0104 ありがとよマイボーイ、やっぱりお前は一番の味方さ。これからも宜しくな
それは、いいタイミングで出て来たとも言える。正直俺はこの状況にちょっと困っていた。
「貴様、シルバーに何を……何をしたァァ!」
「ばっ……馬鹿ッ……!」
女が二つミスをした。寝不足でボンヤリしていた俺の脳細胞も、それでようやく目を覚ました。一つ。女は俺の腕に抑えられながら、自分の身体から離れて浮かんでいた瓢箪を何とか掴もうとした。もう一つ、自分の名前をバラされて動揺してしまった。
俺は瓢箪に気づかないフリをしながら、シルバーちゃんを見下ろす。
「あいつの目の前で俺の女にしてやろうか? シルバーちゃん」
「い……嫌だ!」
俺は女の名前を呼ぶ瞬間に、そっと瓢箪に触れていた。直前の台詞のせいで俺の目からから視線を離せなくなっていた女はそれに気づかなかった。
「う……わあああああ!」
次の瞬間。女……シルバーの姿はゆらりと歪み、渦巻く煙のようなものへと変化して……瓢箪の中に吸い込まれてしまった。
―― ガァァン!!
そして俺は側頭部から強い衝撃を受けて吹っ飛ぶ! クッソ痛ぇ、多分飛び蹴りだと思うがまともに喰らっちまった、早く態勢を立て直したいが足元は湯船だ、一方、敵は空を飛ぶ事が出来る奴だ!
―― ドォォ!!
続く胸板近くへの攻撃を俺はどうにか腕を盾にして受け流す、しかしこいつは爪に長い刃物をつけているのだ、結構な血が流れる……どこだ、どこだアスタロウッ……まずい、見えない、
―― ガッ……!
三発目の、爪を立てて真っ直ぐ俺の顔面を狙って繰り出された突きを、俺は手首を捉えて受け止め、カウンターパンチを食わす……だが足元が悪く鋭いパンチが出せない!
間一髪、俺のカウンターを回避したアスタロウは、腕を蹴り払って飛び退き、上空へ逃れて構え直す。
「貴様はヴェロニクの使徒とやらではなかったのか! 貴様のような奴は正義などという愚にもつかぬ物を信奉し、紳士である事を旨として、欲望を我慢する事しか出来ない愚かな忍従生活をしているのではなかったのか! 貴様……か弱い若い女魔族に今、何をしていた! 答えろヴェロニクの使徒ウサジ!」
あ……悪魔っぽい奴が正義とかジェントルマンシップとか持ち出して来るんじゃねえよ……だけど一言も言い返せねえ。申し訳ありません、俺、シルバーちゃんに無理やりエッチしようとしてました。
だけど仕方なくない? 俺仲間四人も誘拐された挙句、裸で入浴してる所を刀で襲われたのよ? 反撃しようにも、武器はちんこしか無かったのよ?
俺は……瓢箪を手に、上空のアスタロウを真っ直ぐに見上げる。
「魔界の紳士、深遠なる者アスタロウよ。頼む、俺の言い訳を聞いてくれ」
俺は涼しげな眼で、そう言った。
「深遠なる者……? それは……俺の二つ名かウサジ!? あ……あァァァー!」
俺の問い掛けに答えてしまったアスタロウは、やはりつむじ風へと変化し瓢箪へと吸い込まれて消えた。
「はぁ……」
俺はまず、自分の姿を見る。全裸は仕方ねえけど、アスタロウの攻撃は痛かった。腕にはかなり深い切り傷が出来ている……俺は自分にしゅくふくを掛ける。
しゅくふく……腕の傷は僅かな傷跡を残して治った。100%完全には治さないのがヴェロニク流なのかな。人間、傷跡を見たら次は気をつけようって思うもんな。
これは名前を呼ばれ返事をした者を吸い込む、魔法の瓢箪らしい。
それで……仲間達はこの瓢箪に吸い込まれちまったってのか?
シルバーはジュノンに変身して現れた。あいつはそういう力を持つ魔族だったのだろう。
最初の婆さんはあいつだった。
それから山菜を採りに行ってクレールだけが戻って来た、だけど本物のクレールはもう吸い込まれてたんだ……シルバーはいつクレールの名前を知った?
それからクレールに化けたシルバーは俺達を温泉に連れて来た、そこは覚えている。ノエラとジュノンはお互いの名前を言ってしまったのだ。
その後何が起きたのかは解らないが、俺が暢気に風呂に入ってる間に、ノエラとジュノンが吸われ、何かで名前を知られたラシェルも吸われてしまった。しかしさすがは賢者、ラシェルは吸い込まれる直前に俺にヒントを残してくれた。
とにかく。どうするんだよ、この中に仲間達が吸いこまれてるなら、どうすりゃいいんだ、助ける方法はあるのか? ヴェロニクに聞きに行くか?
いや、まずは一番原始的な方法を試してみよう。
「ラシェル。ラシェルは居ますか、出て来なさい」
俺は瓢箪の入り口に向かってそう呼び掛けてみた。
―― ぷしゅぅぅぅう!
ヒエッ!? 瓢箪の入り口から風が吹いて! 中からつむじ風のようにラシェルが飛び出して来て、実体化した!
―― ドボーン!
あっ、しまった、ここまだ岩風呂だったわ。つーか俺全裸じゃんダメダメ! 俺は近くにあったたらいで俺のコモドドラゴンを隠す、待って下さいおまわりさん、わざとじゃないんです、俺はわざと少女に全裸を見せた訳では……!
「ウサジさん……ウサジさぁぁぁん!」
湯船の中から立ち上がったラシェルはいきなり俺に抱き着いて来た。
「良かった、無事で……勝ってくれたんですねウサジさん……! 怖かった……怖かったぁぁあ! ふえぇぇぇ」
ラシェルが……本気で泣いている。
まず……そうか、瓢箪に囚われた者は取り出す事が出来るのか。それも名前を呼ぶだけでいいんだな。
だけど所有者に名前を呼んで貰わない限り、中に閉じ込められた者は外に出れないのか。
「良かったぁぁ……ふえっ、ウサジさんが無事で良かったぁぁ……ふえっ……ウサジさん……ウサジさぁぁん」
やれやれ……陰謀系ゴスロリ女賢者も形無しだな、こうなると。だけど良く頑張ったな。自分が危ない時に他人に危険を伝えるなんて、簡単に出来る事じゃないよ、偉いな。怖かったなラシェル……俺はラシェルの頭を撫でてやる。
「ウサジさん……ん……」「ひいっ!?」
―― ドボーン!!
調子にのって乳首を舐めだしたラシェルを、俺は湯船にブン投げる。




