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0127 自分の性癖の全てが詰まった、巨大な宇宙船を見た事があるかい?

 二百年前には整備された街道だったという道も、今では砂と枯草に埋まっている。そうして道なき道となった荒野を、俺達はカリンの案内で進む。次の行先は、二百年前にはヴェロニクの寺院があったという場所だ。

 ゴカイデスを倒し、昼間を通して突き進み、途中ではまたいくつかのモンスターとの戦闘をはさんで、やがて夜はやって来た。



 ジュノンは素早く二基のテントと焚き火からなるキャンプサイトを完成させた。近くにあった倒木や枯草も利用した見事な物である。


「アタシはウサジと一緒に眠るぞえ」


 そしてテントが出来るなりカリンはそんな事を言い出す。たちまちクレールがとなえる。


「ちょっと待ってよ! 私達みんな……あ、ジュノンは違うけど、私達だってウサジさんと寝たいでーす、なんでその子だけウサジさんと寝られるの!」

「そうですよー。私達だって我慢してるのに。カリンさんも我慢して下さいよ」


 ラシェルも同調する。ノエラが黙って視線をらしているのは少し気になるが。


「すみません……それはカリンをヴェロニク様の所に連れて行く方法かもしれないので……一度試してみようとは思っていました」



 俺はカリンと一緒に、ジュノンが建てた男用テントに潜り込む……これだけは解って欲しいのだが、俺は決してこの状況を楽しんではいない。


「ふぇふぇ。やっと二人きりになれたぞえ。ああ愛しいウサジ……アタシは身も心もウサジの物ぞえ」

「いいから黙って眠れ、ヴェロニクの所に行くんだろう?」


 気は進まんが、俺はカリンの手を恋人繋ぎで握る。


「ドキドキするねえ……ウサジの手は大きいねえ、アタシの手の三倍はあるねえ、御願いだよウサジ、もっとぎゅーっと握っておくれ」


 俺はロリババァの言う通り、その拳を全体に包み込んでぎゅっと握ってやる。確かに小さいなあ。


「ふぇふぇ、ねえもっと、あの時みたいに抱きしめておくれよ」

「余計な事を言うな……俺がいつお前を抱きしめたんだ」

「何を言っているんだい……ウサジはあの瓢箪ひょうたんの中で、アタシを抱きしめてくれたじゃないか……あの時のウサジの力強さが、ウサジの肌のぬくもりが、アタシは忘れられなくてねェ……」


 俺は瓢箪ひょうたんの中の世界を思い出す。真っ暗な空間、遥か天頂にうっすらと見える出口、浸っている物をゆっくりと溶かすという水溜まり……


「……あの時は本当に、お前を助けてやりたいと思ったんだ」

「可哀想だと思ってくれたのかえ?」

「それもないとは言わないが、お前はとても強い奴だと思ったからな」


 テントの外からは異様な気配が伝わって来る……多分ノエラとクレールとラシェルがテントに張りついて聞き耳を立てているのだと思う。


「お願いだよウサジ、抱き寄せてくれたらきっとすぐ眠れるよ、ふぇふぇ」

「……何でもいい、早く寝ろ」



   ◇◇◇



 気がつけば俺は遊園地の門の外に居た。背後は雲の中へと続く下り坂になっている。

 そして俺の横にはちゃんとカリンが居た。俺は何はともあれ、まず耳を塞ぐ……しかしカリンは爆泣きしたりしなかった。その代わりにきょろ、きょろと辺りを見回しながら、とことこと門の中へ歩いて行く。そこへ。


「カリン!」


 広場の方からヴェロニクが小走りに駆けて来る……うん……転生待ちの子供達を除けば、ヴェロニクが俺以外の誰かと一緒に居るのを見るのは初めてだな。俺は今度こそ、しっかりと耳を塞ぐ。


「う゛ぇ゛ろにく゛さ゛は゛ぁぁ゛ぁ゛あ!!」


 案の定、美しい聖域に轟き渡るような爆音でカリンは泣き出し、ヴェロニクの方へヨタヨタと駆けて行く。ヴェロニクは自分からも駆け寄り、片膝をついて、しっかりとカリンを受け止め、抱きしめる。


「う゛ェロニク様、ごえんなざい、ごえんなざい、あだじごごにいなくて、ごぜんざさい、う゛ェロニク様のこ゛ど忘れででごぜんざさい、びやっ、びやあああ!」

「違うわカリン、貴女は何も悪くないのよ、私がここに居なかったのが皆悪いの、泣かないでカリン、私の方こそごめんなさい!」


 あーこりゃしばらく俺の出る幕無いわ。二百年ぶりの再会かあ。どんな気持ちなんだろう、二人共。

 ていうか、そろそろこれ言っていいのかな。俺すごくない? ヴェロニク、マジ戻って来てない? これもうあとちょっとでミッションコンプリートじゃないの? 俺の異世界救世主伝説。


 ……


 だけど肝心な事がまだ何も解ってないんだよな。何故ヴェロニクはここから居なくなってしまったのか。誰かの仕業なのか? ヴェロニクが自分でそうしたのか? その事は魔王と関係があるのか。そして何より、もう一度同じ事が起きる可能性はないのか。


「ヴェロニクさまぁ、もうどこにも行かないで下さいヴェロニクさまぁ、うえっ、ふえっ、ヴェロニクさまぁ……」

「本当にごめんなさい……貴女も一人きりだったのね、ごめんねカリン……」


 そして女神と神獣の二百年ぶりの感動の再会は美しいんだけど、この聖域の上空にはまだ、俺の10年分の性癖を詰め込んだHDDが浮かんだままでいるのがとても気になる……もういいだろお前、どっか行ってくれよ……

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
― 新着の感想 ―
[一言] きれいになればなるほど嫌よな、それ これからどんどん晒し上げ度が上がっていきそう
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