0011 俺の高射砲は0.7秒で仰角80度まで上昇する
落ち着いたか……やれやれ……
それでどうしよう?少なくとも俺には全く何も出来ないので、何とかまずクレールにこの状況を脱してもらわないと……クレール……女戦士なんかやってるくせに、胸元から見える肌は、めっちゃきめ細かくて綺麗だ……しまったああ!!
迫り来る敵機を迎撃しようと、俺の高射砲が速やかに仰角を上げて行き……何かに当たった……
俺は必死に尻を壁面に押し付ける。下がれッ! 下がれッ!! 殺される! 気づかれたら殺されるッ!
ふう、だが何とか撤退出来た……
はうああ!?
俺が限界まで腰を引いたせいで、もう少し前に出ても大丈夫と思ったんだろう……クレールの身体が前進して来る!
駄目だッ! 発進俺のケツ! 壁面を掘って進めッ! 早くッ! 壁面を大臀筋で抉って穴を掘って進むのだ! って出来る訳あるかい!!
「クレールさん、そんなに押さないでください、足元が滑りますから……」
俺は正攻法で御願いしてみた。
「こっちもギリギリなんだ……我慢してくれ……」
クレールがどんな顔をしているかは全く見えない……その……冷静な物言いがかえって怖い……助かったら助かったで溜め無しでゴーカイ侍斬りを浴びせて来そうだ……
どんな顔をしてるか解らないけど……
頬と頬があの……
こすれ合ってるんですが……
凛々しい女戦士も……ここはとっても柔らかいんだな……
駄目だ考えるなッ!! あああ俺の高射砲の仰角が! 仰角が!!
「クレール! ウサジ! 大丈夫! 5m下は川だし結構深いよ!」
ノエラが下の方から叫んだ……なんだよ! やれやれ、助かった……
助かったのかな……? 助かったんだよな? 折角助かったのに俺を斬ったりしないよなあ? なあ?
「大丈夫! 飛んで!」
「ノエラ、私は胸甲を着ているから沈んでしまう、剣も重いし泳げない」
「浅瀬もたくさんあるし流れも緩いから! 平気だから!」
「ウサジ、先に飛んでくれないか」
「私……全く動けないんですけど……」
「……ノエラ、他に方法は無いか探してくれないか」
「大丈夫だってば! クレール! 後ろにちょっとだけ飛んで!」
「無理だ」
あれ、これって……まさかな?
まさか……クレール……この状況を続けたいって思ってたりして……?
いやいやまさか。まさかな……
でも、そうだな……もしかしたら、このあと斬り殺されるかもしれないんだ。今ある人生を少しでも楽しんでおこうか。
俺はもう一度クレールの腰に手を添え、顔をぎりぎり、クレールの方に向ける。
「大丈夫、ノエラを信じて」
クレールもこちらに顔を向けた……って……俺ら顔近すぎない? 唇もあと5cmくらいなんだけど……
「お」れの事も信じて
そう言おうとした瞬間。俺の意識は消えた。
後から聞いたら上からいい感じの岩石が落ちて来て、俺の脳天にクリーンヒットしたらしい。
俺はノエラの蘇生魔法で目を覚ました。
「いやー、死ぬかと思いました」
「ウサジさん一度死にましたよ」ラシェル。
そしてどれ程責められるかと思いきや……
クレールは崖の上での出来事について一切言わなかった。
やがて道は峠を越え、下り坂になる……遠くの森の中に砦が見える……あれが次の目的地か。そんな景色を眺めていると、クレールが叫んだ。
「クマーモスだ! 気をつけろ! 空から攻撃して来る!」
可愛いピンクの小さなクマちゃんに蛾みたいな羽根が生えたモンスター、クマーモスが襲って来た。ヒラヒラ飛び回るから全体魔法を掛けにくいかもな……
俺がそんな事を思っていた次の瞬間!
「くっ!」
「ぐひゅわぅああ!?」
横に移動して来たクレールと、少しぼんやりしていた俺は激しく接触し、絡み合って転倒してしまった!
「大丈夫! 僕がやる!」
絡み合って転んだ俺達を飛び越え、ノエラがクマーモスを二匹、三匹とまとめて吹っ飛ばして行く……
「す、すみませんクレールさん!」
俺は慌てて謝りながら身体を離そうとするが、クレールも同時に動こうとするので、絡み合った腕が、足が、なかなか解けない……あっ……また横乳に触ってしまったッ……や……柔らかい……って! 戦闘中だぞ! 今はよすんだジョニー! 鎮まれ!
「戦闘中にはよくある事だ、気にするな」
ようやく身体が離れると、クレールはそう言った。クマーモスはまだ少し残っていたが、別に手強い敵ではなかったようで、ノエラとラシェルが速やかに片付けてしまった。