0123 知ってる? 空を飛ぶ夢ってエッチしたい欲求が高まってる時に見るらしいよ
俺とヴェロニクは恋人繋ぎで手を結び、大きく体を広げる……この世界ではそれだけで、自由に空を飛べるようだ。
振り向けば高い空にはまるで巨大な宇宙船のように、俺のHDDが浮かんでいる。
浮島は色鮮やかで明るい木々に覆われていた。草も木も様々な花をつけている。
生き物の姿もある。小鳥が梢に舞い降りて、ひとしきり美しい声で囀り、また飛び立つ。
俺はヴェロニクの力で飛んでいるのだと思うんだけど、ヴェロニクは行き先を完全に俺に任せてくれていた。俺は気の向くままに向きを変えながら、豊かな森の上空を飛んで行く……すげえ。何かのファンタジーみたいだ。
ん……? 何かの見間違いか……見間違いじゃない! なんだあれ、湖の畔に、歩き始めたばかり赤ん坊みたいなのが大勢居る、俺は慌ててそちらに飛んで行く……周りに大人の姿はない、どうしたんだこの子供達は?
子供達は俺、いやヴェロニクの姿を見つけると、笑って手を振る……何だろう、この子達は別に育児放棄されてるとか、そういう事案ではないような気もする。
ああ……いつかのラガーリンの子供達みたいな、転生待ちの魂なのかな?
「あの子達……私が居ない間ずっとここに居たのね……」
ヴェロニクが涙声で呟く。
「思い出したんですか! ヴェロニク様!」
「少しだけ……そうよ……ここが私の住まいよ……!」
少し後ろめたい気もしたが、俺は子供達に手を振り、ヴェロニクの手を引いてこの場を離れる。ジュノンに余計な事頼んじゃったんだよなあ。こんな事になるとは思ってなかったし。
俺達は再び高度を上げて、山の周りを巡る。山にはよく整備された登山道のようなものがあり、所々には石造りの東屋の姿もある。小さな子供達はそんな所にも居た。
緩やかな谷間からはせせらぎの音が聞こえる。キラキラと輝く透明な水が流れ、その先は庭園になっていて……
「きゃああ!?」
その時突然ヴェロニクが叫ぶ。そして術が途切れたのか、俺の体はふんわりと高度を下げ始める……しかしそれは一瞬の事で、俺は再び自由に高度を上げられるようになったが。
「どうしたんですか? ヴェロニク様」
「そっちはやめましょう、向こうに行きましょ、ね!?」
さっきまで俺の気の向くままに飛ばせてくれていたヴェロニクが、俺が庭園の方に行くのを嫌がりだす。もしかして。
「ちょっと行ってみましょう」
「待って、待って!」
「あっ! ヴェロニク様、ここがあの水浴び場ですね!」
庭園には美しい大理石で作られた沐浴場があった。女神の魔法陣に描かれていたのはこの場所に違いない、
「ここはいいの、いいから!」
「ヴェロニク様、落ち着いたらまたここで水浴びをしましょう」
ヴェロニクにポカポカ叩かれながら、俺はまたそこを離れる。今度は島の縁の方に行ってみよう……どうなってるんだろ?
俺は川の流れに沿って飛んでみる。途中には先程とは別の湖や池があり、木造の東屋などが点在している……ああ、島の縁も見えて来た。そこには、子供が乗り越えて落ちない程度の石の柵が立っている……うん?
「ヴェロニク様、あれはなんでしょう」
そんな外周の柵の一角に、大きな門のある場所がある。遠目には遊園地の入場ゲートのように見えるが。
「入り口……みたい」
俺とヴェロニクはその門の内側の広場に降りてみる。近くで見る門は遊園地の入場ゲートそのものだった。
それから、ゲートの横にはカラフルな木造の小屋があった。俺は一応、扉をノックしてみる。
「誰か居ませんか」
俺が扉を開けると、中の提灯やらランプやらが一斉に点灯する……提灯……そうだ! ヴェロニクにもあれを聞いてみないと!
「そうですヴェロニク様、狐の耳のついた10歳くらいの女の子の事を何か知りませんか!? 魔族の瓢箪の中に閉じ込められていて、ヴェロニク様の事を知ってたんです、外見は、ええと、ええ」
俺は壁に貼られていた一枚の絵に目を留める。絵には、小学校高学年くらいの画力で二人の女の子が描かれている。その一人は間違いなくヴェロニクで、もう一人は間違いなくあの狐っ子だ。仲良く手をつないで笑ってる……
「あんな感じの子です!」
俺は絵を指差してヴェロニクの方に振り向く。
しかし、ヴェロニクは足元から崩れ落ちて膝をつき、大粒の涙をぽろぽろこぼし、慟哭して……掌に顔を埋めてしまった。
部屋の真ん中には可愛らしいテーブルと椅子があり、お茶を煎れるような準備がそのまま残っていた。おままごとに使うような小さなポットが一つ、それから可愛い皿に乗せられた小さなカップが二つ。カップの一つには綺麗な字でヴェロニクと。もう一つには雑な字で……カリン。そう書かれていた。
「何故……どうして私、今の今まで思い出せなかったの……酷い……酷いわ私……」
「仕方ないですヴェロニク様、まだ二百年前に何が起こったか解っていないんです、どうか今はご自分を責めるのはやめて下さい」
見回せば、周りに散らばっているクレヨンの箱、スケッチブック、部屋の隅にまとめられているバケツと箒とモップ、玄関先の傘、色んな物に……カリンという名前が書かれている。
馬鹿だなぁ、あいつ。こんなに小まめに自分の持ち物に名前を書く奴なのに、その名前を忘れちまうなんて事あるのかね?
「カリンは……カリンはどこに居るの!? 貴方はカリンに会ったのウサジ!?」
ヴェロニクはぼろ泣きしながら俺の腰にすがりついて来る。しかし。
「ああっしまった、時間ですヴェロニク様、ごめんなさいまた来ま」
ジュノンに起こされ、俺の体は多分そこから消えた。
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