタシを抱きたくなったらいつでも呼んでおくれ、ふぇふぇ」
俺は何も聞かなかった事にしてカリンから離れる。カリンもニヤニヤしながら俺から離れる。その後で、ヴェロニクが微笑みながら近づいて来る。
「どうか気をつけてねウサジ。私もここで出来る事を頑張る。ウサジの為に、ウサジが好きになってくれた世界、ウサジが好きになってくれた人々の為に。そしていつか、本物の、ウサジの為の女神になるの」
ヴェロニクはそう言う側から頬を染め、瞳を逸らす。
「その時にはきっと、その……ううん。その時にまた……言わせて」
俺はヴェロニクの両手を取り、頷く。ヴェロニクはもう大丈夫なんだと思う。今の彼女は俺をあのHDDに閉じ込めて一緒に暮らそうとしたりはしない。
だから……
次にエッチ出来そうなチャンスが来たら俺はもう秒で行く、いやゼロコンマ秒で、ゼロコンマゼロ秒で行く!! 押し倒してひん剥いて唇を塞いで舌入れて、前戯もそこそこに真っ赤に灼けた黄金棒をブチ込んでやる!!
ああ!? 今まで俺がどんだけヴェロニクの誘惑に耐えて来たと思ってんの!? 俺は野獣と化すだろう。俺は! 野獣と化すだろう!! その時ゃあ泣こうが喚こうが容赦しねえからなァァ!? 三発や四発で済むと思うなよォォ!?
俺が頭の中ではそんな事を考えながら真顔でじっと見つめていても、ヴェロニクはただ、優しい微笑みを浮かべて小首を傾げるだけだった。
そっかあ。ヴェロニク、本当に俺の頭の中を覗くのやめたんだ。寂しいなぁ。俺、ヴェロニクには俺の頭の中をいつでも見ていて欲しいのに。
「ありがとうございます、ヴェロニク様。私は貴女の希望が叶うよう、全力を尽くします」
俺は二人と別れ、提灯を手に入場門を出て坂道を降りて行く。