0124 だから30代巨乳団地妻と交換してくれって言ってるだろ、俺は違うって!
「お目覚めですか、ウサジ様」
目を開けると、目の前にはミニスカートで正座して微笑むジュノンが居た。畜生なんていい眺めだ、こいつは中身が男だからこういう所を心得てやがるのだ。
だがこうしてはいられない。
「こちらで洗顔をどうぞ、それから御髪を整えますので」
「ありがとう、だけど今すぐやる事があります、青い瓢箪はどこですか? 私が吸い込まれてた方です!」
それを聞いたノエラが急いで戻って来る。竈の向こうで仮眠していたクレールとラシェルも起き上がる。
「どうしたの? ウサジさん」
「ここはちょっと殺風景ですね、この辺りに景色の綺麗な所はありませんか、花の咲く野原とか、綺麗な小川とか」
「ちょっと難しいですよ、この辺りは岩と枯草ばかりなんです」
「むしろ岩山の上はどうでしょう、今日は天気も良いですし」
ジュノンの提案を採用した俺は青い瓢箪を手に砦の上階に登る。ノエラは皆の一番後ろから、しょんぼりとついて来る。
「僕、ここで瓢箪を奪い取ったんだ……でも目の前にはまだゴールドが居て、僕もギリギリだったから、ウサジ……ウサジさんに早く出て来てもらいたかったんだけど……ウサジさん、なかなか出て来なくて」
何かブツブツ言ってるノエラを無視して、俺は窓から這い出る。砦は岩山の山肌に造られていて、頂上はもう少し先にあった。
「ああ、意外といい所ですね」
岩山の上は割と平らになっていて、乾燥に強い木が何本か生えていた。空が広い……周囲のまばらな林、赤茶けた草の野原が見渡せる、いい場所だ。
「皆さん、今から出て来る子はちょっと口が悪くてひねくれていますが、どうか許してあげて下さい。人間達に何度も騙され、逆恨みまでされて、そんな風になってしまったのです……とりあえず何を言われてもニコニコしていて下さい」
本当の所は知らないけどね……俺は青い瓢箪の口を開け、中に向かって叫ぶ。
「カリン、出て来なさい!」
しかし。反応が無い。
「お前だよ狐っ子のロリババァ、お前の名前はカリンだ、俺の声を忘れたのか! 返事をしろ、カリン!」
次の瞬間、青い瓢箪の口からつむじ風が吹き出し、俺は危うくそれを落としそうになった。つむじ風は砂塵を巻き上げて岩の上に降り、10歳くらいの、狐の尻尾と耳のある女の子へと変化した……
「まぶしい……見えない」
間違いない、あの狐っ子だ。こいつの名前はカリン、ヴェロニクの本来の聖域でチケット切りのような仕事をしていたと思われる……神獣だ。
カリンはただ蹲っていた。長い長い間暗闇に居たのだ、無理も無い。俺も出て来てすぐは周りが見えなかったっけ。
しばらく待つとカリンはようやく顔を上げる。そして俺の方を見る。俺は周りの仲間達をちらりと見回す。良かった。皆言われた通り微笑んでいる……ノエラだけちょっと、微笑んでいるというよりは頬が引き攣っているようだが。
そしてカリンは何も言わない。ああ、やっぱり人間不信なんだな。面倒臭い事にならなきゃいいんだが……そして明るい場所で見るとこれも大変な美少女だなぁ、黙ってさえいれば。
俺がそんな事を考えている間に、カリンの瞳から冗談のような量の涙が溢れ出す。鼻からも、口からも……あっ、これ違う角度で面倒臭い事になるやつだ。
「ひ゛ぃや あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛!!」
「きゃっ!?」「ひっ……」
辺りの空気が、振動する。岩山から岩山へと伝わった音波が世界を震わせながら反響する。
俺が生まれてからこれまで、一度も聞いた事がないような爆音でカリンは泣きだした。そしてよろめきながら俺めがけて突進して来る、正直俺は避けてしまいたかったが、さすがにそれは児童虐待かと思い立ちすくむ。
―― ドスン!
「びゃああああああ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ、びぃやああああああ!!」
カリンは俺に体当たりし、しがみつき、さらに俺の体によじ登って来る、危ないッ! 俺は思わず尻餅をつく。カリンはさらに足まで俺の胴体に絡ませて、耳と言わず頬と言わず俺の胸に、首に、顔に押し付けて来る!
「ごでんだざぁぁい、ぶわっ、ぶわっ、びぃやあああああ! ざこざこ行ってごえんざさい、悪いごど言っでごえんらざい、ダイズギ、うザジ、うサジだいずぎ、だいずぎ、ぶえっ、ぶえっ、ぶえやあああああ!」
あとこの狐っ子本当にぼろぼろの羽織一枚しか着ていない、マジで、だからよく見たらちょっと膨らんでるかなーという胸元も見えてしまうし足なんか完全に生足で靴も履いてない、いやいやだからってこんなガキ、だけど子供の肌のきめの細かさというのは半端無い、そしてそんなに全身全霊かけてすり寄られたら……
バカー!! 有り得ない、やめろ有り得ないふざけんな俺のビッグホーン! 無い! 今立ち上がるのは無い!! ふざけんなお前今度こそマジ去勢すんぞ、俺がやらなくても世間がやるぞ、切れ味の悪いピンキングばさみで麻酔もかけずにぶち切られるぞ!?
「ねえ……ウサジ」
誰かがつぶやく……いつかのヴェロニクにも似たような声……誰が喋ってるのこれ? こんな声の奴、パーティに居たっけ……?
「その女、だれ……?」
声の主は、ノエラだった。