0117 ハッピバスデー俺~ ハッピバスデ~俺~ ハッピバースデー俺のちーんちーん
眩しい光が俺を包む……暗闇に慣れきった俺の目には、下界の光景は眩し過ぎる……
「ウサジー!!」
むおっ!? 何か温かくて柔らかい物がぶつかって来た!? 俺の目は眩んでいて何も見えないけど……これはまあ、ノエラだろうな。ああノエラだ……ノエラが酷い怪我をしている!
「しゅくふく!」
俺はただちに呪文を唱える、うおおっ!? 瀕死の高レベル戦士デッカーに撃った時よりもさらに強い光が俺の腕から溢れる、どんだけダメージ受けてたんだノエラ……
更に眩しい光のせいでまた周りが見えなくなった俺は、ノエラに抱き着かれたまま、しばらく目が慣れるのを待つ。いつまでくっついてるんだこいつは、そろそろ笑わせた方がいいのか?
ああ、やっと目が見えて来た。
「ウサジ……!」
ひええっ!? 誰なのこの潤んだ瞳で俺を見上げるちょっぴりボーイッシュでめちゃくちゃ可愛いんだけど何故かちょっといじめたくもなる魔性の魅力を持った美少女は!?
「本当にウサジだ……ひっ……良かった……良かったぁ、うぇっ……」
ああ……これは激闘に次ぐ激闘ですっかりメイクが落ちてしまったノエラだ。良く見れば、極太カモメ眉毛もうっすらと残っているじゃないか。
あっ、そういえばジュノンがポケットにハンカチを入れていてくれてたような……あった。俺はそれでノエラの顔を拭いてみる……おおお、復活だ! 見ろ、俺の高性能センサーもたちまち反応している!
「そんなに泣かないで下さい」
俺は色々ごまかす為、そう言ってノエラの瞳から目を逸らす。ノエラは涙を拭いて貰ったと思っているかもしれない。
ここは見覚えの無い、広く殺風景な部屋だった。高い所にあるらしく、大きな吹き抜けの窓の外には入り組んだ山と木々が織りなす、雄大な景色が広がっている。
「仲間達は?」
「あの……ウサジさんが気づいてるか解らないけど、あれからもう一週間経ってるんだ」
何だって!? 俺の体感では数時間だったが……そんな事も起きているのか、あの中では。ていうか俺は一週間ヴェロニクをほったらかしていたのか? 大丈夫なのかそれは……?
「その間僕、ずっと逃げたゴールドを追い掛けて……昼も夜も……それでやっと今ここに追い詰めて倒したんです」
ここは山肌に造られた砦の最上階といった所だろうか。見回せばゴールドが、部屋の隅で黒目を剥いて倒れている。
「その間、魔族達の妨害を掻い潜ったり、魔族の奴隷にされていた人達を助けたりしてるうちに、仲間達とはすっかりはぐれちゃって……ごめんなさい……だけど」
周りはとても静かだ……ここは大きな砦のようだが、他にはもう誰も居ないのだろうか。モンスターも魔族も、全部ノエラが倒したのか。
「僕、本当に頑張ったんだよ。ウサジに……ウサジさんに会いたくて、会いたくて……」
「ウサジでいいですよ、ノエラさん」
「だったら僕の事も……ううん。僕は面倒臭い事は言わない子です。ウサジさんに言われた通りにします。だから……」
ノエラが俺の背けた顔の正面に回り込んで来る。
「御願いします。今回だけは、何かご褒美を下さい」
俺の頭の中の群衆が、一斉に武器を取って蜂起する! やれーやっちまええ押し倒してひっぺがしてぶち込んでしまえ! こいつもそれが望みなんだルルォお!? 溜まりに溜まった特別なご褒美を身体の奥底にぶちまけて欲しいんだルルォオ!!
オラ行け押し倒せひっぺがせ、やーれ、やーれ、やーれ、やーれ、やーれ、やーれ、やーれ、やーれ、
「この世界も皆さんも、そしてノエラさんも大好きです」
俺はそう言ってノエラの前髪を上げ、額に軽く唇で触れる。そして頭を撫でながら、胸の内に抱き寄せる。
「もうずっとあの真っ暗な瓢箪の中に居なきゃならないのかと思いましたよ……外に出して貰えて本当に良かった。ありがとうノエラ」
いや……いいと思うんだけどね、ノエラに次の勇者を産んで貰って人類側戦力を一人増やすというのもね。だけど今は間が悪いわ、一週間放置されたヴェロニクがどうなってるか解んないでしょ? とりま、しゅくふくは使わせて貰えるみたいだけど。
それに、この美しい景色を見せてやりたい奴がもう一人居る。ヴェロニクは世界を見捨ててなんかいないし、世界が闇に染まるのを黙って見過ごしたりはしない。
さて。仲間ともなるべく早く合流したいし、何から始めようか。
「さあ、もういいでしょうノエラさん」
俺はノエラから手を離すが、ノエラは俺の胸に顔を埋めたまま動かない。
「ノエラさん、やらなきゃいけない事がたくさんありますから」
俺はそう口に出してから、ふと違和感を覚える。
ノエラは丸一週間ゴールドを追い掛けていたのか? いやいやまさか……さっき見た時も目の下に隈とか無かったし、いつもの健康そうなノエラだったぞ。いや……それはフルパワーでしゅくふくを掛けてしまったからかもしれない。
一週間、昼も夜も……不眠不休でゴールドを追い掛けるノエラ……
背中を、ヒヤリとしたものが伝う。
「あの、ノエラさん……?」
俺は恐る恐るノエラの顔を覗き込む。
「ノエラさん……ノエラ!? どうしたノエラ!」
ノエラは顔を真っ赤にして片方の鼻から鼻血を垂らし、目を回して気絶していた。