0120 んでどうしようこのいい感じの荒縄、代わりにこいつでも縛ってみようか?
夜半を過ぎても、ノエラが起きる気配は無かった。まあ一週間ろくに寝てないんじゃ仕方ないね。
俺は眠る訳にはいかないので、ひたすらその辺りを歩き回って過ごす。しかしモンスターの気配は無い。
いい感じのロープは近くの部屋から見つかった。くそ。これが先に見つかっていれば、ゴールドちゃんを縛り上げてあんな事やこんな事をしたのに。したいなあ、Fカップのダークエルフの女の子を縛り上げて、あんな事やこんな事。
ノエラが何て言うか? 仕方ないじゃん正義の為だもん、悪の女幹部のゴールドから情報を聞き出す為だよ、魔王の事とか、色々ね。
……
あの狐っ子の名前。
俺はこの世界に来てからそれ程時間が経っていないのだが、獣の耳がついた女の子というのはあの子以外に見た事がない。つまり、あの子はこの世界でも珍しい存在なのだと思う。それなら誰かが名前を知っている可能性はないか? どこかに名前が残っている可能性はないか?
―― アタシが興味あるのはねえ、ここに堕ちて来た奴がどう足掻いて、どんな最期を迎えるか、それだけさ
―― どうしてこんな事になっちまったんだい! ヴェロニク様はどこへ行ったんだ、人々は何故ヴェロニク様の名前を忘れてしまったんだい!?
―― お前と同じようにここに堕ちて来た者共に、何度そう言って裏切られたか解らん……
―― お前まで出れなくなるよ! 放せ、放すんだよウサジ! 嫌だよ! 仲間が迎えに来たんだろう、お前は外へ行け!
最初は因業ババァのような事を言っていた狐っ子。だけど最後は諦めの悪い俺を外に逃がす為、自ら俺の腕を抜け出して瓢箪の底に墜ちて行った。
瓢箪に閉じ込められた上、何度も人間に裏切られ、逆恨みされ……もっと壊れていてもおかしくないよなあ、あいつ。それなのに見ず知らずの俺の事を心配してくれたのだ。
やっぱりゴールドを簡単に逃がすべきじゃなかったか? 他に一つもヒントが無いのに、軽率だっただろうか。
◇◇◇
東の空が白む。とうとう俺は徹夜してしまった。まあ、言う程眠くなかったというのもあるんだけど。
「う……ん……」
ノエラもようやく、二、三度もぞもぞと動き、瞳を開く。その時たまたま俺は竈に薪をくべている所、つまりノエラの近くに居た。
「おはよう、ノエラさん」
「……ウサジ!」
ノエラは慌てて跳ね起き、顔を赤らめる。
「おはよう、おはようウサジ、どうしよう起きたらやっぱりまだすぐ側にウサジが居て、僕におはようって言ってる、もしかして僕、幸せ過ぎて死んじゃうの!?」
「何を言ってるのか解りませんけど、その時は教会に連れて行って蘇生させてあげますよ……」
そういや俺めっちゃレベル高いそうりょになったんだけど、まだ蘇生魔法使えないの? あるんでしょこの世界には。俺自身、何度か掛けてもらった事あるし。
とにかく、ノエラは元気に起き上がり、ぴょんぴょん跳ね回る。寝起きなのにテンションの高いこと。
「今日こそ洗濯をしなきゃ! それから体を拭いて、髪の毛も洗ってスッキリしよう、そうだ、ウサジも一緒に水浴びしようよ!」
ノエラが満面に笑みを浮かべ、俺に両手を差し伸べた、その時。
「ウサジさん!」「ウサジさぁぁん!」「ウサジ様ぁ!」
砦の廊下の方からクレール、ラシェル、ジュノンが現れ、こちらに駆け寄って来た。
「良かった、助かったんですねウサジさん、凄いですノエラさん」
「さっすがノエラ、見事に瓢箪を奪ったのね! やったわー!」
「ノエラさん洗濯でしたら僕にお任せ下さい、水浴びのご用意も承ります!」
ノエラは笑顔を引きつらせて応える。
「あ……ありがとう、みんな……」
◇◇◇
別の部屋での水浴びを終え、洗い替えの付き人ジャージに着替えたノエラは、しっかりと極太カモメ眉毛を描き直された姿で戻って来た。
「ああ、スッキリした……」
そんな台詞と裏腹に、ノエラの周りには埃っぽいどんよりとした空気が漂っているように見える。こいつ明らかにさっきまでの方が綺麗だったわ。