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0109 俺のロケットに乗りなよ! 駅弁スタイルで月まで連れてってやるぜ?

 ゴールドは腕組みをして薄笑いを浮かべている……しかし、あまり機嫌がいいようには見えない。


「私の妹のシルバーは、必ずヴェロニクの使徒とその子分共の首を持って帰ると大見得おおみえを切って出掛けて行ったんだよ? それが雑兵の首一つ提げず手ぶらで、半べそかいて戻って来る訳がないじゃないか。アッハッハ! お前達。とっととこのニセシルバーを追っ払いな」


 トカゲ兵達は少しの間顔を見合わせていたが、ゴールドの顔から嘲笑ちょうしょうの笑みが消えるのを見ると、慌ててシルバーを取り囲み、槍の柄で城門の外へと押し出して行く。シルバーは抵抗するが、単純な力では四人のトカゲ兵にはかなわないらしい。


「待ってくれ姉貴! 頼む、話を聞いてくれ!」

「聞きたくないね! 何一つ聞きたくないよ、アンタが本物のシルバーだってんなら、今すぐ引き返してヴェロニクの使徒の首を取って来な! それとも何だ、倒せないから紅瓢べにひさごの中に吸い込んで来たというのかい? 全くなんてザマだ……私が片付けてやるから、早くその紅瓢べにひさごを出しな」


 シルバーちゃんはそれを聞き、わなわなと震えていたが。やがて意を決したのか、地面にいつくばる。


「……紅瓢べにひさごを……紅瓢べにひさごを奪われた!」

「なんだって? よく聞こえなかったね。アンタまさか今、紅瓢べにひさごを奪われたとか言ったんじゃないだろうねぇ? 誰に? 他の魔族にかい? それとも……」

「すまない、本当にすまない、ヴェロニクの使徒は必ずアタシが殺す、だから姉貴は」


 しかしシルバーはその先を言わせて貰えなかった。ゴールドがシルバーの顔を無理やり引き起こし、強烈な平手打ちを喰らわせたのだ。


「有り得ないクソが! ふざけんな、そんな最低のクソ無能の泣き虫のゴミが、言うに事欠いてこの私の事を何と呼んだ!? 姉貴だと!?」


 ああっ、地面に転がったシルバーをゴールドは追い掛けて、さんざんに蹴りつける……! やめてぇ、そんなに痛くしないであげてぇ!


「すまねェ……すまねェ……!」

「めそめそ泣くなっつってんだよ殺すぞ魔族のクソ恥さらしが! 私の気が変わらないうちに失せやがれ、ヴェロニクの使徒の首を取るまで、そのつら見せるんじゃねぇ!」


 トカゲ兵の一人がゴールドに近づき、小声で何か言っている……さすがにこれは俺には聞こえない。


「黙れ! こいつは紅瓢べにひさごを敵に、ヴェロニクの使徒に奪われた挙句、その使い方も教えちまったんだよ! そうだろう()()()()!? いいかお前ら。紅瓢べにひさごが私の手に戻るまで、本名で呼び合うのは絶対に禁止だよ……! 私の事もしばらくは楼主様と呼びな」



 ゴールドは最後にシルバーに唾まで吐きかけて、城壁の中に戻って行った。想像はしていたけど、鬼娘ってこわーい……まあ、俺のサターンⅤロケットにはそんな事関係ないけどね。


 シルバーはよろめきながら立ち上がり、顔を腕で拭う……泣いてるってのは本当なのか。チラッと見えたけど今メイクもしてないのな、すっぴんも中々可愛いじゃないか、小悪魔的で。

 トカゲ兵共も冷たいもんだ。手を貸そうともしない。やっぱり冷血動物だな、ありゃ……まあ下等魔族なんて言われたら仕方ねえか。じゃああの赤い肌の連中が上級魔族なのかね。

 アスタロウもその一人なのか? あいつはさらに翼が生えてるようだが。シルバーやゴールド、他の魔族兵達には翼は無かった。

 しかしシルバーもゴールドも全然アスタロウの話をしないなー。あいつ俺に襲われてたシルバーを間一髪助け出したヒーローだぞ。

 あいつが来なかったら俺普通にシルバーちゃんを食べてた。そして十月十日もすれば半人半魔の赤ん坊が誕生してたんじゃないかな、うん。

 少しはあの間抜けヒーローの事も心配してやれよ、全く。


 町に入れて貰えなかったシルバーは、どこかの森の中へと走り去って行った。



紅瓢べにひさごって言うらしいですね、この瓢箪ひょうたん。我々がこれを持っているという事は敵にバレてしまいましたが、この場所を見つける事が出来た収穫の方が大きいと思います」


 どうせ俺、あの姉妹とアスタロウの他には名前知らないしなあ。


「あの、ウサジ様、ここまでの収穫を報告する為に、一度ヴェロニカの方に戻るというのは駄目ですか?」


 ジュノンが小さく手を挙げ、そう提案して来た。一理ある。俺達は今までに無い成果を挙げているし、知り得た情報は人類陣営で共有されるべきだ。特にアスタロウという捕虜ほりょはどんな役に立つかも解らん……ラシェル謹製きんせいの自白剤とセットで。


 だけど……それも何か、ロマンの無い話だよね、俺はついさっきゴールドちゃんにロマンティックあげるよと誓ったばかりなのに。


 俺達は魔族の秘密の前哨基地の目の前に居る。この場は黙って町に戻り、国王などにここの存在を告げ軍に対応して貰う、そういう手もある。

 だけど魔族側はもう俺達が近くに居る事も、紅瓢べにひさごという厄介な秘宝を持っている事も知っていて、これから対策を打って来るだろう。俺達と戦った事のある魔族兵もここに撤退して来ていたのなら猶更なおさらだ。


 何というか……今しか出来ない事が、何かあるような気もするんだよな。

 そして俺達には、きっとそれが出来る。

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
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