0118 無料のおっぱいを見逃すとはなあ。俺も焼きが回ったかなぁ。無料なのになぁ
ヴェロニクの祝福も一週間分の睡眠の代わりにはならなかったらしい。ノエラは俺の膝枕で爆睡していた。俺は出来れば毛布でも掛けてやりたかったが、そんな物ここには無いので、代わりに着ていたぬののふくを掛けておく。
暫くの間は、何も起こらなかった。
「う、うう」
やがて、壁際に倒れていたゴールドが呻き声を上げ始める。
「おっと姉ちゃん気をつけな、敵はまだ近くに居るぜ」
それを聞いたゴールドは身を捻って素早く立ち上がろうとしたが……足をもつれさせ、無様に転倒してしまう。
「うぐ……あああ!」
魔力も体力も尽きているのか、回復呪文を知らないのか……ゴールドは這いつくばったまま、敵意に歪んだ面をこちらに向けた。
「お、おのれ弱き者が……」
俺はただノエラに膝枕をしたまま、そちらを見る。上半身はシャツ一枚しか着てないから、ちょっと寒いんだよねー。
「足でも折れてるんじゃねえのか? 無理すんなよ」
「ふざけるな! 貴様など……我が力が戻れば一捻りにしてやるというのに……!」
手足でも縛っておけば良かったのかもしれないが、縄なんて物は都合よく落ちてはいない。ここが砦なら探せばあるのかもしれないが、今はノエラに膝枕を貸し続けたい気持ちの方が優勢だったので、俺は探さなかった。
さて……一応聞いてみるか。俺はノエラが奪い取っていた青い瓢箪をちらつかせる。
「姉ちゃんよ、今こいつに吸い込まれている連中の名前を教えてくれるつもりはないか? 例えば……人間とか、犬とか。教えてくれたらその足に治療魔法を掛けてやるよ」
「なっ……!」
ゴールドは苦痛と憎悪に顔を歪め、ますます敵意に満ちた目でこちらを睨む。
「いいじゃねえか。取り引きだよ、取り引き」
「お断りだ……例えそんなものを知っていたとしても、貴様に教えるくらいなら、私は死を選ぶ」
ああ、そう……まあそうだろうと思ったよ。
だけどあの狐っ子をこの瓢箪から救うには、どうしても彼女の名前を知らなきゃならねえんだわ。
狐っ子の言ってる雰囲気だと、この瓢箪の持ち主は今までにも何度も変わっていて、ゴールドもあの子の事はマジで知らないっぽいんだけどね。
だけどワンチャン可能性があるなら、それを潰してはならない。
「そうか。じゃあ気が変わった」
俺は右手をかざし、ゴールドに遠隔でしゅくふくを放つ。念のためパワーは最小限でお願いします、そう、そのくらい。
「ひッ……!」
ゴールドは俺の手から放たれた光を攻撃魔法だと思ったのか、身を固くして目を瞑るが……やがて自分の足が楽になっている事に気づき、顔を上げる。へー、しゅくふくって魔族にも効くんだあ。
「何の真似だ……何の真似だ弱き者風情が! 魔族にとってこれ以上の屈辱は無い、貴様なんぞがこの私に情けをかけたつもりか!? 許さん、許さんぞォ!」
ゴールドは今度こそ立ち上がり、俺を指差して吼える。
「うるさいなあ。見て解んないの? 今いいとこなんだよ」
俺は眠っているノエラを胸に抱き寄せ、いい子いい子と頭を撫でる。
「歩けるようになったんなら消えてくんない? 邪魔だから」
ゴールドの頬が、怒りに痙攣する。
「その女……その女は悪魔のようだった! 昼夜を問わず追いすがり二言目にはウサジウサジと、ああもうその面と声は二度と御免だ……だがウサジ、貴様には必ず、必ず後悔させてやる、この私に人間の分際で情けを掛けてしまった事を!」
「情けなんて掛けてねえよ、早くどっか行けよ」
あと後悔はめちゃくちゃしてる。何故俺はゴールドちゃんのおっぱいを揉んでおかなかったのか? あのFカップぴちぴちボディスーツのおっぱいが、ついさっきまで揉み放題だったのに……ゴールドちゃん、もう一度気絶してくれないかなあ。揉みたかったなあ、Fカップのおっぱい。
「このままにはしない……ウサジ! 貴様はいつか必ずこのゴールドが殺す!」
「お前、もうちょっと妹と仲良くしろよな」
「や……やかましいッ!」
ゴールドが去って、辺りは本当に静かになった。
この場所はシャツ一枚では少々肌寒いのだが、ノエラを胸に抱えて上からぬののふくを掛けていたら、だいぶ暖かい。
そしてノエラの穏やかな寝息を聞いていたら、俺も少しだけ眠くなって来た。このままヴェロニクに会いに行くか……
いやいや、さすがに俺まで眠る訳には行かないだろ、ノエラも青い瓢箪も、しっかり守らないといけないからな。