0107 拙者「いやじゃ人間の子など孕みとうない」って一度言われてみたい侍
その夜。俺は例の瓢箪を手に一人、森の中を行く。このへんでいいかなあ。
周りには誰も居ない……俺と、虫の声だけだ。
俺は瓢箪の口を閉じている木の栓を抜く。そしてその入り口に向かって囁く。
「シルバーちゃん? 聞いてたら返事をしろよ」
たちまち。瓢箪の口からつむじ風が巻き起こり……その中から、よく筋肉を鍛えながらEカップも維持してる鬼娘、赤い肌にブラにホットパンツの美魔族、シルバーちゃんが現れる。
「お……おのれササジ、弱き人間め、よくぞアタシの前に姿を現せたものだな、き、貴様などたちまち滅ぼしてやる、アタシを侮った自分の浅はかさ、地獄で呪うがいい!」
「とっとと失せろ」
「え……えっ……?」
再びこの世界に実体化した途端、勇ましく吼えるシルバーちゃん。だが俺は最初から彼女を相手にしてなかった。
「お前は女の子だから、見逃してやるって言ってんだよ。俺の仲間達に見つかる前に、どこへなり消えろ」
「ふ、ふざけんじゃないよ! アンタみたいな人間が、弱き者がいくら束になろうとアタシに敵う訳がないだろ、まとめて捻り潰されたくなければ」
面倒なので、俺はシルバーの首を掴み木の幹に押し付ける。
「ひっ……あぐっ……」
「冗談は終わりだ」
唇が触れそうなぐらい顔を近づけ、俺は低い声でそう言う。あんまりこんな事したくないけどさあ、とにかく逃げてもらわないと困るのよこっちも。
俺はシルバーから顔を離し……いやいや、こういうのはちゃんとやらなきゃ。俺は彼女の腕も掴んで、地面に叩きつけるように転倒させる。
「ぐっ……」
「消えろ」
ごめんね、痛くなかった?
シルバーは飛び退いて立ち上がる。俺は湯船に落ちていた鋸のような曲刀を投げつけてやる。それはドサリと音を立てて、シルバーの足元に横たわる。
刀を拾い上げたシルバーは敵意に燃えた目で俺を睨む……俺はひのきのぼうも持っていないし今はぬののふくも着ている……今度こそ、武器は何もありません。斬りかかって来たらちょっと面倒だな。
しかしシルバーは身を翻し、俺の居ない方へと走り出した。そうそう、それでいい。いや立ち止まって振り返った、いいから行けっつーの。良かった、また走り出した。
隠れていた仲間達が、後ろからやって来る。
「さあ彼女を尾行しますよ。魔族の次の隠れ家に案内してくれるといいんですが」
「ふふふっ、ウサジさんもワルですねぇ」
ラシェルが眼鏡を引き上げながら笑う……まあねえ。あれが人類の敵だって事くらいは俺も解ってんだよ。
「いいなあ。僕もウサジさんに木の幹に押し付けられてみたいなー」
「ウサジさぁん、わたしにもやって、今のやって、おねがい!」
「笑わせますよ?」
俺は絡みつくノエラとクレールを押し退け、ジュノンからひのきのぼうを受け取って、足音を忍ばせ、シルバーの後を追う。
◇◇◇
俺達は今では人類のものではなくなった野山を、シルバーを追って密かに進む。
朽ち果てた集落の跡などはあの村の他にもあった。水利の良い肥沃な土地なのに、過疎化で住む人が居ないとは勿体ねえ。
シルバーの尾行は意外と楽だった。
前の戦いでも思ったけど、魔族ってのはプライドの高い奴らなんだな。俺に完封されたのが余程悔しかったのか、シルバーちゃんは何度も立ち止まっては溜息をつき、肩を落とし、首を振る。
あーあ。やっちゃえば良かったなあ。ていうか何でやらなかったの? あの状況ならやっちゃっても罪には問われないよねー?
アスタロウが来てたからどの道ダメだった? いやいや、その後でも時間あったじゃん。ラシェルより先にシルバーを呼んでみたら良かったのよ。
なんなら別の場所に移動して、ちゃんと御布団敷いて、準備体操もしてからね。
そして聞くわけ。俺の仲間をどこへやったと。だけどプライドの高いシルバーちゃんは自分から白状する事は出来ないから、俺は仕方なく彼女を布団に押し倒して……ぐふ、ぐふ、ぐふふ……
しまった、今俺少し笑ってたかも。真面目な尾行中に笑うのはおかしいぞ、誰か今俺を見てたか? 大丈夫、ノエラとクレールは俺よりだいぶ前に居るし、ラシェルも俺より前に居る。
ジュノンは……俺の横に居て、俺の顔をちらちら見上げてるけど。
まあいいや。今の妄想には矛盾点があった。シルバーを瓢箪から出しておいて、仲間をどこへやった? は無いわ。どうすれば整合性が取れるだろう? 俺は彼方に見えるシルバーのホットパンツのお尻を見ながら考える。